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神秘の湖上の駅へサイクリング|筧五郎が大井川上流を往く

ヒルクライマーとして知られる筧五郎さん。4月中旬にインスタ映えスポットを目指して静岡県へ、大井川鐵道に沿って奥大井湖上駅へロードバイクで走ってきた。スタートは大井川鐵道本線の終着点で、南アルプスあぷとライン(大井川鐵道井川線)の起点でもある千頭駅からだ。自転車で往く鉄道の旅だ。

心躍る風景を求めて大井川鐵道の旅へ

僕は旅雑誌をよく読む。自転車雑誌のみならず、ハイキングや風景メインの雑誌や、モーターバイクのツーリング雑誌など多種多様である。ページをめくるたびに、この県にはこんなきれいな風景や景色があるんだぁと、いつかここを走ってみたいと心を躍らせながら。

その中でも、いつか行きたいと思っていた風景が、大井川鐵道の奥大井湖上駅を望む展望スポットだ。

この日は車中泊。クルマに積んでいたキャンプ道具でお弁当にホットサンドを作って出かけた。

今回は千頭駅からスタート。千の頭を書いて「せんず」と読むらしいが、僕はずっと「せんとう」と呼んでいた……。

ここ千頭駅は大井川鐵道(大井川本線)の終点となっていて、SL機関車が停車しており、鉄道ファンにはたまらない駅なのである。ここからさらに奥地ヘは向かうには、アプト式といわれるいわゆるトロッコ列車(井川線)に乗り換えることで、秘境へと向かうことができる。

お決まりの「スタートします!」のポーズをセルフタイマーで撮影し県道77号を北へ向けて出発するのだが、すぐに踏切があらわれる。同じ狭軌なのによく見ると線路まわりの幅が狭いのに気が付く。そうか! トロッコ列車だから、狭いのだ。

2車線で舗装路が綺麗で走りやすいアップダウンと大井川が僕を迎えてくれる。走っていてじつに気持ちがいい。トンネルが多いので、リアライトとフロントライトは点灯必須だ。

奥泉駅を過ぎて雰囲気もすべてが気持ちいい上りの左カーブを走っていたが、看板に寸又峡へと看板が出てくる。「?」なにか違う方向へ向かっているのではないかと思い、スマホをとりだsグーグルマップで確認してみると、やはり間違えていた。先ほどの細い道を右折だったのだ。わかりづらいよ……とUターンをした。

そのわかりづらい県道388号へと入り、トンネルを2個通り過ぎれば、長島ダムへとたどり着く。

ここからトンネルが連続することとなるが、覚えておいてほしい。

湖上駅展望は5個目のトンネル手前の道を右に入らなければならないのだ。僕は知らずに通り過ぎて、次の駅まで行ってしまった。ようやく気が付いてUターンをした(笑)。

Uターンして、また上ることになるのだが、そこまでして行ってきてよかったと思える風景が目の前に現れることとなる。

いよいよ湖上の駅へ

写真で想いをよせた景色が目の前にある。そして感動……。

山に心が奪われるということはよくあるが、何て言えば伝わるのか、考えても、わからない。

そこにいた男性に話かけたら、たまたま自転車を乗られるとのことで、この景色の素晴らしさを語ってくれた。今日も6時半からこの景色を見ているらしく、「ずーっと見ていられる」という。

その方は撮影した写真を数枚見せてくれたが、紅葉シーズンも素晴らしくて、その時期にもう一度来てみたいと思った。

「年に何回も来てしまうんだよ、ここには」といっていたが、その気持ちは、ここに来てこの景色を見たら理解できるかも。

例えば、乗鞍の長野と岐阜の県境から見る景色も素晴らしいが、そういう上り切った達成感で見る景色とは違う、なんだろうか……わからない(笑)。もう来てください。それしか言いようがない。

峠以外に心奪われるというのは初めてだ。

なぜに、あの島に駅を作ったのか? など、色々と不思議なことも多いが、ずーっと見ていたい風景。

空いた時間で富士見峠へ

どうせなら、レールの上を走る列車も一緒に撮影したいと思ったが、時刻表を見ると10時とわかった。この時まだ8時40分。待ち時間が1時間20分と待つには長い。その次は12時過ぎなので、次の目的地に到着して、帰りにもう一度来ようと思った。

しかしこの道、地味に上っているのだ。今日のコースは往復62kmなのだが、折り返しとなる次の目的地への富士見峠までは、少しの下りはあるにしろ、スタートからはトータル31km上っているのだ。その獲得標高1502mと、意外と山岳コースである。

県道60号から左折してトロッコ列車の井川駅まで1kmくらい下りになるのだが、帰りにまた上ると思うと、ここで下ってしまうことがもったいなくて、上っているほうが気が楽に思えてしまう。

この井川駅、静岡県の鉄道駅で最も標高(686m)が高い駅である。井川湖まで来たら、ここから富士見峠までは11kmの上りである。井川湖の標高680mくらいから、1184mの富士見峠へ。11kmで獲得標高500mくらいだから、平均勾配5%くらいかなぁ。

