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安全性向上を目的とした新ルールとその経緯|ロードレースジャーナル

vol.3
「スーパータック」「ボトル投げ」などの禁止
その内容とUCIの意図するところとは

国内外のロードレースを専門的にお届けする連載「ロードレースジャーナル」。4月に正式施行された安全性向上の新ルールについて。2月の発表から今に至るまで、レース内外をにぎわせている新たな取り組みとその経緯をまとめてみたい。

2月上旬に発表されたUCI新規定

エアロポジション ©︎ A.S.O./Charly Lopez

発端となったのは、UCI(国際自転車競技連合)による25日付のリリースだった。

「ライダーの安全と持続可能な開発への取り組みを強化する」と称した文章の中に、「道路やプロトン内でボトルを投げる(後ろを走るライダーに危険を及ぼす可能性がある)行為や、バイクの上で危険な姿勢をとる(特にトップチューブに座る行為)など、ライダーの潜在的な危険行為に関する規制を強化することに決定しました」との文言が含まれた。

さらにはこの4日後、今度は「エアロポジション」「TTポジション」などと称される、前腕やひじをハンドルバーに乗せて支点とする前傾姿勢も禁止されることに。

これらの新規定は、41日から適用されることが決まった。

主張が飛び交うもまとまらず 選手・UCI双方の姿勢に問題点も

トップチューブに着座してのクラウチング姿勢「スーパータック」は4月以降禁止に ©︎ A.S.O./Pauline Ballet

この決定により、近年レース中のダウンヒル時にとるポジション(姿勢)としてスタンダードになっていた「スーパータック」(トップチューブに着座してのクラウチング姿勢)が禁止されることになった。トップチューブ上でのクラウチングといえば、ペテル・サガン(ボーラ・ハンスグローエ、スロバキア)やマテイ・モホリッチ(バーレーン・ビクトリアス、スロベニア)がロード世界選手権を制したときの下りでの急加速や、2016年のツール・ド・フランスで見せたクリストファー・フルーム(イギリス、イスラエル・スタートアップネイション)による下りアタックが印象的。それからは、トップシーンにとどまらず、UCIアジアツアーや日本国内のリーグであるJプロツアーなどでもよく見られるようになっていた。

この姿勢に関してはかねがね危険性を指摘する声が多かったものの、あくまで競技能力の高い「トップライダー」がレース時にのみ見せる姿勢、といった暗黙の了解が成立しつつあった。実際、プロライダーたちもSNSなどで「子供やビギナーは真似をしないで」と呼びかけるなど、極限下でのみ用いている手段であることを強調してきた。

それだけに、この決定が選手たちに与える影響は大きかった。ミハウ・クフィアトコフスキ(イネオス・グレナディアーズ、ポーランド)は、UCIの発表後すぐに反応を示した1人。彼は「ライダーたちにクラッシュの全責任を負わせるための手段に過ぎない」と決定内容を痛烈批判。「レースを取り巻く交通の安全性や、コース脇のバリアーを改善するなど、UCIやレース主催者には取り組むべきことが数多くあるはず」と指摘し、「いまになってトップチューブに座ることを禁止するなら、来年の今頃はウイニングセレブレーションでの両手離しをダメだと言ったり、レース中の制限速度まで定めようとするかもね。そうではなく、もっと組織的な側面に目を向けてほしい」と皮肉たっぷりに反論。クフィアトコフスキ以外にも、多くの選手がSNSやレース前後のインタビューを通じて反対姿勢を表した。

UCIステークホルダーミーティングの選手代表であるマッテオ・トレンティン ©︎ RCS

一方で、こうした選手たちの反応に苦言を呈した選手も存在する。マッテオ・トレンティン(UAEチームエミレーツ、イタリア)は、決定までの経緯において、選手たちの姿勢に大きな問題があったと指摘。UCIステークホルダーミーティング(利害関係者会議)に出席する選手代表の1人であるトレンティンは、関係者が昨年11月から12月にかけて、800人を超えるプロ選手に走行時のポジションやボトル投げの規制強化が進んでいることをメールで通達していたと明かした。詳細資料のダウンロードも可能になっていたといい、会議で話されている内容を知る状況が整っていたにもかかわらず、メールを開封したのが16人しかいなかったという。「過去にコミュニケーション不足や通知の不備を指摘された事案もあったが、今回ばかりはまったく違う」とコメント。「不満を述べる選手たちがどこにその怒りをぶつけたいのか分からないが、私やフィル(もう1人の選手代表であるフィリップ・ジルベール)、他の会議出席者に言われても困る。ライダーたちはTikTokに費やす時間があるなら、自分たちの仕事場をより安全な場所にするための活動に積極的にならなければいけない」と強く述べた。

数々の主張は、まとまりを生み出すことにはつながらない。トレンティンの話を聞いたトーマス・デヘント(ロット・スーダル、ベルギー)は、自身がメール開封した16人のうちの1人だとしたうえで、送信時期が悪かったのではないかと見解を示した。「11月は大多数のライダーにとって休養期間であって、私自身も3週間は携帯電話を見ることすらしなかった」と話す。さらには、「それらの決定事項がごく数人のライダーによる意見のみを反映させている」とし、チームメートのジルベールがデヘントに意見を求めておきながら、「その後の議論については何の説明もされなかった」との事情も明らかにした。

