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パワーデータから考えるロードレースでの戦術、要求される繊細な「休み」のテクニック

ここでは10月4日に行われたJプロツアーおおいたサイクルロードレース をクローズアップ、ピークス・コーチング・グループの中田尚志さんとゲン・コグレさんがコーチングしている選手のパワーデータで解説する。

最強マトリックスに対抗するために考えられる2つの作戦

距離100kmのおおいたサイクルロードレースではその前の週、広島で優勝し、前日のクリテリウムでも強力な牽引を見せたチームマトリックス・パワータグを軸に展開されることが予想された。そこで強力なメンバーを擁するマトリックスに対抗していくには大きく分けて下記の2方法が考えられる。

1.逃げ切り

マトリックスを含まない逃げを形成しマトリックス・トレインからの逃げ切りを狙う。
力比べの真っ向勝負。ツール・ド・フランス総合4位の実績を持つフランシスコ・マンセボを擁するマトリックスから逃げ切る為には、高い有酸素能力と逃げメンバーが協力しあうコンセンサスが必要。

2. 他チームに展開を任せる

各チームがアシストを使い切ったタイミングで勝負に出る方法。
レースをコントロールするほどの人数がいないときに独力で勝負をかける方法。レース展開を読む能力と終盤まで足を残す高い有酸素能力と、勝ちに行く無酸素能力が必要。失敗に終わった場合”永遠の秘密兵器”に終わるリスクもある。

ここでは実際のレースで1と2それぞれの作戦をとった選手のパワーデータを見ていこう。まず、1.逃げ切りの戦術を選んだのはラスト11周目から4周目まで逃げた7名だった。

1.逃げ切り作戦をとった小石選手、新城選手

最後まで抵抗を見せる新城雄大選手(キナンサイクリングチーム)、山本大喜選手(キナンサイクリングチーム)と小石祐馬選手(チーム右京)の3名 ©Team Ukyo

小石・新城両選手のデータ

小石祐馬選手(チーム右京)と新城雄大選手(キナンサイクリングチーム)のパワー。頂上部から下りは負荷を分担しているのがわかる。

残り11周目から7名が飛び出し、解説の栗村修氏が「逃げのDNAを持つ3名」と表現する新城選手、山本大喜選手(キナンサイクリングチーム)と小石選手が最後まで抵抗する。

新城・小石の両選手は2018年の全日本選手権でも最終局面まで一緒に逃げたことがありペース配分や先頭交代のクセがわかっている間柄。アップダウンやコーナーが連続するコースを高速で逃げる場合、相手のクセが分かっているかどうかがスピードに影響する。阿吽の呼吸で先頭交代のタイミングがわかるとスピードを殺さずに逃げることができたのは有利に働いた。

鉄壁のコントロールを見せるマトリックス・パワータグ ©Team Ukyo

一時は決まるかと思われたこの逃げも次の展開に持ち込みたい愛三工業レーシング、チームブリヂストンサイクル、マトリックスの牽引により差を詰められる。特に安原大貴選手の捨て身の追走とマンセボ選手の疲れ知らずの牽引は強力で、ラスト10kmを残してレースは振り出しに戻った。

2.他チームに展開を任せ、最終局面に勝負に出た阿部嵩之選手

集団内で勝機を伺う阿部選手(宇都宮ブリッツェン) ©Team Ukyo

一方、他チームに展開を任せて終盤まで待つ選択をしたのは阿部嵩之選手(宇都宮ブリッツェン)だった。今回はチームからの出場が3名ということもあり、選択肢は限られていたからだ。チーム力を活かしてレース展開を作るのは難しいため、間隙を縫って勝ちに行くのが戦術となる。
周回の距離が4kmと短く、総距離も100kmとロードレースとしては短かったことが影響しレースは最初からハイスピードで進み、比較的早い段階から集団の人数は絞られ、周回を重ねるごとに更に集団は小さくなっていった。阿部選手自身もレース後に「ラスト5周の時点で限界近かった」と話している。実際それを表すように阿部選手のdFRC(FTP以上でどれぐらい動けるかを表す値)はかなり下がっている。

阿部選手のパワーデータ

黄色がパワー、紫色がdFRC.dFRCは「FTPを超えてから何キロジュール動き続けれるか?」、簡単に言うと「どれぐらい足が残っているか?」を示す値だ

先程の7名をすべて吸収し、新たに先行した2名を追いながらラスト1周の鐘を聞いた集団は10名にまで絞られていった。

ここまで来て優勝争いできる位置に複数名残しているのは愛三工業レーシングとマトリックスパワータグのみ。こうなると孤軍奮闘を続けた阿部選手にも勝負権がまわってくる。

回復して次に備えるマイクロ・レストがレースを決める

残り1周で先行していたホセビセンテ・トリビオ選手(マトリックス・パワータグ)と伊藤雅和選手(愛三工業レーシング)©Team Ukyo

前を行くホセ選手と伊藤選手の2人に3秒まで迫った差が頂上付近で再び開いたのを見て取った阿部選手はアタック!(65秒のパワー平均が360W、マックスパワー1,050W)。

