歩くのが嫌い【革命を起こしたいと君は言う……】
Bicycle Club編集部
- 2020年05月30日
INDEX
ウルトラミニ
以前に製作販売していた「ウルトラミニ」というモデルがある。ここ20年くらい製作されていないが、私がこの道に進み始めたころには見習いの仕事としては都合がよかったようで、競技フレーム製作の合間にたくさん製作した。
このシリーズ、いくつかのモデルが存在し10インチ、14インチ、後輪が大きなタイプや前輪駆動タイプまである。その時々でより優れたスタイルを模索しながら製作した記憶がある。
また一度に20台くらい製作し完成車状態まで作る。組み付けは私が一人で担当し、さまざまな治具を考案し、安価なモデルのため、とことん効率を追求した。むろんギアもなくシンプルなスタイルなので一度「流れ」が決まってしまえば一日に20台は組み付けできた。
私の師匠、今野仁の仕事スタイルは、同じ内容の仕事はある程度まとめて流れ作業でこなす。このウルトラミニも同じスタイルで進められ、私も効率やスピード感についていろいろ勉強できた。
誕生秘話
ウルトラミニは、私の発案ではなく父のアイデアで実現した自転車だ。今野仁は、異様なまでに歩くのを嫌う人間だった。
少し(100mくらい)の買物でも工房の自転車で出かけていたのを思い出す。自転車が好きなのか、歩くのが嫌いなのかわからないが、歩いてどこかへ移動するのをあまり見たことがない。
父は仕事がない時期に全国のショップへ営業に行っていた。遠方の地で電車を降り、ショップに歩いて出かけるのが相当な苦痛だったのだろう。そこで自分自身のために製作した。
このウルトラミニに関しては、多くのスケッチも残され試作モデルも多数あり、異常なまでの執着心がうかがえる。当時は、まだ折りたたみ自転車なんていう言葉すらなかったはずだ。
修理
ウルトラミニは、どの程度の台数が世の中に出まわっているか不明だが、大事に愛用している人も多く、修理やメンテンナスを依頼されることも多くある。
先日も遠方から修理の依頼があった。二人めのオーナーで、譲り受けて大事にしているということで感謝したい。
10インチの初期のモデルで私が関わったモデルではなく、特別にオーダーされた一台で細部までしっかりと作り込まれている。
かなり軽量に作られており、耐久性はあまり期待できないが、いつまでも使ってもらうために、工房が存在するかぎりメンテナンスはお任せいただきたい。
今こそ自転車を!
人類は今、見えない敵と戦い、今後はより強い団結力と叡智を絞り戦い続けることとなる。
電車やバスに飛行機、さまざまな移動手段があるが、自転車は過去も現在ももっとも確実な移動ツールだ。また人々の気持ちも開放できる最高の存在だ。
私は長いあいだ、スポーツ競技用のマシンにフォーカスして物作りを続けて来た。しかし人類が現在置かれている状況、そして目の前に転がり込んで来た一台のウルトラミニ。
これを眺めていたら、いま自転車職人としてやれることが、まだまだたくさんあることに気付かされた。まずは、ウルトラミニのレギュラーモデル復活を進めることと決めた。
Cherubim Master Builder
今野真一
東京・町田にある工房「今野製作所」のマスタービルダー。ハンドメイドの人気ブランド「ケルビム」を率いるカリスマ。北米ハンドメイド自転車ショーなどで数々のグランプリを獲得。人気を不動のものにしている
今野製作所(CHERUBIM)
革命を起こしたいと君は言う……の記事はコチラから。
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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。
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