走り始めて思う。どうして山奥なのに路面が綺麗なんだと。とても走りやすいし、スピードが乗るので 走っていて気持ちがいい。

桜や紅葉のシーズンも素晴らしいが、春の新緑の季節というものは、木々から新しいエネルギーを感じられるので僕は好きかな。

でも11kmの上りは意外と長い(笑)。でもね、走っていてとても楽しいんよ。ほんとに。

途中、大日古道をいう看板を見つけるが、自転車では走ることができない。ハイキングの道のようだったが、調べてみると、静岡と井川を結ぶ道であったらしい。

富士山が見えないオクシズの富士見峠

大きく左折したら、いきなり雪化粧の南アルプスが目に飛び込んできた。峠の看板が見える。そしてゴール。

旅の思い出にと、観光客の方にカメラで撮影をお願いした。

そして、ここから見えるのは南アルプス。深南部と言われる山々だ。その風景は、自転車に乗ってたどり着けない道であり、徒歩でしかたどり着けない「深南部」という言葉に惚れ惚れする。しかし、しかしだ。富士山がどうにも見ることができないのだ! 観光客の方に聞いても、富士山は見たことがないという。富士が見える峠だから 富士見峠のハズなのだが(笑)。

あいにくの春霞で見たかった富士山が見えないのはショックだが、南アルプスを見ながら、朝作ってきたホットサンドを食べていた。日向で日が当たるとぽかぽかして気持ちがいいが、ここは標高1100m付近。下りは寒いので、ウィンドブレーカーと長手袋を装着して下りへ。

復路は下りメインなので気分は楽である。スタート地点まで下りっぱなしだからだ(笑)。

トロッコと追いかけっこしながら、再び湖上駅へ

よくもこんなに上ってきたなぁと思えるほど、下りが長い。

井川駅ではトロッコ列車が停車していて、発車するとアナウンスが流れていた。このトロッコ列車、平均時速は15㎞とゆっくりなのだ。とはいえこの列車が、湖上駅に12時過ぎに到着するのかな? と思うと、ゆっくりとしていられない。ということで先を急いだ。

そうはいっても、途中で滝を見つけて写真を撮っていたら、「こんにちは!」といきなり声を掛けられてびっくりした(笑)。そこで、近くに美味しいおでん屋さんがあると教えてくれたが、そのお店は残念ながら営業していなかったので、いたしかたなく空腹で湖上駅へ向かうことにした。

到着したら、3組のカップルさんがいて、「列車の到着時刻は12時12分です」と伝えたら、待ってみますと言われた。それからは「どこから来たのですか?」などと会話が弾み、旅は出会いも楽しいなぁと感じた。

そして待つこと20分。

地べたに座っていたので、地鳴りが身体に伝わってきたのと同時に、汽笛かな? と思える「ぷふぁ~~」と犬の遠吠えのような音が聞こえてくるが、まだトロッコ列車の姿は見ることができない。ただ、あきらかに近づいてきているのがわかる。

そしてとうとう赤い橋の上に現れた。数十秒でトロッコ列車が駅に到着。お客さんを乗せて出発していく姿をじーっと見ていた。

自分自身「何に対して感動スイッチが入るのか?」がいまだにわからないが、湖上駅への橋を通過していくトロッコ列車を見て、間違いなく感動している自分がいた。

感動そのままに、来た道を戻る。再び長島ダム駅で、トロッコ列車に追いついた。身をもってトロッコ列車が自転車と変わらない速度だと実感した。

意外に思われるかもしれないが、僕は同じ道を往復するのは好きだ。

往路は前を見て走っているので後方の景色を見ることができないので、復路では見られなかった景色を見られるからだ。

そして帰り道で、川の色はコバルトブルーかな? ベタなところで大井川ブルーなのかなぁ? と考えたりしていた。

もしもここをサイクリングで訪れる機会があるならば、川の色を見たときに、どんな呼び名が合っているのかを考えてほしい。

僕に言わせれば大井ブルーかな(笑)。

温泉には入れなかったけど、天ぷらと蕎麦を食べて幸せに

ということで、出発地点の千頭駅に到着した。この後、日帰り温泉に入ろうとしたのだが、コロナ対策で町民以外は入浴をお断りしているらしい。残念。道の駅のトイレの水道でタオルを濡らし身体を拭いてさっぱりしておいた。

さてさて、地元の美味しいご飯を食べるのも、旅の楽しみである。地元の方に「この辺りでお勧めのご飯は何ですか?」と聞くと、そこの蕎麦屋だよと指を指して教えてくれたのは、風情がある蕎麦屋さんだった。

お昼を少し過ぎているので、店内は空いていたが、蕎麦の残りが少ないらしい。注文したのは天ぷらそばと、稲荷ずし。「天ぷらは桜エビです」と女将さんが教えてくれた。

蕎麦をそばつゆに付けず食べてみると、蕎麦の風味が感じられて、もっちりして、のど越しもツルっとしている。

稲荷すしも、味付けがしっかりしていて、美味しい。そして桜エビの天ぷらも、身が大きく食べ応えがあり、蕎麦汁に付けると油が染み出してうまみが増す。地元の方が美味いといって、おススメしてくれた理由がわかった。

お腹も満腹になり、走りたかった道や風景も見られて、僕は満足じゃ。

ということで今回の旅はおしまい。またの機会に旅のレポートをお届けする。

コースデータ

プロフィール 筧五郎

全日本マウンテンサイクリングin乗鞍で優勝したほか、シクロクロスマスターズ元日本チャンピオン。酷道の旅をライフワークとする56サイクル店主。名古屋でメンテナンスやトレーニング指導を行う。
www.56cycle.com

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Bicycle Club編集部

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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