数件の失格例 ボトルがはぐくむファンと選手との距離感はこの先どうなる

ボトルや補給食の投棄も定められた場所に限定される ©︎ A.S.O./Fabien Boukla

選手、レース関係者、ファン、ジャーナリスト…と各方面から意見が出ながらも、新規定は予定通り41日に施行された。

それに伴ってスーパータックやエアロポジション、ボトル投げといった行為はパタッとなくなったかというと、さすがに完全になくなったとは言い切れない状況が続いている。

43日に開催されたグランプレミオ・ミゲル・インドゥライン(スペイン、UCI1.Pro)で、補給ジェルを路上に捨てたとしてカイル・マーフィー(アメリカ、ラリーサイクリング)がレース中に失格処分。新規定が適用された最初の事例となった。

翌日のロンド・ファン・フラーンデレンでは、ミヒャエル・シェアー(AG2Rシトロエン、スイス)がボトルを沿道にファンに向けて投げたことが違反とされ、失格に。

ボトルの投げ捨てに関しては、コース上の数カ所に設置される廃棄ゾーンに限定され、それ以外はチームカーに戻すか、コース脇(フィードゾーンなど)に立つチームスタッフに渡すことが義務付けられている。これらは、地面を転がるボトルに起因するクラッシュを防ぐことや、環境保全、自転車競技のイメージを保つためである。

とはいえ、選手たちには違った思いもある。「心」の部分である。

沿道に投げたボトルが自チームや自身を応援するきっかけとなったり、純粋にギフトとして喜んでほしいとの願い。ロンドで失格になったシェアーはインスタグラムを通じ、選手がくれたボトルによって自転車競技を志すようになったというエピソードを公開。ボトルを通じて生まれるファンと選手との距離感について述べると、多くの賛同の声が寄せられた。

なお、危険な走行姿勢に関しても数件の失格例が出ており、414日のプラバンツ・ペイル(ベルギー、UCI1.Pro)でハイス・リームライゼ(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)が、同日のツアー・オブ・ターキー(トルコ、UCI2.Pro)第4ステージではアレクサンダー・リチャードソン(アルペシン・フェニックス、イギリス)にそれぞれ適用されている。

新規則まとめ

いくつもの思惑がひしめく新規則だが、それでも着々とプロトンに浸透されようとしている。本記の最後に、これら規則の内容をまとめておくとする。なお、ボトルや補給食、サコッシュの投棄に関しては、414日付で罰則が改訂され、同17日から施行している。これについても触れておく。

レース中の投げ捨て(UCI規則 条項2.2.025および2.3.025

所定のゾーン以外でごみや物を捨てる行為は、状況によっては危険を伴うばかりでなく、環境や自転車競技のイメージに悪影響を与える。また、アマチュアのサイクリストに対して悪い見本となる。

●可能な行為

日本自転車競技連盟(JCF)「RIDER競技者の安全(2021新規則-解説)」より抜粋

・所定の廃棄ゾーン内で物を捨てる

・ボトルをチームスタッフやレース車列に戻す

・食料袋(サコッシュ)や飲料用ボトルで競技者に補給する

●不可能な行為

日本自転車競技連盟(JCF)「RIDER競技者の安全(2021新規則-解説)」より抜粋

・危険なやり方で、不注意に物を投げ捨てる

・廃棄ゾーン以外の場所で物を投げ捨てる

●強制事項

日本自転車競技連盟(JCF)「RIDER競技者の安全(2021新規則-解説)」より抜粋

主催者は、競技コースやステージの3040kmごとに、十分な長さの廃棄ゾーンを複数設置しなければならない。

最後の廃棄ゾーンは、レースまたはステージの残り数キロの間、かつレースの最終局面よりも手前に設けなければならない。

●罰則

・ワンデーレース

1回目は罰金(100500スイスフラン)とUCIポイントの剥奪(-5-25ポイント)。2回目は排除、または失格

※改定前:即時に排除、または失格

・ステージレース

1回目は罰金(100500スイスフラン)とUCIポイントの剥奪(-5-25ポイント)、2回目は-1分のペナルティ、3回目は排除、または失格

※改定前:1回目は-30秒のペナルティ、2回目は-2分のペナルティ、3回目は排除または失格

 

乗車姿勢(UCI規則 条項2.2.025

レースに参加するすべての人の安全を確保するために、競技者は常に自分の自転車を完全にコントロールし、経験の浅いサイクリストの模範となる必要がある。

競技者は、条項1.3.008で定義されている標準的な姿勢を守らなければならない。この姿勢とは、ペダルに足を、ハンドルバーに手を置き、サドルに着座するというものである。

●可能な行為

日本自転車競技連盟(JCF)「RIDER競技者の安全(2021新規則-解説)」より抜粋

・ハンドルバーに手を置き、サドルに着座する

・腰を大きく屈めた前傾姿勢(タック・ポジション)でハンドルバーに手を置き、サドルに着座する

●不可能な行為

日本自転車競技連盟(JCF)「RIDER競技者の安全(2021新規則-解説)」より抜粋

・前腕やひじをハンドルバーに乗せ、支点とする(タイムトライアルを除く)

・トップチューブに着座する

・ハンドルバーにもたれて身を乗り出す

・後傾し、サドルで胸を支える

 

※参考
日本自転車競技連盟(JCF)「RIDER競技者の安全(2021新規則-解説)
国際自転車競技連合(UCI)「RIDER SAFETY NEW REGULATIONS IN 2021

福光 俊介

サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。

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サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。

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