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ログリッチは総合3連覇で歴史に名を刻むか!? ブエルタ・ア・エスパーニャ2021有力選手プレビュー

2021年シーズン3つ目のグランツールとなるブエルタ・ア・エスパーニャが814日に、ブルコスで幕を開ける。注目は何といっても、プリモシュ・ログリッチ(チーム ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)の個人総合3連覇なるか。それを阻止すべく、今年のグランツールでは一番といえるビッグネームが多数スペインに集結。ブエルタの歴史に残る大激戦が繰り広げられること間違いなしだ。そして、われらが新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)の参戦も決定。楽しみ満載の大会を、有力選手たちの動向から占っていこう。

※本記は8月12日時点での各チームの出場選手発表または暫定リストに基づく。大会開幕までに出場予定が変更となる場合があります。

【保存版】ブエルタ・ア・エスパーニャ2021スタートリスト&コースプレビュー

【保存版】ブエルタ・ア・エスパーニャ2021スタートリスト&コースプレビュー

2021年08月13日

総合3連覇狙うログリッチは個人TTが大きなアドバンテージに

最大の焦点となるログリッチの走り。一昨年の大会でグランツール初制覇を達成し、昨年はリチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ、エクアドル)との激闘を制し連覇。直前のツール・ド・フランスで世紀の大逆転によってタイトルを失ったショックを感じさせない強さを見せつけた。

個人総合3連覇に挑む今回。これが果たされると、19921994年のトミー・ロミンゲル(スイス)、20032005年のロベルト・エラス(スペイン)に続く偉業となる。

先のツールをリタイアするきっかけとなった激しい落車による負傷がどうしても心配になるが、何より東京五輪・個人タイムトライアルでの圧勝で不安は払拭されたと見ても良いだろう。その前のロードでも背中を痛めるアクシデントがあったが、短期間にコンディションを整える修正能力を示しており、ブエルタにも万全の態勢で臨めるはず。この大会特有のタフな山岳に向けては、ロベルト・ヘーシンクやステフェン・クライスヴァイク、サム・オーメン(いずれもオランダ)という実力者に加えて、ツールでも活躍したセップ・クス(アメリカ)もメンバー入り。その走りを支える。

個人総合3連覇がかかるプリモシュ・ログリッチ。個人タイムトライアルで大きなリードを奪う可能性が高い ©PHOTOGOMEZSPORT2020

そして何といっても、個人タイムトライアルステージでアドバンテージを築ける点で、3週間を有利に戦える可能性が高い。場合によっては、7.1kmの第1ステージからリーダージャージのマイヨロホに袖を通すことだって大いにあり得る。また、最終・第21ステージが33.8kmの中距離個人TTとあり、急峻な山岳で仮にリードを得られなかったとしても、トップが見える位置で最終日を迎えられれば逆転は計算に入る。東京五輪での金メダル獲得は、ライバルにとってこれまで以上の脅威に感じられることだろう。

総合系ビッグネームが大集結! ポイントは個人TTをいかに乗り切るか

本命がログリッチならば、今年の対抗馬はあふれかえるほどの人数。何が起こっても不思議ではないメンツがそろう。

チーム単位で見ていこう。対抗馬一番手になりそうなのが、イネオス・グレナディアーズ勢だ。ジロ・デ・イタリアに続く今季2つ目のグランツールタイトルを目指すエガン・ベルナル(コロンビア)が満を持して参戦。ジロ後は新型コロナウイルス感染があったものの、自国へ帰国したのちブエルタへ調整を開始。前哨戦のブエルタ・ア・ブルゴスでは落車した関係で上位進出はならなかったが、本番に向けては問題はなさそう。この大会特有の険しい山々に最もフィットする男と言えそうだ。

