獲得標高約4500m!! 新コース採用の「イル・ロンバルディア」展望|ロードレースジャーナル
福光俊介
- 2021年10月08日
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vol.17 主要登坂区間は7カ所
早めの仕掛けか、終盤勝負か、有力選手の選択は!?
国内外のロードレース情報を専門的にお届けする連載「ロードレースジャーナル」。激動の2021年シーズンもいよいよ大詰め。10月9日にはUCIワールドツアー最終戦のイル・ロンバルディアが開催される。今季最後のドラマは何が待ち受けているだろうか。今回は、新コースが採用され昨年までとは違った趣きとなりそうな別称“落ち葉のクラシック”を展望。コースの特徴や重要区間、注目選手の動向などにフォーカスしていく。
コースの特徴
イル・ロンバルディアはその名のとおり、イタリア北部のロンバルディア州が舞台となるレース。基本的に秋開催で、シーズン最終盤のレースとして行われることもあって“落ち葉のクラシック”と呼ばれて愛されている。
ワンデークラシックの中でもとりわけ格式の高いレースとされる「モニュメント」の1つに位置付けられ、登坂力が試されるコース設定も相まってクライマーズクラシックとも言われる。春に開催されるリエージュ~バストーニュ~リエージュ同様に、クライマーやグランツールの総合を狙うタイプのライダーが多く参戦し、近年はパンチ力やスピードも要求されるレース展開となることが多い。
もちろん、今年も伝統を重んじて上りの厳しいタフなコースが設定された。昨年までの4年間はベルガモをスタートし、コモにフィニッシュするルーティングだったが、5年ぶりにコモスタート、ベルガモフィニッシュを採用。この大会の名所である教会「マドンナ・デル・ギザッロ」は、勝負どころの一部だった昨年までとは一転し、レース序盤の通過区間になる。
全行程239kmのコースには、7つの主要登坂区間が設定されている。
38.6km地点 マドンナ・デル・ギザッロ
101.4km地点 ロンコラ(登坂距離9.4km、平均勾配6.6%、最大勾配17%)
129.5km地点 ベルベンノ(6.8km、4.6%、8%)
161.1km地点 ドッセナ(11.0km、6.2%、11%)
175.3km地点 ザンブラ・アルタ(9.5km、3.5%、10%)
207.2km地点 パッソ・ディ・ガンダ(9.2km、7.3%、15%)
235.8km地点 コッレ・アペルト(1.2km、7.9%、12%)
※データは大会公式発表に基づく
どの登坂区間も最大勾配10%前後、なかには15%を超える箇所も。さすがにマドンナ・デル・ギザッロから大きな局面を迎えることはないと考えられるが、これらの急坂を越えるたびにメイン集団の人数が絞られていくと見てよさそうだ。
なかでも勝負区間となりそうなのが、パッソ・ディ・ガンダと最後の上りとなるコッレ・アペルトの2カ所。パッソ・ディ・ガンダは頂上通過後の下りが約16km。展開次第では、上りでアタックを決めた選手がその後の下りで勢いに乗って、そのまま逃げ切ることもあり得る。
また、コッレ・アペルトは頂上手前で最大勾配12%に達するうえ、パヴェ区間が2カ所登場。複数人でこの上りに入るとなれば、確実にアタックはかかるだろう。頂上からフィニッシュまでは3.2km。フィニッシュ前500mまで下りが続き、最後の直線に入ったところで平坦となるレイアウト。単独逃げ切りか、小集団でのスプリントになるか、新しくなったコース設定がどう作用するかが見ものだ。
なお、獲得標高は約4500m。これは、約4000mのリエージュ~バストーニュ~リエージュをしのぎ、シーズンの締めくくりにふさわしいセッティングになった。
ビッグネーム集結! ドゥクーニンクの戦力際立つ
シーズン最終盤とはいえ重要な一戦。ビッグネームが多数参戦する。
前回大会の覇者であるヤコブ・フルサン(デンマーク、アスタナ・プレミアテック)は欠場。代わって、前回3位のアレクサンドル・ウラソフ(ロシア)とアレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン)によるダブルリーダー態勢をとる。
戦力ではナンバーワンなのが、ドゥクーニンク・クイックステップだ。マイヨアルカンシエルのジュリアン・アラフィリップ(フランス)が、さらなるタイトル獲得を目指して参戦を決めた。後述するイタリアでの前哨戦にも出走し、調整を続けている。それら前座レースでアラフィリップに代わって上位進出を果たしているのが、ジョアン・アルメイダ(ポルトガル)とレムコ・エヴェネプール(ベルギー)。エヴェネプールは直近レースで勝利を挙げているほか、前回大会での大クラッシュのリベンジにも燃える。要所でのアタックが得意なマウリ・ファンセヴェナント(ベルギー)もカギを握る存在。彼の動き次第で、チームが優位に立てるかが決まってきそうだ。
