ツール・ド・フランス| 2アウトルールとフランス国内感染者激増でパリ到達に危機⁉
Bicycle Club編集部
- 2020年09月12日
大会中盤の戦いが進んでいるツール・ド・フランス2020。新型コロナウイルスの脅威に迫られながらの日々は、毎ステージの熱戦とは裏腹に決して心穏やかとは言えないのが実情だ。そんな中、フランスでは9月10日に1日あたりの新規感染者数が最多を記録。そのあまりの激増ぶりに、政府が対応に動く可能性が出てきている。それでも、ツールは最終目的地のパリ・シャンゼリゼ到達を信じて進んでいく。このほど明らかになった「2アウトルールの実質的緩和」と、フランス国内の現状を現地フランスで取材するサイクルジャーナリスト、福光俊介さんがお伝えする。
「2アウトルール」は第2休息日を迎えると同時にリセットへ
第10ステージのスタート地イル・デ・オレロンでのひとこま。キャラバンカーの隊列見たさに沿道には多くの人たちが押し寄せる。一見ツールらしさを感じる光景だが、そこには多くの不安やリスクがともなっている。PHOTO:福光俊介
異例づくしの今大会であることはたびたび触れているが、コロナ禍でのツール開催を反映しているレギュレーションとして、「7日間以内にチーム内で2人の感染が判明した場合、当該チームは大会から除外する」との特別ルールが真っ先に挙がる。
もともとは選手・スタッフを含む「チーム全体」を対象としていたが、開幕直前になって適用されるのは選手のみと決まった。
ところが、この「2アウトルール」と称されるレギュレーションにフランス政府が待ったをかけた。大会を主催するA.S.O.(アモリ・スポル・オルガニザシオン)や、内容の最終的な調整にあたったUCI(国際自転車競技連合)に対して適用範囲を戻すよう通達。当初の設定どおり選手・スタッフを含む「チーム全体」を対象とすることを求めたのである。
その後はA.S.O.もUCIも具体的な声明は出しておらず、規則が曖昧なまま大会は進行していた。ただ、ここへきてA.S.O.による一部メディアへの説明によって、そのルールの解釈が少しずつ見えてきた。
まず、第1休息日(9月7日)のPCR検査でチームスタッフ各1人が陽性と出たアージェードゥーゼール ラモンディアール、コフィディス、イネオス・グレナディアーズ、ミッチェルトン・スコットの4チームに関しては、第2休息日(9月14日)までの間にチームから2人目以降の陽性者が出なければ、現状の「1アウト」がリセットされる。
つまりは、大会第2週のどこかでチーム独自にPCR検査を実施したとして、そこで陽性者が出ずに次の休息日を迎えられればセーフになる、というわけ。ちなみに、チーム独自のPCR検査は、A.S.O.やUCIから義務付けられているものではなく任意なので、各チームの裁量で行うになる。ということは、「PCR検査を行わない」という選択肢もありだ。
また、第1休息日に陽性者が出なかった他の18チームについても、チーム独自のPCR検査で陽性者が出れば当該人物は大会から離脱することになるが、次の休息日までの2人目が出なければチームごと大会を離れるという最悪の事態は免れることになる。
このあたりの捉え方はいろいろできてしまうところだが、やはり“ツール・ド・フランス”全体がパリ・シャンゼリゼに到達することを最優先した主催者サイドの考え方だといえそうだ。
ちなみに、第2休息日のPCR検査で1つのチームから2人以上の陽性者が出た場合の解釈については、明確にされていない。もちろんそうならないことが一番だが、万に一つそのような事態となった場合…主催者がどのような判断をするのも重要なポイントである。
フランス国内は1日あたりの新規感染者数が約1万人に
昨年のツール・ド・フランスより PHOTO:A.S.O./Alex Broadway
何としてでも「パリ・シャンゼリゼへ」というA.S.O.の強い意志とは裏腹に、フランス国内の新型コロナ情勢は深刻を極める一方だ。
同国では9月10日、新規感染者が24時間で約1万人に達したとの報告がされた。感染が広がって以降、1日あたりの感染者数としては最多だ。
具体的には、同日に9843人の感染が確認されたとフランス保健当局が発表。バカンスシーズンが一段落し、しばらく経ったここ数日は1日あたりの新規感染者数が9000人台に上る日が続いていたが、いまだ感染者数の激増が続く状況だ。
これを受けて、同国では新たな対策に乗り出す方向で動き始めている。ヨーロッパ諸国では、感染の深刻な地域でロックダウン(都市封鎖)を再開するなどの対応が進められているが、状況によってはフランスも例外ではなくなる可能性が出てきている。
フランス国民の危機意識との共存は可能か
第11ステージでの観戦者の様子 A.S.O./Pauline Ballet
同国の情勢を踏まえれば、完全に逆行していると言わざるを得ないツール実施。筆者も取材活動を継続していながらも、日々高まるリスクを実感している。
フランス国民の多くがツール開催をどう考えているか、さすがにそこまで推し量ることはできないが、どのステージもスタート地・フィニッシュ地どちらにも多くの観衆が集まり、テレビ中継の視聴者数が例年以上とのデータもある。やはり、ツールはフランスの人々にとってスポーツの枠を超えたアイデンティティなのだと、この状況下だからこそ肌で感じている。
だが、これらは私感にすぎないが、コース脇にはマスクを着用していない人の姿も多く見受け、ひとたびレースの場を離れて街の人々の様子を見ていてもマスク非着用、ソーシャルディスタンスを守らない…といった不安要素が多いことも否めない。そしてそれは、アイデンティティの崩壊につながりかねない行為でもある。
どれだけ気を付けていても感染してしまうのが新型コロナの恐ろしさだが、そもそもの話で危機意識の低さがフランスの人々にはあるような気がしてならない(フランス以外からの観戦客も含めて)。
大会は中央山塊を抜け、ジュラ山脈へ、第3週には決戦の地・アルプス山脈へと進んでいく。そして、その先にはパリ・シャンゼリゼへとつながる。大会の成功に向け、ツールに携わるすべての人たちが強い意志と結束力で支え合っているが、それだけではパリ到達が難しいという現実を、みんな感じ始めているのが正直なところである。
福光 俊介
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。
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- 文:福光俊介/Syunsuke FUKUMITSU PHOTO:A.S.O./Alex Broadway,Pauline Ballet
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