ログリッチに対抗する一番手となるエガン・ベルナル。ジロ・デ・イタリアに続く今季2つ目のグランツール制覇なるか ©︎ RCS SPORT

東京五輪ロードでの金メダル獲得が記憶に新しいカラパスも参戦。昨年は個人総合2位、ツールでは同3位と、グランツールでのハイアベレージが光る。実力通り走れば上位は固いが、今回はどんなスタンスで挑むか注目。ベルナル、カラパスと異なり、今季のグランツールをブエルタ一本に絞ってきたアダム・イェーツ(イギリス)をチームはどう動かすか。この3人がプランABCを占めるなら、Dにはパヴェル・シヴァコフ(ロシア)も控え、彼らの棲み分けが気になるところ。レース展開や戦術がフィットすれば強いが、プランがぶつかり合うようだとログリッチに賭けるチーム ユンボ・ヴィスマのチーム力に上を行かれることになる。

東京五輪での金メダル獲得が記憶に新しいリチャル・カラパス。昨年の個人総合2位を上回る、頂点を狙う ©︎ GettyImages

戦力だけならユンボやイネオスをも凌駕するのがバーレーン・ヴィクトリアス。今シーズンの充実ぶりが目覚ましいが、チームはまずミケル・ランダ(スペイン)で勝負をする。ジロで負った複数箇所の負傷は完全に癒え、ブエルタに照準を定めている。前哨戦ブルゴスでの個人総合優勝も大きい。ジロ個人総合2位のダミアーノ・カルーゾ(イタリア)、ツールでの負傷から復帰のジャック・ヘイグ(オーストラリア)、ツールでは山岳賞争いに加わったワウト・プールス(オランダ)、さらにはクリテリウム・ドゥ・ドーフィネで山岳2連勝で驚かせたマーク・パデュン(ウクライナ)がメンバーに入り。さらに新城もここに加わり、戦力は十二分に整った。山岳を中心にプロトン内での主導権争いに加わることだろう。

前哨戦ブエルタ・ア・ブルゴスを制したミケル・ランダ(中央)。ジロ・デ・イタリアでの負傷が癒えて万全の体制でブエルタに乗り込む ©RicardoOrdóñez

チーム戦に持ち込めば、“スペインの雄”モビスター チームも有力。前身チームも含めると42回連続出場となる今回は、ツールでも活躍したエンリク・マス(スペイン)とブエルタを得意とするミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア)のダブルリーダーに、41歳のアレハンドロ・バルベルデ(スペイン)を加えて勝負に出る。アシスト陣も経験豊富なメンバーがそろい、エース格の選手たちを盛り立てる。

戦力の充実度ならモビスター チームも他とひけを取らない。アレハンドロ・バルベルデ(中央)を中心にまとまって戦いたい ©︎ BettiniPhoto

昨年のこの大会で初のグランツール総合表彰台を確保したヒュー・カーシー(EFエデュケーション・NIPPO、イギリス)も順調だ。前哨戦ブルゴスでは、はじめから総合は度外視し、尻上がりに調子を上げていくスタンスで最終・第5ステージに勝利。きっちりブエルタ開幕までに合わせてきた印象だ。

昨年個人総合3位となったヒュー・カーシー。今年は個人総合優勝候補の1人として挑む ©PHOTOGOMEZSPORT2020

今大会に初のグランツール総合表彰台を目指すのが、アレクサンドル・ウラソフ(アスタナ・プレミアテック、ロシア)。個人総合4位で終えたジロの後は、東京五輪をはさみながらブエルタにフォーカス。山岳での安定感が魅力だが、オマール・フライレやルイスレオン・サンチェス(ともにスペイン)といった経験豊富なアシストが控えていることから、勝負どころで思い切ったチャレンジができそうだ。

