3Dプリンターで自転車パーツを作る【革命を起こしたいと君は言う……】
Bicycle Club編集部
- 2021年10月30日
効率化で失った曲線
昨今のITの躍進はご周知のとおりで、コミュニケーションの意義も変わろうとしている。
自転車作りの世界も例外ではない。図面はCADソフトの進歩で、半日レクチャーを受ければ簡単な3D図面が書けてしまう。
効率という意味では格段に上がったように見える。しかし昨今の造形物を見ていると、迫力に欠けたものが多いのに気づく。結論から言えば、コンピューターで設計しているからにほかならない。
パイプとパイプをつなぐ面は、無数の曲線から成り立っている。コンピューターの場合、好みのアールをていねいに指定して面と面をつないでいく。とうてい手書きでは書けないような統制のとれた面ができあがる。
さらには、その図面を切削マシンが読み込み、人間技では不可能な美しい曲面を作り出していく。
しかしこれは理論上の話だ。実際にできた物たちは、なんとも無機質な造形になってしまう。
なぜかといえば、人間の目は眼球のみで見ているのではなく、頭で認識しているからという話になる。みなさんも古いディレイラーと最新のデザインを見くらべればわかるはず。難しいデザイン論の話ではない(そこは、また別の機会に触れるとしよう)。
私の造形スキルは実際に物を「触って」「削って」「光を見て」培ってきた。今も変わらない。
理論的に説明しようのない無限の曲線たちがつながり、プロポーションを作り上げていく。人が手作業で作った造形は人に訴えかけるものをもっている。
そしてこの作業はコンピューターが介入していなかった時代ではあたりまえだった。もっとも大事だと思うこの作業が現代ではみごとにぽっかりと空洞化している。
もっとも大事な部分を切り取り、作業の効率化を実現したと勘違いしてしまっているようにも思われる。過ぎたるはなお及ばざるが如し。果たして失われた曲線は取り戻せるだろうか。
CADとの付き合い方
私もCADを駆使している。今はコンピューターなしでは、いい自転車は作れないと思うし、利便性も十分に理解しているつもりだ。しかし、以前のやり方に戻そうにも、手作業での金型製作は業者が首を縦にふるわけはないので、しかたがない。
でもあきらめない。現在、若手スタッフと新しい製品を開発中だ。新しい試みとしてCADで作ったものを3Dプリンターで出力し、手作業で造形の直しをする。このプロセスを何度も繰り返し、最終的に非接触センサーでスキャンしデータ化して行く。あまりの作業の多さに、われわれは何をやっているのか?という気分になる。
コンピューター、電子メール、スマホ、流通。世のなかはどんどん進化し効率化が進んでいるようにも見えるが、ラグひとつとってみても、私の仕事は逆に格段に増え、やり難くなった。
隣町工場のオッサンと絵を描きながら説明して作っていた時代がいちばん効率がよかったんだが。
Cherubim Master Builder
今野真一
東京・町田にある工房「今野製作所」のマスタービルダー。ハンドメイドの人気ブランド「ケルビム」を率いるカリスマ。北米ハンドメイド自転車ショーなどで数々のグランプリを獲得。人気を不動のものにしている
今野製作所(CHERUBIM)
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