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GIANT・TCR ADVANCED SL 0 DISC【ハシケンのロードバイクエクスプローラー】

スポーツバイクジャーナリスのハシケンが、今もっとも気になる最新モデルをピックアップ。
テクノロジーの詳細はもちろん、前モデルとの比較など徹底的に掘り下げて紹介。
100km走行から感じたライドフィールを明らかにする。

史上最高レベルに磨きをかけてきた新型TCR

自転車界の革命児と騒がれてから20年以上。常識を覆すテクノロジーに対して物議を醸しながら、それが革新的な技術だったことを歴史のなかで証明してきた。

ジャイアントが1997年に発表したトータル・コンパクト・ロードことTCRがそれだ。当時、常識だったホリゾンタル(水平)なトップチューブをスローピングへと変更し、フレームの後ろ三角をコンパクトに設計したフレームは、剛性、空力、軽さのすべてを飛躍的に向上させた。以来、スローピングフレームは、今のスタンダードになっている。

そして、TCRは初代モデルから世界のトップレースで長年躍動してきた。ローラン・ジャラベールにはじまり、エリック・ツァベル、ヤン・ウルリッヒ、マーク・カヴェンディッシュ、デニス・メンショフ、トム・デュムランなど歴史に名を残すライダーとともに各時代で輝きを放ってきた。

そのTCRがついに第9世代へと突入。前作の第8世代から4年ぶりのフルモデルチェンジとなる。

ラインナップは、フレーム素材とヘッド規格の違いでアドバンスドSL、アドバンスド プロ、アドバンスドの3グレード。全グレードにディスクとリムブレーキモデルを展開し、新型TCRは全11モデルをラインナップする。今月は、最上位モデルのTCRアドバイスドSL0ディスクにフォーカスし、その詳細をレポートする。

 

TECHNOLOGY 【テクノロジー詳細】

フルモデルチェンジを果たした新型TCRには、新たなカーボン素材と成型技術、
新設計のチューブ形状など新たな技術が意欲的に投入されている。
そのテクノロジーを一つひとつ紹介していく

新型TCRの全方位進化はベースからの刷新にある

新型TCRアドバンスドSLには、フルモデルチェンジと呼ぶにふさしい新技術が数多く採用された。まず、カーボン原糸からフレーム成形までを自社で行うプロセスを革新した。

最新レーザーカッティングとレイアップ作業へのロボット技術の導入により、他社製品よりも最大26.3%も高い剛性を実現。同時に軽量化も果たしフレーム単体重量765gの軽さも手に入れた。

トータルレースバイクとしての高いエアロダイナミクス性能も獲得。より広い範囲のヨー角で抵抗係数を軽減する楕円の後部を切り落とした「トランケイテッド エリプスチュービング」へと進化。風洞実験では実際の走行状態を再現するために、動的マネキンに加え、600㏄ボトル2本までも装着してテストした。

再設計されたフロントフォークは前作から重量を増やさずに、ねじれ剛性を35%も高め、ノンドライブサイドのブレーキキャリパーの空力性を改善。独自の上下異径テーパー形状ステアリングチューブ「オーバードライブ2」と融合させステアリング剛性を向上。

タイヤクリアランスは、ディスクブレーキ仕様で最大32mm幅まで拡張し、走りの好みやフィールドに幅広く対応する。

ロボットの導入によりフレーム製造プロセスを刷新

前世代より高性能なフレームを生産するため、カーボンシートの切出し方法をマシンスタンプからレーザーカッティングへと変更。特に重量に影響する複雑な部分のカーボンシートレイアップ作業には最新のロボットを導入
最高グレードのアドバンスドSLカーボンフレームは、専用レジンにナノポリマーを用いたCNTを採用し、耐衝撃性を向上。また、トップチューブとシートチューブは同時に編み込み、接合部を一体化するため高温高圧で焼成。モノコック工法よりも大幅な軽量化と剛性アップを実現

新しい翼型形状のチューブが高い空力性能を実現する

計算流体力学(CFD)とドイツのGST風洞設備での動的マネキンを用いた実験を繰り返しエアロフローを最適化。ヨー角±15度という広範囲でのエアロダイナミクスを追求し、楕円後部を切り落とした形状のチューブを生み出した

パワー効率を高めるパワーコアBB

シェル幅86mm、フレーム内部にベアリングカップを圧入する独自規格のパワーコアBBを採用。チェーンステーへのボリュームも出し、パワーロスを防ぐ高いBB剛性を実現

ポジションの微調整をするユーザビリティーとトータルインテグレーションを両立

専用エアロカーボンステムとコラムスペーサーによりエアロコクピットを実現。コンタクトSLRカーボンハンドルバーは、ドロップ部分が縦にシェイプされたエルゴノミック形状が特徴。ステムのハンドル固定ボルトを延長して固定する軽量コンピューターマウントが完成車に付属

サドル高の微調整も可能にする独自のI.S.Pシートクランプ

軽量化と快適性を高めるインテグラルシートポスト(I.S.P)を採用。クランプ部分までカムテール形状のエアロチューブを実現。クランプパーツはスペーサーを挟むことで調整幅も確保し、独自の3Mプロテクトフィルムを採用し強度を確保した

空力と剛性を高次元で追求した新型エアロフォーク

チューブ背面を削ぎ落としたカムテール形状が特徴の新エアロフォーク。ブレーキケーブルはクラウン部から内装したムダのないシルエットを実現。独自のオーバードライブ2ヘッドチューブが高いコントール性を約束

