GIANT・TCR ADVANCED SL 0 DISC【ハシケンのロードバイクエクスプローラー】
ハシケン
- 2020年06月13日
スポーツバイクジャーナリスのハシケンが、今もっとも気になる最新モデルをピックアップ。
テクノロジーの詳細はもちろん、前モデルとの比較など徹底的に掘り下げて紹介。
100km走行から感じたライドフィールを明らかにする。
史上最高レベルに磨きをかけてきた新型TCR
自転車界の革命児と騒がれてから20年以上。常識を覆すテクノロジーに対して物議を醸しながら、それが革新的な技術だったことを歴史のなかで証明してきた。
ジャイアントが1997年に発表したトータル・コンパクト・ロードことTCRがそれだ。当時、常識だったホリゾンタル(水平)なトップチューブをスローピングへと変更し、フレームの後ろ三角をコンパクトに設計したフレームは、剛性、空力、軽さのすべてを飛躍的に向上させた。以来、スローピングフレームは、今のスタンダードになっている。
そして、TCRは初代モデルから世界のトップレースで長年躍動してきた。ローラン・ジャラベールにはじまり、エリック・ツァベル、ヤン・ウルリッヒ、マーク・カヴェンディッシュ、デニス・メンショフ、トム・デュムランなど歴史に名を残すライダーとともに各時代で輝きを放ってきた。
そのTCRがついに第9世代へと突入。前作の第8世代から4年ぶりのフルモデルチェンジとなる。
ラインナップは、フレーム素材とヘッド規格の違いでアドバンスドSL、アドバンスド プロ、アドバンスドの3グレード。全グレードにディスクとリムブレーキモデルを展開し、新型TCRは全11モデルをラインナップする。今月は、最上位モデルのTCRアドバイスドSL0ディスクにフォーカスし、その詳細をレポートする。
TECHNOLOGY 【テクノロジー詳細】
フルモデルチェンジを果たした新型TCRには、新たなカーボン素材と成型技術、
新設計のチューブ形状など新たな技術が意欲的に投入されている。
そのテクノロジーを一つひとつ紹介していく
新型TCRの全方位進化はベースからの刷新にある
新型TCRアドバンスドSLには、フルモデルチェンジと呼ぶにふさしい新技術が数多く採用された。まず、カーボン原糸からフレーム成形までを自社で行うプロセスを革新した。
最新レーザーカッティングとレイアップ作業へのロボット技術の導入により、他社製品よりも最大26.3%も高い剛性を実現。同時に軽量化も果たしフレーム単体重量765gの軽さも手に入れた。
トータルレースバイクとしての高いエアロダイナミクス性能も獲得。より広い範囲のヨー角で抵抗係数を軽減する楕円の後部を切り落とした「トランケイテッド エリプスチュービング」へと進化。風洞実験では実際の走行状態を再現するために、動的マネキンに加え、600㏄ボトル2本までも装着してテストした。
再設計されたフロントフォークは前作から重量を増やさずに、ねじれ剛性を35%も高め、ノンドライブサイドのブレーキキャリパーの空力性を改善。独自の上下異径テーパー形状ステアリングチューブ「オーバードライブ2」と融合させステアリング剛性を向上。
タイヤクリアランスは、ディスクブレーキ仕様で最大32mm幅まで拡張し、走りの好みやフィールドに幅広く対応する。
ロボットの導入によりフレーム製造プロセスを刷新
新しい翼型形状のチューブが高い空力性能を実現する
パワー効率を高めるパワーコアBB
ポジションの微調整をするユーザビリティーとトータルインテグレーションを両立
サドル高の微調整も可能にする独自のI.S.Pシートクランプ
空力と剛性を高次元で追求した新型エアロフォーク
脱着可能なスルーアクスルを新採用
最新電動コンポーネントとパワーメーター標準装備
高剛性かつ軽量なカデックスチューブレスホイール
GEOMETRY
100km IMPRESSION 【100km徹底乗り込みインプレッション】
4年ぶりにフルモデルチェンジを果たしたTCR。
実走派ライター・ハシケンがさまざまなシチュエーションで
フラッグシップモデル「TCRアドバンスドSL0ディスク」の性能をテストする
あらゆるシーンで期待を超える鋭い加速を生む
TCRといえば歴代のモデルから重量剛性比が高いことで知られる。開発スタッフ陣も「軽いだけのフレームならいつでも作れる」と繰り返し話していた。トータルレースバイクのコンセプトを掲げるTCRにとって剛性は重要なファクターだ。
その剛性レベルは前作モデルで感じていたが、体重60kg少々の私にはどうも硬すぎたようだ。踏んだ分だけ加速するが、脚を削られる感覚もあった。今回の新型T CRも、硬すぎるのではないか?
