骨折しても世界選手権へチャレンジする不屈の46歳アンバー・ニーベン
中田尚志
- 2021年09月19日
東京五輪女子インディビデュアル・タイムトライアルで5位に入ったアンバー・ニーベン(アメリカ)。
メダルまで11秒差に迫った東京五輪を終え、彼女が次のターゲットに選んだのは9月20日(月)に行われるベルギーでの世界選手権。しかし、照準を合わせていた彼女をまたも悲劇が襲った。
ピークス・コーチング・グループの中田尚志さんが「彼女はどのようにしてTOKYO2020に向かったのか?」オンラインでインタビューした模様をお伝えする。
前回の記事、「彼女はどのようにしてTOKYO2020に向かったのか?」
五輪後に彼女を襲った事故
五輪後、事故に遭ったのですか?
対向車線から突如左折したクルマに衝突しました。骨盤上部が3カ所折れてしまいました。
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東京五輪のレースを終えた直後、メダルまで11秒だったことを知り、傍にいたスタッフに「世界選はいつ?」と尋ねました。(五輪の結果で)自身が狙える状態にあることがわかったからです。五輪で5位以内に入ると自動的に世界選の代表に選ばれることも知っていました。
しかし帰国後にトレーニングを開始してすぐに事故に遭ってしまいました。幸運だったのは世界選までまだ時間は残されていたことです。骨盤を3カ所も折りながら世界選を目指すなんてクレイジーだと周りの人は言うけれど、私は時々クレイジーなことをしたくなるのです(笑)。
キャリアについて
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コーチとしての活動もされていますね。理想のコーチとは?
コーチとは科学者であり、アーティストでもあるべきだと考えています。科学者としての知識を生かして強化の成功確率の高いトレーニングプランが作成できること。そして、アーティストとしてライダーの心理状態や個別性に対応できることが必要でしょう。それを可能にするにはコミュニケーション・スキルが高いことが要求されます。
「10人中8人がこれで強くなった」という運動生理学者の成功確率だけでプランを作っても上手くいかないと思います。ライダーはみな性格も違えば体の作りも違います。また実社会で受けるストレスだって様々です。ですから、コーチはライダーの声を聞かなければなりません。またライダーはフィードバックをたくさんしてコーチをガイドすることが要求されます。それがコミュニケーションをしながら行うコーチングであり、理想だと思いますね。
私はコーチングにおいて心理的側面を重要視しています。肉体的に才能に恵まれた選手でも心理的なバリアが原因でパフォーマンスを発揮できない事例をたくさん見てきました。
私はコーチとしてPX4(不屈の精神・忍耐・将来の展望・パワー※)を掲げています。
まさに今、(骨折している)私自身が必要としている能力ですし、コーチングしている選手にも成功するにはPX4が必要だと教えています。
人生は10%の偶然と90%の行動でできています。アスリートとしてだけではなく、人生をポジティブに生き抜いていく上でPX4が必要だと思っています。
※PX4(Perseverance, Patience, Perspective, Power) アンバーが重要視する4つのPから始まるキーワード。不屈の精神・忍耐・正しい将来の展望とパワー(ここで言うパワーは自転車を進めるパワーと意志力を指す)。
https://nebenpx4.com/coach/
エリートランナーとして活躍した後、どうして自転車に転向したのですか?
私がスポーツとして自転車を選んだのではなく、自転車が私を選んだと思っています(笑)
小さい頃からサッカー他、色々なスポーツに取り組んできました。相次ぐケガと疲労骨折でランナーをあきらめなければならなかった時、自転車に出会いました。
自転車競技を始めた当初、世界レベルのサイクリストになりたいと思っていましたか?
イエス(笑)。
私はいつもコンペティティブな生活を選択してきました。初めてバイクショップを訪ねた時でさえそうでした。安価なリクリエーショナル・バイクと、少し高いレース・バイクのどちらが欲しいか聞かれた時、迷わず「レースバイク」と答えました。私は競走馬のようにコンペティションが好きなのです。
幼少の頃はサッカーでオリンピックへ行くのが夢でしたし、陸上競技をしている時は全米チャンピオンになってオリンピックに行こうと考えていました。
T-モバイルチームに入った時、監督のジャンポール・ヴァン・ポッペルに「あなたの目標は?」と尋ねられたときは「世界一になりたい。女性版ツール・ド・フランスで勝ちたい」と答えました。
ルーキープロとしては大きすぎる目標だったかもしれませんが、神から大きなエンジン(心肺機能)を与えられて、それを生かす夢があるなら目指さない理由はないでしょう?
インタービュー後記
“不屈の競技者”と呼ぶには穏やかで落ち着いた印象のあるアンバー。幼少時に生死をさまよう病気にかかり、自転車競技を始めてからも皮膚がん(メラノーマ)や大クラッシュを経験。
しかし、そのたびに彼女は復帰に成功してきた。
次回は彼女のキャリアをより深堀りすると共にトレーニングや女性サイクリストからの質問にも答えて頂く。
アンバー・ニーベン
彼女の主宰するトレーニングキャンプ
中田尚志 ピークス・コーチンググループ・ジャパン
ピークス・コーチング・グループ・ジャパン代表。パワートレーニングを主とした自転車競技専門のコーチ。2014年に渡米しハンター・アレンの元でパワートレーニングを学ぶ。
https://peakscoachinggroup.jp/
- BRAND :
- Bicycle Club
- CREDIT :
- PHOTO:Cogeas - Mettler Pro Cycling Team https://www.cogeascycling.com/
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