ワウトが個人TT快勝で2勝目、ポガチャルは総合2連覇へ王手|ツール・ド・フランス
福光俊介
- 2021年07月18日
大詰めを迎えたツール・ド・フランス。現地7月17日に第20ステージを行い、今大会2回目となる個人タイムトライアルステージをワウト・ファンアールト(チーム ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)が勝利。第11ステージに続いてこの大会で2勝目を挙げた。個人総合では、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)の2連覇が決定的に。このステージは危なげない走りで8位とまとめ、マイヨジョーヌを確かなものとした。
東京五輪へ期待が膨らむワウトの勝利
3週間の戦いは残り2ステージ。大会3週目に入ってからはピレネーの山岳ステージで今大会のトップ3が激突し、前日の第19ステージでは大人数の逃げが大量リードを奪ったりと、グランツールの後半戦ならではのレース展開が繰り広げられた。
そして第20ステージ。ツールにおいては最終の第21ステージの大部分がパレード走行となることから、総合成績をかけた争いはこの日事実上最終日。今回は30.8kmの個人タイムトライアルが設定された。コースレイアウトはおおむね平坦。これを全選手が走り終えた時点で、今大会の勝者が実質決定する。
この日のスタート時点で、個人総合トップのポガチャルから2位のヨナス・ヴィンゲゴー(チーム ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)までが5分45秒差。さらに6秒差でリチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ、エクアドル)が続く。同4位以降も混戦で、このステージの攻略次第で順位がシャッフルする可能性も残されている。
レースは、個人総合の下位から順にコースへと繰り出していく。28番スタートのミッケル・ビョーグ(UAEチームエミレーツ、デンマーク)が36分45秒と、まずは好タイムをマーク。その後シュテファン・ビッセガー(EFエデュケーション・NIPPO、スイス)がそれを8秒更新してトップに立つ。
ただ、前半スタート組で基準タイムとなったのが、74番目にコースへと飛び出したカスパー・アスグリーン(ドゥクーニンク・クイックステップ、デンマーク)の36分14秒。これが長く一番時計のままとなる。7.5kmと20.1km地点に設けられた中間計測までアスグリーンを上回っていたシュテファン・キュング(グルパマ・エフデジ、スイス)は、終盤にペースを落とし、アスグリーンのフィニッシュタイムには届かなかった。
この状況を打ち破ったのが、124番目にスタートしたファンアールトだった。スタートから快調に飛ばすと、途中2回の計測で立て続けにトップタイムを記録。後半に入ってからはそれまでの一番時計を大きく上回り、フィニッシュタイムも一番となることが濃厚な情勢。そしてフィニッシュでは、アスグリーンを21秒上回り、結果的に唯一の35分台となる35分53秒。平均時速51.5kmで走破した。
このあと、ファンアールトのタイムを上回るどころか、肉薄する選手も現れないまま、個人総合上位陣の走りへと移っていく。ブレーキとなる選手は現れず、一様に総合でのポジションをキープする走り。残すはトップ3へ。
個人総合3位のカラパスは、フィニッシュタイムこそファンアールトから2分9秒遅れたが、同4位のベン・オコーナー(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、オーストラリア)よりは速く走り切り、総合表彰台はほぼ決定。
この日トップ3の中で最も良い走りを見せたのが、同2位のヴィンゲゴーだった。スタートから飛ばすと、第1計測で3番時計。さらにペースを上げて第2計測を2番のタイムで通過すると、あとはフィニッシュがどうなるか。チームメートのファンアールトには届かなかったものの、終盤の落ち込みも最小限にとどめて32秒遅れの3位とする。
いよいよ、最終走者ポガチャル。十分なリードを持っており、さながらウイニングライドとなった30.8km。勝利した第5ステージほどの攻めの姿勢ではなかったものの、大きなトラブルはなく、きっちりと走り切ってフィニッシュラインを通過。ファンアールトから57秒差の8位として、大会2連覇に向けたレースを完了させた。
これで、ファンアールトのステージ優勝が決定。モン・ヴァントゥを上って逃げ切った第11ステージに続く、今大会2勝目。ツール通算では5勝目とし、個人タイムトライアルステージでは初勝利。迫る東京五輪ではロードレース、個人タイムトライアルの2種目に出場予定で、両レースでの活躍に期待が膨らむ快勝となった。
そして個人総合。ポガチャルはヴィンゲゴーにわずかに差を詰められたものの、これまでの貯金を取り崩すほどではなく、大会2連覇を決定的にした。マイヨジョーヌだけでなく、山岳賞のマイヨアポワ、ヤングライダー賞のマイヨブランも保持し、今大会3冠が確定的な状況だ。ツール初出場で殊勲の走りとなったヴィンゲゴーは5分20秒差の2位、カラパスは7分3秒差の3位として、この3人が翌日にパリ・シャンゼリゼの総合表彰台に上がることとなりそうだ。また、トップ10の順位も前日終了時から変動はなかった。
翌18日、大会はついに最終日を迎える。第21ステージは、パリへ向かう108.4km。スタートからしばらくは、慣例のパレード走行。レースはパリ市内に入ってからの“幕開け”。ルーブル美術館の中庭を通って、シャンゼリゼ通りの周回コースへ。これは8周回して、フィニッシュする。勝負はスプリントで決まることが多く、今回はマーク・カヴェンディッシュ(ドゥクーニンク・クイックステップ、イギリス)がステージ通算最多記録の35勝目を挙げられるかが焦点に。同時に、ツール2021年大会の王者や各賞が正式に決定する。
ステージ優勝 ワウト・ファンアールト コメント
「ツールの個人タイムトライアルステージで勝つことは、キャリア最大目標の1つだった。ここ数日はこのステージに集中してきて、成功させられたことをとてもうれしく思う。第5ステージと比較して、今日はハイペースで押すことのできる、私向きのコースだった。完璧な1日に仕上がったと思うし、やり切った感触がある。ホットシートで他選手の走りを見るのは緊張したが、個人総合上位選手の中間計測を見るたびに安心できた。
チームとしては非常に困難のツールだったが、3ステージで勝てて、ヨナス(ヴィンゲゴー)が個人総合2位。今は達成感に満ちている」
マイヨジョーヌ、マイヨアポワ、マイヨブラン タデイ・ポガチャル コメント
