コルトが今大会3勝め、今度は逃げ切った小集団のスプリント制す|ブエルタ第19ステージ
福光俊介
- 2021年09月04日
ブエルタ・ア・エスパーニャ第19ステージが現地9月3日に行われ、逃げ切った7人によるスプリントをマグナス・コルト(EFエデュケーション・NIPPO、デンマーク)が制した。これで今大会3勝め、ブエルタ通算では6勝めを挙げた。個人総合首位のプリモシュ・ログリッチ(チーム ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)は、トップから18秒差で終えたメイン集団内でフィニッシュし、マイヨロホをキープしている。
3勝目は小集団スプリント!コルトがマルチぶりを発揮
第17ステージのコバドンガ、第18ステージのガモニテイル、今大会の象徴ともなった超級山岳を上った2日間を終えて、残すは3ステージ。2つの山岳ステージでトップの地位を固めつつあるログリッチと、個人総合2位のエンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)とのタイム差は2分30秒。一方でマス以下、個人総合上位をめぐる争いはまだ大きな差ではないことから、最後までまだまだ順位変動の可能性が残されている。
そんな中迎える第19ステージは、タピアからモンフォルテ・デ・レモスまでの191.2km。スタート直後から3級、2級、2級とカテゴリー山岳を越え、それ以外にも無印の上りがいくつも控える、上下動が激しいレイアウトのレース前半。中間地点を過ぎてからはおおむね下り基調になるが、その頃には数人が逃げる展開となっているか、はたまたメイン集団が主導権を握っているかが見ものとなる。レースの流れ次第では逃げ、スプリントともに可能性のある1日と見られた。
そんなこともあってか、リアルスタートからアタックが連続し、プロトン全体がハイペースで進行していく。8km地点で形成された17人のグループがレースを先導し、その中にコルトも加わった。その後もメイン集団からアタックが散発し、前方をめがけた動きが目立つ。一向に落ち着かない状況に、ポイント賞首位でプントスを着るファビオ・ヤコブセン(ドゥクーニンク・クイックステップ、オランダ)はたまらず後方へと下がっていった。
先頭グループはメンバーの入れ替わりもあって人数を変動させながらレース後半へ。フィニッシュまで50kmを残した段階で、逃げるのは11人となっていた。これを追うメイン集団では、残り43kmでクラッシュが発生。個人総合10位につけていたルイス・メインチェス(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、南アフリカ)が巻き込まれ、その場から動けない。レースに戻ることはできずリタイア、そのまま救急搬送された。
大きな動きが起こったのは残り34km。逃げていた中からクイン・シモンズ(トレック・セガフレード、アメリカ)が上りを利用してアタックし、ルイ・オリヴェイラ(UAEチームエミレーツ、ポルトガル)が続く。しばし2人で先を急いだが、8kmほど進んだところでコルト、アンドレア・バジオーリ(ドゥクーニンク・クイックステップ、イタリア)、アントニー・ルー(グルパマ・エフデジ、フランス)、ローソン・クラドック(EFエデュケーション・NIPPO、アメリカ)、アンドレアス・クロン(ロット・スーダル、デンマーク)が合流。先頭は7人となる。
メイン集団もこの頃にはチーム バイクエクスチェンジを中心に追撃態勢に入っており、残り20kmを切ったところで約30秒差。ここにチームDSMも加わって、いつでも逃げる選手たちを捕まえられる態勢を整えつつあった。
しかし、逃げる7人はほぼ均等に先頭交代のローテーションを繰り返して集団の追い上げを許さない。残り10kmで19秒だった集団とのタイム差は、フィニッシュが近づくにつれて拡大傾向に。メイン集団では追う意思を見せているチームが限られていたこともあり、吸収するのは時間の問題と思われた逃げグループが一転してステージ優勝争いへと移っていった。
7人の協調体制は最後の1kmまで続き、フラムルージュ通過からはクラドックが先頭固定。一緒に逃げ続けたコルトのための引きに切り替える。そして、狙いどおりの流れからコルトがスプリント。残り200mでシモンズの加速に合わせると、そのままトップに立って一番にフィニッシュラインを通過。今大会3つ目の勝利をつかんだ。
第6ステージでは激坂を逃げ切り、第12ステージでは集団スプリント。そしてこの日は逃げ切った7人による小集団での争いを制したコルト。まさにマルチぶりを発揮し、今大会のヒーローの一人へと駆け上がった。もっとも、ブエルタとは相性抜群。これで通算6勝目とした。
最後まで追いきれなかったメイン集団は、コルトから18秒差でのフィニッシュ。ステージ優勝を狙った選手たちとは対照的に、個人総合上位陣は自分たちから動くことなくレースを終えた。リタイアしたメインチェスに代わって個人総合10位に上がったダビ・デラクルス(UAEチームエミレーツ、スペイン)らの順位が1つ上へスライドした以外は、大きな変動なく次のステージへ。ログリッチはマイヨロホを堅守している。
