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東京五輪で金メダルを狙う! 時速65㎞で走るトラックバイクの戦い

五輪自転車競技の最後を飾るトラック競技。周長250mのベロドロームで行われる競技は人力で出せる最速のスピードで行われる。金メダルをかけた機材の開発競争も熾烈だ。

バイク開発をめぐる戦いをピークス・コーチング・グループの中田尚志さんが紹介する。

トラックは空気抵抗との戦い

トラックバイクで培った技術をロードバイクに生かすイタリア・ピナレロ

イタリアが使ったピナレロ・ボライドHRのCFD(計算流体力学)解析例。流体力学的にベストな組み合わせを求め、形状を決定する©Pinarello

時速60kmを超えるトラック競技では切り裂く空気が最大の抵抗となる。今回、東京五輪のチームパシュートで優勝したイタリアは64.856㎞/hという記録をたたき出している。そのため、空気抵抗削減が最重要視され、重量削減は二の次である。
空気抵抗の内訳はライダーが最も大きく、次にホイール、そしてフレームとなる。各国は空気抵抗の少ないバイク、ヘルメット、ウエアの開発競争に余念がない。さらに風洞実験室に入り、ライダーとバイクを合わせて空気抵抗が少ない組み合わせを探す。

速度域、ライダーの大きさ等で最適解が変わるため、「この機材が最高」と単純にランク付け出来ないところが開発陣の悩みでもある。

例えば、あるライダーは前輪にバトンホイールを選び、別のライダーはディープリムを選択するということがあり得るわけだ。

イタリアチームの使ったピナレロ・ボライドHR 重量:フレーム+フォーク1.9 kg、完成車 7.1 kg PHOTO:GettyImages
エアロバーは3Dプリンターによるチタン製 ©Italian National team

 

フロントフォークの形状はホイールに合わせて設計したものになっている。このためホイールとフォークのクリアランスを大きくしたものを採用 ©Pinarello

開発には風洞実験とCFD解析を併用し、空力の最適化を目指している。特に空気を最初に切り裂くハンドル・ヘッドチューブ・フォーク・ホイールを開発の重要項目と位置づけている。

4kmチームパーシュートに使うボライドHRでは前後ディスクでの使用を前提にフレーム&フォークのデザインを決定。競争種目で使用するMaatではバトンもしくはディープリムでの使用を想定した設計がなされている。

ジロ・デ・イタリアを走ったフィリッポ・ガンナ、こちらはロードモデルのボライド Photo: Tim de Waele/Getty Images

古くはミゲール・インデュラインがアワーレコード挑戦に使用したエスパーダから、最新のトラック用TTモデルのボライドHRへ進化、いっぽうではマートに乗ったエリア・ヴィヴィアーニがオリンピックで銅メダルを獲得している。

ピナレロではトラック・バイクの開発で培った技術をロードのワールド・ツアー・チームに供給し熟成する手法を伝統的に採用している。

レース種目向けに開発されたトラックバイク「MAAT(マート)」©Pinarello
ステムと一体型ハンドルにはブラケットような形状を採用 ©PINARELLO

公称”市販”のバイク

高価なバイクを投入するイギリス

イギリス代表の使うホープ/ロータストラックバイク。フレームとフォークの販売価格は15,550ポンド(約233万円、1ポンド=150円で計算) https://www.lotuscars.com/

これまでの五輪では機材は市販品と各国が自国のために開発したスペシャルバイクが入り乱れていた。
UCIは莫大な開発費を持つイギリスなどの国と他国との機材格差が広がっている現状を鑑み、公平を期すために今回の五輪から機材を事前に登録する制度を設けた。その中で「使用する機材は市販品で無ければならない」というルールが作られた。
しかし実際には、通常の市場価格からかけ離れた価格設定がなされたり、納期を五輪以降にするなどして自国のみに供給しようとするメーカーも多い。何としてでも自国選手を有利にしたい各国の思惑が見て取れる。

開発サイクルは4年

五輪が最大のイベントとなるトラック競技ではバイクの開発サイクルは4年。多くのメーカーが次の五輪に合わせて新しいバイクを開発する。東京五輪を走るのはこの日の為に開発された最新のバイクたちだ。

