ギヤの多段化は退化?【革命を起こしたいと君は言う……】
Bicycle Club編集部
- 2021年07月31日
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スチールバイクの限界に挑む今野製作所「CHERUBIM(ケルビム)」のマスタービルダー、今野真一の手稿。今回は最近のコンポーネントやフレームの規格変更が、果たして進化なのか!?を検証する。
多段化の波
ここ10年、いや自転車という乗り物が世のなかに認知されてからギヤの多段化に各社は凌ぎを削り新商品開発に勤しんできた。
なにを隠そう私もつねにギヤの多段化には賛成派で、ユーザー(とくに初心者)には推したい。理想は無段階のギヤでは?と諭したりもしている。結果ギヤの枚数という話ではなく、脚や体の状態に無段階に対応してくれるギヤが必要だと信じている。
しかし、最新の12速に乗ると、なにかが違うという気がしてしかたない。それは多段化と引き換えに捨ててしまった機能が多いからでは?と考えている。問題と思われる項目をあげてみよう。
リアエンド幅
これは120mmから始まり、現在ディスクフレームでは142mmとなっており、カカトがリアの車軸やディレイラー、ディスクブレーキと当たるという現象が起きてくる。
また自転車のバランスとしてシャープな走りの印象は薄くなり、空気抵抗にも影響を及ぼす。
この解決策としてQファクターを広げることまで行われている。これでほんとうにライダーの脚を考えているのか謎だ。
ピスト競技者の間では、エンド幅120mm幅より110mm幅の方がダッシュの掛かりがいいという選手もけっこういる。
チェーンの薄さ
これは致命的な変更と思われる。チェーン厚は7.5mm前後あった物が今では5mmを切る物まであり、それに伴いギヤ板の厚さは2.5mm前後から1.7mmくらいになっており、6割前後薄くなっていることになる。これではまったくと言っていいほど別物になる。伝達効率、伸びは驚くほど変化する。
登坂でダッシュしたときにはおそらくどのライダーも感じていると思う。私に言わせれば今のチェーンはゴムのような物だ。
たすき掛けのロス
多段化により必然的にたすき掛けの角度がきつくなる。薄いチェーンにしたことにより、きついたすき掛けが可能となったが、これもまたいい結果にはなっていないはず。そのあたりのパワーロスのデータも開示してもらいところだ。
チェーンステーの長さ
こちらも現在の推奨値は410mmと、少し前だとガード付きのスポルティーフの値となる。チェーン稼働の幅が増えたのだから、このくらいの長さがなければ対応できないので仕方のない話だが……。自転車全体の設計の変更により、ダイレクトな感覚は失われるという結果は見えている。
人間の五感の影響
人間が直感的かつ瞬時に扱える数は10と聞いたことがある。根拠は左右の指の数と関係している。これ以上となると思考の混乱を招くという。私は脚もいれれば20あるから、まぁこのくらいならと考えていたが、13速であれば26段となり、なかなか……。
フロントシングル化の謎
リアが12段ありおよそ必要なギヤレシオをすべてカバーしてしまっているということで、フロントシングル化も流行している。しかしよく考えてみれば本末転倒で、その理論であれば、フロント2枚リアは6枚あれば足りるのでは?とも考えたりもする。
ロードレーサーはギヤやフリーが付くことが最大の利点だが、それゆえに自転車の根本的な性能や感覚を感じ取りにくい傾向にある。ピスト車ではチェーン厚の違いは初心者でも一発で感じられる。
進化するデザインとは
物を作る以上「少しでもよく」「理想を追求する」この精神はなくてはならない。製作者はあらゆる試行錯誤を行う。
しかし、毎年のように進化したモデルを出し続けなければ、という事情もある。理由も否めないし否定もするつもりはない。
しかし物を改善することがいつの間にか義務となってしまい、せっかくいい構造を捨ててしまう過ちもけっこう起こりがちだ。
スプロケットはどこまで進化すれば理想なのか?
考えるほどにくだらない話に思えてきてならない。それよりもどこかのメーカーで「最新の5Sギヤシステム」でも発表して欲しいものだ。
Cherubim Master Builder
今野真一
東京・町田にある工房「今野製作所」のマスタービルダー。ハンドメイドの人気ブランド「ケルビム」を率いるカリスマ。北米ハンドメイド自転車ショーなどで数々のグランプリを獲得。人気を不動のものにしている
今野製作所(CHERUBIM)
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