意外に平均ワット数が低いと思うかもしれないが、選手はアタックして差が開いた後はコーナーなどの一瞬の隙きを使って足を休めつつ追走を続ける。その結果、平均ワット数は低くなるが、そうすることで追走しつつもオールアウトせずに最後の勝負に挑める。

コーナーを曲がる瞬間、先頭交代で後ろに下がる瞬間、平坦から登りに入る瞬間etc..数秒から十数秒の短い空走期間のレスト。これらをマイクロ・レストと呼ぶ。彼らはこれらの時間で随分と回復できる。大パワーを出すばかりでなく、いかに最小限の力で最終局面に備えるか? マイクロ・レストを積み重ねるのも勝負に勝つテクニックだ。

じつは阿部選手が先頭に追いつき逃げを確定させるために引いている間、ホセ選手もまた先頭交代を飛ばすことでマイクロ・レストを取っていた。阿部選手が前の2人に追いついてから最終コーナーを曲がるまで先頭を引いた時間は82秒、伊藤選手は49秒に対してホセ選手は14秒。

単騎のため、何としても勝負を決めたい阿部選手、もし捕まっても後ろにスプリンター大前翔選手が控える伊藤選手、鉄壁のアシスト、マンセボとリーダーのキンテロが控えるホセの思惑が引く時間に比例している。
3人になってから後続との距離を確認した回数を映像からカウントすると阿部選手7回、伊藤選手2回、ホセ3回とこちらも各選手の事情と心理が伺える。

阿部選手のラスト周回のパワーデータ

高速巡航しながらもマイクロ・レストをとっている。

後続を気にしなくてよかったマトリックス・パワータグの作戦勝ち

後続を引き離し、迎えたフィニッシュの上りでは先行した伊藤選手を、ホセ選手が捲り切って勝利を手にした。スプリント開始のタイミング、思い切り、そして脚力もさることながら、後続に飲み込まれてもスプリントを任せられるチームメイトがいるホセが最終局面で心理的アドバンテージを持ってマイクロ・レストを取れたことが大きかったのではないかと思っている。

ホセ選手がスプリントを制して優勝! ©Team Ukyo

この勝利は主要な逃げをホセ選手がチェックし、集団のコントロールはマンセボ選手を中心に他のチームメイトが行うという役割分担をハッキリさせていたマトリックスの作戦勝ちとも言える。
ホセ選手の後ろにつくも、最後差し込むことができなかった阿部選手は「自身が追いついてから回復する時間が短すぎた」とレース後にコメントしている。ラスト4kmを切ってのアタックで、先頭を積極的に引く以外にない状況だったので、回復時間を取れないのは如何ともし難かったと思う。

「あそこまで行ったら勝ちたかったです」という阿部選手のコメントには悔しさがにじみ出ていた。

レース後にデータを振り返ることで次へのステップとなる

終わったレースに「もし〜したら?」はない。ただ展開を振り返り、対策を練っておくのは次回以降のレースに向けて重要な作業になる。
「もし3人が均等に先頭交代していたら?」

「阿部選手が後続との距離を測って少し足を休めていたら?」

「スプリンターのチームメートが後ろに控えていたら?」
パワーデータと映像はレースを振り返り次戦への戦力を練るための強力なツールとなってくれる。パワーデータと映像を共有化し解析することで日本のレース界の全体的なレベルアップにつなげることができるのではないかと私は考えている。

ここではデータ公開を快諾してくださった選手の皆さんに感謝すると共に、レースファンの皆さんがデータからより深くレースを楽しんで頂ければ嬉しく思う。

レースの模様はこちらから

小石祐馬(チーム右京)

海外経験豊富なオールラウンダー。今大会は敢闘賞を受賞
http://www.teamukyo.com/cycling-profile/

果敢な走りで敢闘賞を獲得した小石祐馬選手 ©Team Ukyo

新城雄大(キナンサイクリングチーム )

U23時代に全日本選手権の個人TTを制し、海外でも逃げ切りで優勝を挙げるなど実力に定評のある選手。
https://kinan-cycling.com/team/arashiro

阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)

https://www.blitzen.co.jp/team/blitzen/abe_takayuki/

JBCFの公式WEBサイト
https://jbcfroad.jp/

データはトレーニングピークスを使用
http://tpks.ws/Y3U34CXTDKCFVTI4FEYTRMETSU

中田尚志 ピークス・コーチンググループ・ジャパン

https://peakscoachinggroup.jp/
ピークス・コーチング・グループ・ジャパン代表。パワートレーニングを主とした自転車競技専門のコーチ。2014年に渡米しハンター・アレンの元でパワートレーニングを学ぶ。

中田尚志の著書「ロードバイクのパワートレーニング」はこちらから読むことができます。

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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