日本技術の結晶ブリヂストン

©ブリヂストンサイクル

国産バイクの老舗であり、五輪のワールドワイドパートナーも務めるブリヂストンは技術の粋を集めたトラックバイクを登場させた。自動車用タイヤのブランド名を冠したバイクとあって海外からの注目度も高い。トラックバイクの技術を受け継いだロードバイクRP9の発表も話題だ。

ドイツが誇るバイクFES

トラック世界選手権ベルリン大会にて  ©PCG-Japan
©PCG-Japan 謎のバイクFES トラック世界選手権ベルリン大会にて (ドイツ)

ドイツが長年採用するバイクはFES。ハンドル、フレームをセットで開発している。前影投影面積を減らすためにハブはフロント70mm リア79mmを使用。そのため、チェーンはトラック競技で一般的に使われる厚歯(1/8)を使うスペースがなく、ロードチェーンと同じナロータイプ(3/32)を使用している。

タイヤは多くの国が使用するビットリアでは無く、ドイツのコンチネンタルを使用する。タイヤによるものかフレームによるものかは不明だが、他国に比べて明らかに走行音が静かなのも、FESの謎めいた雰囲気をより一層際立たせる。

ちなみに筆者の知人がウェブサイトを通じてFESのバイク購入を試みたことがあるが、メールの返事は無かったという。他国がFESを使用した例は皆無だ。

FESオリジナルのパワーメーター。トラック世界選手権ベルリン大会にて ©PCG-Japan
有機的な形のハンドルも特徴的だ。トラック世界選手権ベルリン大会にて ©PCG-Japan

空力のスペシャリスト、ダン・ビグハムが支えるデンマーク

デンマーク躍進を支えるダン・ビグハム トラック世界選手権ベルリン大会にて ©PCG-Japan

男子チームパーシュートで銀メダルに輝いたのはデンマークチーム。
市販品のアルゴン18のフレームにワット・ショップがオーダーメードで制作するカーボンDHバーを組み合わせる。このハンドルはライダーの前腕部とバーの隙間を無くし空気抵抗を削減している。

デンマークチームに雇われたのは空力のスペシャリスト、ダン・ビグハム(イギリス)。F1のメルセデスチームで働いたこともある彼は、自身も現役のプロ選手だ。彼のアドバイスは機材の空気抵抗削減のみならず、駆動抵抗削減を目指したチェーンのワックス加工、先頭交代の最適化やペーシングにまで及ぶ。デンマーク躍進を支える影の立役者だ。

 

TOKYO2020のチームパシュートの様子はこちらへ↓

予選1日目

東京五輪男子チームパシュート、デンマークがトップ、ガンナ擁するイタリアが2位で予選通過

東京五輪男子チームパシュート、デンマークがトップ、ガンナ擁するイタリアが2位で予選通過

2021年08月02日

予選2日目

男子チームパシュート決勝はイタリアとデンマーク! 女子はドイツが世界新で金メダル

男子チームパシュート決勝はイタリアとデンマーク! 女子はドイツが世界新で金メダル

2021年08月03日

決勝

東京五輪男子チームパシュート、ガンナ猛追でイタリアが大逆転、61年ぶりの金メダル

東京五輪男子チームパシュート、ガンナ猛追でイタリアが大逆転、61年ぶりの金メダル

2021年08月04日

 

熱戦が続く東京五輪、各国が威信をかけて開発したバイクにも注目して欲しい。
TOKYO2020の配信、スケジュールはこちらへ↓
TOKYO2020の2021年新スケジュール決定、自転車競技は7月24日のロードからスタート

TOKYO2020の2021年新スケジュール決定、自転車競技は7月24日のロードからスタート

2020年07月18日

中田尚志 ピークス・コーチンググループ・ジャパン

ピークス・コーチング・グループ・ジャパン代表。パワートレーニングを主とした自転車競技専門のコーチ。2014年に渡米しハンター・アレンの元でパワートレーニングを学ぶ。
https://peakscoachinggroup.jp/

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中田尚志

中田尚志

ピークス・コーチング・グループ・ジャパン代表。パワートレーニングを主とした自転車競技専門のコーチ。2014年に渡米しハンター・アレンの元でパワートレーニングを学ぶ。

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ピークス・コーチング・グループ・ジャパン代表。パワートレーニングを主とした自転車競技専門のコーチ。2014年に渡米しハンター・アレンの元でパワートレーニングを学ぶ。

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