脱着可能なスルーアクスルを新採用

ローター径、フロント160mm、リア140mmを採用する前後フラットマウントディスクブレーキは、天候に左右されない安定した制動力を発揮。レバーは着脱可能で空力性能向上に貢献

最新電動コンポーネントとパワーメーター標準装備

アドバンスドSL0グレード完成車には、スラムのレッドEタップアクセス(24速)を採用。クォークのパワーメーターも標準装備し、TCR最高モデルにふさわしい仕様だ

高剛性かつ軽量なカデックスチューブレスホイール

ジャイアントがプロデュースする高性能カデックスホイールは、カーボンスポークとフックレスリムの採用を特徴とする。軽さと空力性能のバランスを追求した42mmハイトのチューブレスモデルとカデックスタイヤ(25C)が、フレーム性能を最大限に引きだす

GEOMETRY

 

100km IMPRESSION 【100km徹底乗り込みインプレッション

4年ぶりにフルモデルチェンジを果たしたTCR。
実走派ライター・ハシケンがさまざまなシチュエーションで
フラッグシップモデル「TCRアドバンスドSL0ディスク」の性能をテストする

あらゆるシーンで期待を超える鋭い加速を生む

TCRといえば歴代のモデルから重量剛性比が高いことで知られる。開発スタッフ陣も「軽いだけのフレームならいつでも作れる」と繰り返し話していた。トータルレースバイクのコンセプトを掲げるTCRにとって剛性は重要なファクターだ。

その剛性レベルは前作モデルで感じていたが、体重60kg少々の私にはどうも硬すぎたようだ。踏んだ分だけ加速するが、脚を削られる感覚もあった。今回の新型T CRも、硬すぎるのではないか?

一抹の不安を抱えながら、100kmソロライドへと出かけた。

序盤はあえてトルクを控えめにして、新型TCRへのパワー入力とそれを受けた反応性をじっくりとチェック。するとリアクションは明快に返ってきた。わずかなパワーに対しても機敏に反応して推進力を生み出していく。

そして、ケイデンスを高めるだけで、押し出される進みを得て、軽くハイスピード域へ。この低いパワー域での反応のよさは、いかにも高性能な軽量ディスクブレーキモデルといった印象だ。

そこから、腰を上げてバイクを左右に振り一段ギヤを上げていくと、圧倒的な軽さが全身を包み込んでいく。テスト車重量が6.5kg(ペダル込み)という軽さの恩恵はあるが、それ以上に軽快だ。

同時に、フロントまわりの剛性をしっかり感じられるため、ハンドルで積極的にリードしながら、ペダリングのストロークを刻める。そのため、軽量モデルながらバイクの上で軸を作りやすくパワーをかけやすい。

ライド中盤からは、ヒルクライムを含むアップダウンコースへ。緩斜面の上りでトルクを高めていくと、一段とキレを増した気持ちいい加速を生んでいく。

クォークのパワーメーターとペアリングしたサイクルコンピューターは常時400〜500W前後を表示。パワーのかけ続けやすさは、加速とその後の伸びのよさに欠かせないため、その点も優秀さを確認できた。

個人的に期待をしたいヒルクライムシーンも楽しめた。踏み抜きやすさのメリットを生かして、ややトルクフルにパワーをかけ続けながら一気に登坂を攻略していく。そして、ホイールを含めた剛性レベルとバイクのキレのある挙動に乗せて、ダンシングを積極的に取り入れながら満喫できた。今のところ、登坂性能で右に出るものはないかもしれない。

ところで、ここまで新型TCRをさまざまなシチュエーションで走らせるなかで、硬すぎる、踏み抜きにくい、というネガティブな印象が一度も表れなかった。

当初の不安要素は、6.5kgという全体の質量の軽さで解消されているのだろうか。いや、そんな単純な話ではない。個人的な見解だが、TCRのカーボンフレームは、高い重量剛性比が証明するように肉薄感よりも芯のある剛性を感じやすい。アグレッシブに乗ってもヤワさがない反面で、乾いたトーンの軽い踏み感は薄かった。それが新型TCRアドバンスドSLでは最適解にコントロールされているといえるだろう。

今回のライドでその真骨頂を感じたのが、スプリントシーンだ。異次元のゾーンでトラクションがかかり、試乗車でひさびさに1000W超えの数値をみた気がした。。これほどパワーをかけやすく進みが鋭いモデルはかつてあっただろうか。自腹で買うなら、このモデルが有力候補に間違いない。

INFO

ジャイアント/ティーシーアール アドバンスド SL0 ディスク
完成車価格:120万円(税抜)
■フレーム:アドバンスドSLカーボン(I.S.P)
■フォーク:アドバンスド SLカーボン
■コンポーネント:スラム・レッドEタップアクセス(24速)
■ハンドルバー:ジャイアント・コンタクトSLR OD2カーボン
■ハンドルステム:ジャイアント・コンタクトSLRカーボン
■サドル:ジャイアント・フリートSLR
■ホイール:カデックス・42 チューブレス ディスク
■タイヤ:カデックス・レースチューブレス(25C)
■サイズ:680(XS)、710(S)、740(M)、770(ML)
■カラー:カーボン
■試乗車実測重量:6.45kg(サイズS・ペダルなし)

問:ジャイアント  www.giant.co.jp

 

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PROFILE

ハシケン

Bicycle Club / スポーツジャーナリスト

ハシケン

ロードバイクに造詣が深いスポーツジャーナリスト。国内外のレースやロングライドイベントを数多く経験。Mt.富士ヒルクライムの一般クラス優勝、ツールド宮古島優勝。UCIグランフォンド世界大会への出場経験あり。

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