一抹の不安を抱えながら、100kmソロライドへと出かけた。
序盤はあえてトルクを控えめにして、新型TCRへのパワー入力とそれを受けた反応性をじっくりとチェック。するとリアクションは明快に返ってきた。わずかなパワーに対しても機敏に反応して推進力を生み出していく。
そして、ケイデンスを高めるだけで、押し出される進みを得て、軽くハイスピード域へ。この低いパワー域での反応のよさは、いかにも高性能な軽量ディスクブレーキモデルといった印象だ。
そこから、腰を上げてバイクを左右に振り一段ギヤを上げていくと、圧倒的な軽さが全身を包み込んでいく。テスト車重量が6.5kg(ペダル込み)という軽さの恩恵はあるが、それ以上に軽快だ。
同時に、フロントまわりの剛性をしっかり感じられるため、ハンドルで積極的にリードしながら、ペダリングのストロークを刻める。そのため、軽量モデルながらバイクの上で軸を作りやすくパワーをかけやすい。
ライド中盤からは、ヒルクライムを含むアップダウンコースへ。緩斜面の上りでトルクを高めていくと、一段とキレを増した気持ちいい加速を生んでいく。
クォークのパワーメーターとペアリングしたサイクルコンピューターは常時400〜500W前後を表示。パワーのかけ続けやすさは、加速とその後の伸びのよさに欠かせないため、その点も優秀さを確認できた。
個人的に期待をしたいヒルクライムシーンも楽しめた。踏み抜きやすさのメリットを生かして、ややトルクフルにパワーをかけ続けながら一気に登坂を攻略していく。そして、ホイールを含めた剛性レベルとバイクのキレのある挙動に乗せて、ダンシングを積極的に取り入れながら満喫できた。今のところ、登坂性能で右に出るものはないかもしれない。
ところで、ここまで新型TCRをさまざまなシチュエーションで走らせるなかで、硬すぎる、踏み抜きにくい、というネガティブな印象が一度も表れなかった。
当初の不安要素は、6.5kgという全体の質量の軽さで解消されているのだろうか。いや、そんな単純な話ではない。個人的な見解だが、TCRのカーボンフレームは、高い重量剛性比が証明するように肉薄感よりも芯のある剛性を感じやすい。アグレッシブに乗ってもヤワさがない反面で、乾いたトーンの軽い踏み感は薄かった。それが新型TCRアドバンスドSLでは最適解にコントロールされているといえるだろう。
今回のライドでその真骨頂を感じたのが、スプリントシーンだ。異次元のゾーンでトラクションがかかり、試乗車でひさびさに1000W超えの数値をみた気がした。。これほどパワーをかけやすく進みが鋭いモデルはかつてあっただろうか。自腹で買うなら、このモデルが有力候補に間違いない。
INFO
ジャイアント/ティーシーアール アドバンスド SL0 ディスク
完成車価格:120万円(税抜)
■フレーム:アドバンスドSLカーボン(I.S.P)
■フォーク:アドバンスド SLカーボン
■コンポーネント:スラム・レッドEタップアクセス(24速)
■ハンドルバー:ジャイアント・コンタクトSLR OD2カーボン
■ハンドルステム:ジャイアント・コンタクトSLRカーボン
■サドル:ジャイアント・フリートSLR
■ホイール:カデックス・42 チューブレス ディスク
■タイヤ:カデックス・レースチューブレス(25C)
■サイズ:680(XS)、710(S)、740(M)、770(ML)
■カラー:カーボン
■試乗車実測重量:6.45kg(サイズS・ペダルなし)
問:ジャイアント www.giant.co.jp
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