「今大会では過去の偉大な選手たちとの比較をされることも多かったが、正直あまり良い気分ではなかった。どのライダーにも個性があるし、私自身プロトンのボスになったとも思っていない。ロードレースが仕事で、最高の結果を出すためにここにいるだけのこと。そして、起きたことに対して受け入れ、楽しむことを心掛けている。サイクリングはとても難しいスポーツだが、リラックスしてトレーニングに臨めば、とても楽しいことが待っている。
今のところはダブル・ツールは考えていない。いままで考えたこともない。すべてのレースでベストを尽くしているが、最大目標はツール・ド・フランスで、今大会にも自信をもって臨むことができていた。ただ、この結果はチームメートのおかげだと思う。彼らがいなければ、このような結果にはならなかった。
今大会で一番印象に残っているのは、第18ステージでの勝利。チーム一丸となって獲った勝ちだった。昨年から自分自身は変わっていないと思うが、メディア対応の機会は増えたと思う。多くの質問をされ、そのいくつかは似たようなものばかりだったりするが、そんな日々にも慣れた。朝起きて、トレーニングをして、食べて、寝て、ときに友達と遊んで、家族と過ごして…それがいつものルーティーンだ。そこにマイヨジョーヌが加わることをこれからは楽しみたい。
次の目標は東京五輪。時差と暑さ、湿度に慣れないうちにレースを迎えるが、4年に1度しかないチャンスだから優勝を目指す。将来的な目標は今のところ考えていない。いつかジロ・デ・イタリアや、良い思い出のあるブエルタ・ア・エスパーニャのタイトルには挑戦したい。もちろんクラシックでも輝きたい。だけど、とりあえずは休みたい。いま望んでいることはそれだけだ」
個人総合2位 ヨナス・ヴィンゲゴー コメント
「ツール初出場で個人総合2位になれるとは思っていなかった。もともとの予定はプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)のアシストで、個人的には3週間を走り切ることが目標だった。この結果は本当に信じられないし、今でも理解できずにいる。
大会期間中はストレスもあったが、それをコントロールする方法を身につけることもできた。この大会で結果を残すには、ストレスに対しいかに対処できるかが大事であることを学んだ。
地元に帰って祝福してもらうのがいまはとても楽しみ。2位という結果は本当にうれしい。これからはさらに注目されるようになるのは分かっている。そうした状況は好きだが、ヨナス・ヴィンゲゴーという人間であることには変わりない」
個人総合3位 リチャル・カラパス コメント
「素晴らしい結果になり満足している。タイムトライアルの順位やタイム差自体はワウト・ファンアールトから見てのものになるから、総合成績の観点で見れば気にしていない。チームとして勝ちたかったことは確かだが、勝利を得られるのは1人だけ。それがスポーツだし、このツールではタデイ・ポガチャルが別次元だった。これは受け入れなければならないし、マイヨジョーヌにまたチャレンジすれば良いだけのこと。来年も同じ結果かもしれないし、もっと上の成績かもしれない」
ツール・ド・フランス2021 第20ステージ 結果
ステージ結果
1 ワウト・ファンアールト(チーム ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)0:35’53”
2 カスパー・アスグリーン(ドゥクーニンク・クイックステップ、デンマーク)+0’21”
3 ヨナス・ヴィンゲゴー(チーム ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)+0’32”
4 シュテファン・キュング(グルパマ・エフデジ、スイス)+0’38”
5 シュテファン・ビッセガー(EFエデュケーション・NIPPO、スイス)+0’44”
6 マティア・カッタネオ(ドゥクーニンク・クイックステップ、イタリア)+0’49”
7 ミッケル・ビョーグ(UAEチームエミレーツ、デンマーク)+0’52”
8 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)+0’57”
9 マグナス・コルト(EFエデュケーション・NIPPO、デンマーク)+1’00”
10 ディラン・ファンバーレ(イネオス・グレナディアーズ、オランダ)+1’21”
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア) 80:16’59”
2 ヨナス・ヴィンゲゴー(チーム ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)+5’20”
3 リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ、エクアドル)+7’03”
4 ベン・オコーナー(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、オーストラリア)+10’02”
5 ウィルコ・ケルデルマン(ボーラ・ハンスグローエ、オランダ)+10’13”
6 エンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)+11’43”
7 アレクセイ・ルツェンコ(アスタナ・プレミアテック、カザフスタン)+12’23”
8 ギヨーム・マルタン(コフィディス、フランス)+15’33”
9 ペリョ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス、スペイン)+16’04”
10 リゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・NIPPO、コロンビア)+18’34”
マイヨヴェール(ポイント賞)
マーク・カヴェンディッシュ(ドゥクーニンク・クイックステップ、イギリス)
マイヨアポワ(山岳賞)
タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)
チーム総合成績
バーレーン・ヴィクトリアス
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- TEXT:福光俊介 Photo:福光俊介 A.S.O./Charly Lopez A.S.O./Pauline Ballet A.S.O./Aurélien Vialatte
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。