なお、新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)は108位でフィニッシュ。引き続き、個人総合4位につけるジャック・ヘイグ(オーストラリア)の走りを下支えする。
4日に行う第20ステージは、ロードレースステージとしては今大会最後。サンシェンショからカストロ・デ・エルビリェまでの202.2kmのうち、後半約100kmに3級、2級、1級、2級、2級とカテゴリー山岳が詰め込まれた。主催者にして、そのコースは“ミニ・リエージュ~バストーニュ~リエージュ”。ステージ優勝争いもさることながら、最大28ポイント獲得できる山岳賞の行方も見もの。大会全体を通して最後のカテゴリー山岳となる2級のカストロ・デ・エルビリェは登坂距離9.7km、平均勾配4.8%。上りの前半で最大勾配16%に達し、フィニッシュ前数百メートルも9.5%の急坂。頂上目指して緩急の切り替わりが激しい上りをこなす。
ステージ優勝 マグナス・コルト コメント
「本当に素晴らしい勝利だ。夢なら醒めないでほしい。勝てるかもと思い始めたのは残り5kmから6kmあたり。本当にハードな1日で、逃げグループ内での協調がうまくいかなかったり、人数の絞り込みを狙ったアタックがあったりと、みんな自然と消耗している感じだった。ただ、残ったメンバーが逃げ切りを目指すことでまとまり、最後はチームメートのクラドックが助けてくれた。最高の仕事に感謝している。確かに今大会1つ目の勝利(激坂を逃げ切った第6ステージ)は壮観だったが、3つの勝利はどれも特別だ」
マイヨロホ プリモシュ・ログリッチ コメント
「家族が来てくれていて最高の気分。私の人生そのもので、本当に幸せなこと。レースは終始ハードだった。強力なメンバーが先行したが、私たちにとっては大きな問題ではなく、レースを楽にすることができた。ただ、大会終盤の残るチャンスをかけたスプリンターチームがとても速いペースで牽引していた。(グランツールでのリーダージャージ着用通算50日目となり)それはクレイジーなことだ。普段あまり意識していないので、その数字に驚いている。あとは最後までトップを守り抜くだけだ」
ブエルタ・ア・エスパーニャ2021 第19ステージ 結果
ステージ結果
1 マグナス・コルト(EFエデュケーション・NIPPO、デンマーク)4:24’54”
2 ルイ・オリヴェイラ(UAEチームエミレーツ、ポルトガル)ST
3 クイン・シモンズ(トレック・セガフレード、アメリカ)ST
4 アンドレア・バジオーリ(ドゥクーニンク・クイックステップ、イタリア)ST
5 アントニー・ルー(グルパマ・エフデジ、フランス)ST
6 アンドレアス・クロン(ロット・スーダル、デンマーク)ST
7 ローソン・クラドック(EFエデュケーション・NIPPO、アメリカ)+0’05”
8 アルベルト・ダイネーゼ(チームDSM、イタリア)+0’18”
9 マッテオ・トレンティン(UAEチームエミレーツ、イタリア)ST
10 アレクサンダー・クリーガー(アルペシン・フェニックス、ドイツ)ST
108 新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス、日本)+2’03”
個人総合(マイヨロホ)
1 プリモシュ・ログリッチ(チーム ユンボ・ヴィスマ、スロベニア) 77:49’37”
2 エンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)+2’30”
3 ミゲルアンヘル・ロペス(モビスター チーム、コロンビア)+2’53”
4 ジャック・ヘイグ(バーレーン・ヴィクトリアス、オーストラリア)+4’36”
5 エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ、コロンビア)+4’43”
6 アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)+5’44”
7 セップ・クス(チーム ユンボ・ヴィスマ、アメリカ)+6’02”
8 ジーノ・マーダー(バーレーン・ヴィクトリアス、スイス)+7’48”
9 ギヨーム・マルタン(コフィディス、フランス)+8’31”
10 ダビ・デラクルス(UAEチームエミレーツ、スペイン)+9’24”
113 新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス、日本)+4:01’50”
ポイント賞(プントス)
ファビオ・ヤコブセン(ドゥクーニンク・クイックステップ、オランダ)
山岳賞(モンターニャ)
マイケル・ストーラー(チームDSM、オーストラリア)
新人賞(マイヨブランコ)
エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ、コロンビア)
チーム総合成績
バーレーン・ヴィクトリアス
ブエルタ・ア・エスパーニャ2021スタートリスト&コースプレビューはこちら↓
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。