ピレネー初日はモレマが41kmを独走、鮮やかに逃げ切る|ツール・ド・フランス
福光俊介
- 2021年07月11日
ツール・ド・フランスはピレネー山脈まで進行。その初日となった第14ステージが現地7月10日に行われ、最後の41kmを独走に持ち込んだバウケ・モレマ(トレック・セガフレード、オランダ)が逃げ切り。ツールでは4年ぶりとなるステージ優勝を挙げた。個人総合首位のマイヨジョーヌはタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)で変わらないが、逃げ切った選手の中に個人総合上位の選手が入ったことで、順位がシャッフル。本格山岳に向けて、情勢が変動している。
早めの仕掛けで得意の独走に持ち込んだモレマ
大会は重要局面を迎えようとしている。第2週はアルプス山脈に別れを告げ、フランス南部を西へ向いて進んできたが、いよいよ勝負区間であるピレネー山脈へと足を踏み入れることに。その初日となる第14ステージは、前日のフィニッシュ地でもあったカルカッソンヌからキヤンまでの183.7km。2級と3級の上りが合計5つ含まれるコースは、主催者発表で丘陵ステージにカテゴライズ。最後にのぼるコル・ド・サン・ルイ(登坂距離4.7km、平均勾配7.4%)は、フィニッシュ前約17kmで頂上に到達。最大勾配12%で、仕掛けどころとしては最適なポイントといえそうだ。
スタートを前に、ワレン・バルギル(チーム アルケア・サムシック、フランス)と前日のクラッシュでコース外まで飛ばされたセーアン・クラーウアナスン(チームDSM、デンマーク)が未出走。149人がカルカッソンヌを出発した。
リアルスタートからのアタックでは、ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ、フランス)やトーマス・デヘント(ロット・スーダル、ベルギー)らが果敢な姿勢。一時的にリードを奪う場面があったものの、逃げを決めるところまでは至らない。
出入りが繰り返される中、逃げが決まったのはスタートから38kmほど進んだ地点。5人が先行する。しかし、集団もペースを緩めず、容認ムードとはならない。50.9km地点に設けられた3級山岳地点は、逃げからクリスティアン・ズバラーリ(アルペシン・フェニックス、イタリア)が1位となるが、25kmほど進んだ先の中間スプリントポイント通過とともにメイン集団がキャッチ。逃げからの流れでジョナス・リカールト(アルペシン・フェニックス、ベルギー)がトップ通過したが、この直後に集団が1つになった。
ふりだしに戻ったメイン集団では、ヴィンチェンツォ・ニバリ(トレック・セガフレード、イタリア)が仕掛ける場面があるも、展開を動かすようなほどにはならない。そのまま2級山岳コル・ド・モンセギュールに入り、ワウト・プールス(バーレーン・ヴィクトリアス、オランダ)とマティア・カッタネオ(ドゥクーニンク・クイックステップ、イタリア)の飛び出しをきっかけに、次々と選手たちが前をうかがう。この上りはプールスが、次の2級山岳コル・ド・ラ・クロワ・デ・モールはマイケル・ウッズ(イスラエル・スタートアップネイション、カナダ)がそれぞれ1位通過。この間に先頭は10人に膨らみ、さらに4人が追走。残り60kmを切ったところで先頭に合流し、最大14人の先頭グループとなった。
先頭ではプールスとウッズが激しい山岳ポイント争い。3級のコート・ド・ガリナーグではマッチスプリントとなり、プールスが先着。山岳賞を目指す2人の意思が長い時間ぶつかり合った。その後の下りでウッズが落車するも、すぐにバイクに戻って集団に復帰。この頃にはメイン集団とは5分近いタイム差となっており、先行するメンバーからステージ優勝者が出る可能性が高まった。
そんな中、決定打となったのは残り41km。下り区間を終えようかというタイミングで、モレマがアタック。そのまま独走態勢に持ち込むと、残り30kmで後続とは1分5秒差に。最後の上りであるコル・ド・サン・ルイで追走メンバーが絞られていく一方で、モレマは快調なクライミング。頂上までを一番に駆け上がると、フィニッシュへと続く下りへと移っていった。
終盤も危なげない走りを続けたモレマ。追う選手たちとの差は最後までほとんど変わらず、勝利へと突き進んでいく。残り2kmを切って勝利を確信すると、テレビカメラやチームカーへ向かってガッツポーズ。最終ストレートは大歓声を受けてのウイニングライド。3日前の第11ステージではステージ優勝まであと一歩に迫っていたが、晴れて勝利の瞬間を迎えた。
モレマはこれで、2017年の第15ステージに続くステージ2勝目。かつては個人総合でも上位の常連だったが、近年はステージ狙いにシフト。このステージでも巧みなレース運びで白星を獲得した。
後続は、追走メンバーがいくつかのパックに割れた状態で最終局面へ。4人でやってきた2位争いはパトリック・コンラッド(ボーラ・ハンスグローエ、オーストリア)が制し、セルヒオ・イギータ(EFエデュケーション・NIPPO、コロンビア)が3位となった。
レース半ばから先行した14人がそのままステージ上位を占め、メイン集団はモレマから6分53秒差でフィニッシュへ。主にリーダーチームのUAEチームエミレーツがペーシングをして、レース距離を消化。ポガチャルも問題なく走り切り、マイヨジョーヌのキープを決めている。