アレクサンドル・ウラソフも総合力は高い。安定感のある山岳でしっかり上位を固めたい ©︎ RCS SPORT

その他アウトサイダーとしては、ジュリオ・チッコーネ(トレック・セガフレード、イタリア)、ラファウ・マイカ(UAEチームエミレーツ、ポーランド)やマキシミリアン・シャフマン(ボーラ・ハンスグローエ、ドイツ)、ロマン・バルデ(チームDSM、フランス)、ギヨーム・マルタン(コフィディス、フランス)、ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(チーム クベカ・ネクストハッシュ)といった名が挙がる。ブルゴスで個人総合2位となって復調をアピールしたファビオ・アル(チーム クベカ・ネクストハッシュ)は、かつての王者としての威厳を見せられるか。

これだけのメンバーがそろうが、タイムトライアルの力を見るとログリッチが上。そうなると、山岳でいかに優位な状況を作り出すかが、今年のブエルタを制する重要なポイントになってくる。

平坦ステージも充実、ポイント賞争いも熱い

今大会は平坦ステージが8(そのうち上りフィニッシュが2)と、例年と比較してスプリンターが主役となりうる日が多め。ポイント賞争いも盛り上がりそうだ。

ツールでもたびたび上位に入ったヤスパー・フィリプセン(アルペシン・フェニックス、ベルギー)は、昨年の第15ステージで優勝を経験。出場予定のスプリンターでは、フィニッシュ前のスピードで群を抜いている。

今大会出場のスプリンターでは随一のスピードを誇るヤスパー・フィリプセン。昨年もステージ優勝を挙げている ©PHOTOGOMEZSPORT2020

昨年の大けがから復活を果たしたファビオ・ヤコブセン(ドゥクーニンク・クイックステップ、オランダ)は、2年前のこの大会で2勝。今季もすでに2勝を挙げており、ブエルタでさらに勝利して完全復活を印象付けられるか。

大けがから鮮烈に完全復帰したファビオ・ヤコブセン。7月には勝利も挙げ、このブエルタでも復活を印象付けたい ©Luc Claessen / Getty Images

マッテオ・トレンティン(UAEチームエミレーツ、イタリア)は、2017年大会で4勝。フラットなスプリントから上り基調、さらには逃げでも勝負できる力があるだけに、その気になればポイント賞争いの中心に立つことも。

上り基調のスプリントでは、マイケル・マシューズ(チーム バイクエクスチェンジ、オーストラリア)やアレックス・アランブル(アスタナ・プレミアテック、スペイン)が力を発揮しそう。マルティン・ラース(ボーラ・ハンスグローエ、エストニア)は27歳でトップシーンにデビューした遅咲きだが、スピードはプロトン内でもトップレベル。ツールでは勝利できないまま途中で大会を去ったアルノー・デマール(グルパマ・エフデジ、フランス)はブエルタで立て直し。かつてチームUKYOに所属し、日本のシーンでもインパクトを残したヨン・アベラストゥリ(カハルラル・セグロスRGA、スペイン)は地元勝利を狙う。

また、東京五輪ではマウンテンバイク・クロスカントリーで金メダルを獲ったトーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)が、このブエルタでグランツールデビューを果たす。総合系ライダーが複数控えるチーム事情があるため、どこまで彼が自由に動けるかは未知数だが、平坦・丘陵・山岳問わず戦える能力は持ち合わせている。観る者を驚かせる走りをすることだって大いに考えられる。

東京五輪ではマウンテンバイク・クロスカントリーで圧勝したトーマス・ピドコック。いよいよグランツールデビューを果たす ©︎ GettyImages

新城のレース構築でランダのブエルタ制覇へ

そして、期待は新城にも向けられる。

レースを追っている方なら一目でベストメンバーと分かるバーレーン・ヴィクトリアスにあって、しっかりとロースター入りしたあたりは、チーム内での信頼度の高さを示したといえるだろう。ドリームチームの一員として、レース構築を担うことになりそうだ。

今年のジロでは、カルーゾの大躍進に貢献。コースレイアウト問わずチームの戦術を組み立てられる点は、これぞベテランの味。今回はランダ、そしてチームの悲願であるグランツール制覇に向けて、壮大なミッションにトライしていくこととなる。

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福光俊介

福光俊介

サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。

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サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。

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