順調な調整ぶりを見せているのが、プリモシュ・ログリッチ(チーム ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)、アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)あたり。ロード世界選手権を経ても調子を落とすことなく、前哨戦でも結果を残している。各人ともチームのスーパーエースとして臨むことは濃厚で、本番ではどこで仕掛けるかが見もの。
シーズンを通して強さを見せ続けているバーレーン・ヴィクトリアスも有力。ミケル・ランダ(スペイン)に加えて、ジャック・ヘイグ(オーストラリア)、ジーノ・マーダー(スイス)の両クライマーもメンバー入りする。さらに、マーク・パデュン(ウクライナ)、ディラン・トゥーンス(ベルギー)といった力のある選手が脇を固め、誰でも上位戦線に食い込んでいける態勢だ。
過去2回優勝のヴィンチェンツォ・ニバリ(トレック・セガフレード、イタリア)も、しっかりと合わせてきた。東京五輪以降、短めのステージレースを利用して立て直しを図り、9月下旬から10月上旬にかけて行われたジロ・ディ・シチリアで個人総合優勝。地元シチリア島でのレースで劇的勝利をおさめ、ロンバルディアへの弾みとしている。チームには2年前の覇者であるバウケ・モレマ(オランダ)も控えており、勝ち方を知るベテランを軸に戦う。
そのほか、マキシミリアン・シャフマン(ボーラ・ハンスグローエ、ドイツ)、リゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・NIPPO、コロンビア)、ダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ、フランス)、クリストファー・フルーム(イスラエル・スタートアップネイション、イギリス)、ナイロ・キンタナ(チーム アルケア・サムシック、コロンビア)といったステージレースでも活躍する選手たちがエントリー。
2014年大会で勝ったダニエル・マーティン(イスラエル・スタートアップネイション、アイルランド)は、今大会が現役最後のレースとなる。
前哨戦まとめ
エヴェネプール、デマルキ、ログリッチが勝利
最後に、ロンバルディア前哨戦に位置付けられるイタリアでのワンデーレース結果をお届けしておこう。
イタリアではイル・ロンバルディアを前にワンデーレース数戦が行われるのが慣例で、実質メインレースであるロンバルディアに近づけたコース設定の大会も。やはり今年もロンバルディアを見据える選手たちが早めのイタリア入りで各レースに臨み、脚試しを行っている。
10月4日に行われたコッパ・ベルノッキ(UCI1.Pro)は、エヴェネプールが独走勝利。197kmで争われたレースは強い雨が降り続いた影響もあって、60km地点を過ぎたところで決まった6人の逃げグループがそのまま優勝争いへ。ドゥクーニンク勢はエヴェネプールとファウスト・マスナダ(イタリア)のエース格2人をジョインさせることに成功。残り30kmを前にエヴェネプールがアタックすると、マスナダが抑え役を務めてライバルの追撃の芽を摘んだ。結果的に、2位に2分近いタイム差をつけてエヴェネプールが圧勝した。
翌5日に行われたトレ・ヴァッリ・ヴァレジーネ(UCI1.Pro)は、アレッサンドロ・デマルキ(イスラエル・スタートアップネイション、イタリア)が優勝。196.7kmに設定されたレースは、調整の一環として参加したポガチャルが逃げに入る驚きの展開。この日も雨で、メイン集団が思うようにレースをコントロールできない流れに。終盤でアタックしたデマルキとダヴィデ・フォルモロ(UAEチームエミレーツ、イタリア)によるマッチスプリントになり、ジロ・デ・イタリアでの落車負傷から回復したデマルキに軍配。ポガチャルは途中でパンクトラブルに見舞われたが、最終的に3位とまとめた。
7日に開催されたミラノ~トリノ(UCI1.Pro)には、ログリッチやイェーツ、アラフィリップ、ポガチャルらが参戦。イタリア最古と言われるレースは、名所「スペルガの丘」が勝負どころとしてそびえる。190kmの戦いは、残り60kmを前に横風による集団分断が発生。ここにアラフィリップやログリッチ、ポガチャルらが前線に加わり、一気に先を急いだ。後方からのブリッジに成功した選手も合わせて最終盤を迎えると、2回目の登坂となったスペルガの丘でログリッチとイェーツが抜け出して優勝争い。残り400mで仕掛けたイェーツをしっかりチェックしたログリッチがカウンターアタック。最後は独走でフィニッシュラインに到達した。2位にイェーツ、3位にはアラフィリップのアシストを受けたアルメイダが入り、ポガチャルが4位に続いた。
福光 俊介
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。
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- TEXT:福光俊介 PHOTO:RCS Luis Angel Gomez / Photo Gomez Sport Tim De Waele / Getty Images BettiniPhoto
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。