個人総合上位の順位に変動があり、この日同9位でスタートしていたギヨーム・マルタン(コフィディス、フランス)が逃げでレースを進め、ステージ11位で終えたことによりタイムを稼ぎ出すことに成功。一気に7ランク上げて2位浮上。ポガチャルとは4分4秒差としている。また、同11位だったカッタネオもステージ4位だったことにより、総合タイム差を縮めてトップ10に入ってきている。
各賞でも動きがあり、カテゴリー山岳を複数回上位通過したウッズが山岳賞首位へ。マイヨアポワに袖を通している。
翌11日に行われる第15ステージから、ピレネーの本格的な上りをこなすこととなる。謬番以降に1級と2級の上りを立て続けに4つこなす。3つ目の上りである1級のポルト・ダンヴァリラの頂上は、標高2408m。最後の登坂となる1級コル・ド・ベクサリス(登坂距離6.4km、平均勾配8.5%)は、上りの入口が急坂。頂上通過後はフィニッシュへ向かって約15kmのダウンヒルが待つ。残り50kmを切ったタイミングから、今大会唯一の海外進出となる隣国アンドラ公国を走ることになる。そして、このステージを終えると2回目の休息日を迎える。
ステージ優勝 バウケ・モレマ コメント
「最高の1日になった。逃げが決まるまで90kmかかったが、ベストタイミングを逃さなかった。逃げグループには力のある選手がそろっていたが、協調が上手くいっていなかった。調子は良かったので、この状況を変えるのに早めに仕掛けた。41kmの独走は大変だったが、長時間の単独走には自信があった。勝つ可能性が高いと感じていたし、失うものは何もなかったので全力を尽くした。最終局面も、後ろと50秒以上タイム差があると聞いて勝利を確信した」
マイヨジョーヌ、マイヨブラン タデイ・ポガチャル コメント
「マルタンが飛び出していて総合順位を上げる可能性があったことについては、それほど気にしていなかった。一気にタイム差を縮められるのは良くないが、現時点で4分台なので問題はない。
調子はとてもよく、バイクのフィーリングも上々。今日はレースの中でいろいろと試しながら走った。また、チームメートみんながトラブルなく走り切ったことにも満足している。アンドラのステージについてはある程度チェックはしているが、詳しくは把握しきれていないところがある。難しいステージになると思うが、明日はディフェンシブに走ろうと考えている。目的はマイヨジョーヌをキープすること。攻撃するかは…チャンスがあれば、といったところだ」
ツール・ド・フランス2021 第14ステージ 結果
ステージ結果
1 バウケ・モレマ(トレック・セガフレード、オランダ)4:16’16”
2 パトリック・コンラッド(ボーラ・ハンスグローエ、オーストリア)+1’04”
3 セルヒオ・イギータ(EFエデュケーション・NIPPO、コロンビア)ST
4 マティア・カッタネオ(ドゥクーニンク・クイックステップ、イタリア)+1’06”
5 マイケル・ウッズ(イスラエル・スタートアップネイション、カナダ)+1’10”
6 オマール・フライレ(アスタナ・プレミアテック、スペイン)+1’25”
7 エリー・ジェスベール(チーム アルケア・サムシック、フランス)ST
8 カンタン・パシェ(B&Bホテルズ KTM、フランス)ST
9 ルイス・メインチェス(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、南アフリカ)+1’26”
10 エステバン・チャベス(チーム バイクエクスチェンジ、コロンビア)+1’28”
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア) 56:50’21”
2 ギヨーム・マルタン(コフィディス、フランス)+4’04”
3 リゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・NIPPO、コロンビア)+5’18”
4 ヨナス・ヴィンゲゴー(チーム ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)+5’32”
5 リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ、エクアドル)+5’33”
6 ベン・オコーナー(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、オーストラリア)+5’58”
7 ウィルコ・ケルデルマン(ボーラ・ハンスグローエ、オランダ)+6’16”
8 アレクセイ・ルツェンコ(アスタナ・プレミアテック、カザフスタン)+6’30”
9 エンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)+7’11”
10 マティア・カッタネオ(ドゥクーニンク・クイックステップ、イタリア)+9’48”
マイヨヴェール(ポイント賞)
マーク・カヴェンディッシュ(ドゥクーニンク・クイックステップ、イギリス)
マイヨアポワ(山岳賞)
マイケル・ウッズ(イスラエル・スタートアップネイション、カナダ)
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)
チーム総合成績
バーレーン・ヴィクトリアス
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。