魅せる走りでチームをリードアウトする司令塔 孫崎大樹【El PROTAGONISTA】
管洋介
- 2021年12月28日
物心つく前から始まった自転車競技人生
トライアスリートの父のもとで自転車レースを始めたのは3歳。孫崎大樹のキャリアは初レースの記憶もないころからスタートした。
負けず嫌いの性分。子どもながらもっとも身近なライバルだった姉の背中を追ってBMX、MTB、ロード、トライアスロン、エクステラと家族でレースを転戦する生活が日常となっていた。なかでも小学3年から始めたトライアスロンは、得意のスイムとバイクを武器にトップを争う活躍。しかし中学まででトライアスロンはやめようと小学6年生で決意した。「そのころ地元大阪でTOJ堺ステージを生で見る機会がありました。目の前を駆け抜ける選手の姿に『いつかこのレースの中で走ってみたい!』と強く思うようになったのが大きなキッカケでした」
ロードレースの道を決意したとはいえ、スポーツには全力で取り組めという父の教えに、中学生になってもトライアスロンではトップランカーだった。ある日、トライアスロンの強化合宿で、自分の目標を書き出すように言われた。
ノートに書いた人生の目標は「高校で成績を出して25歳でツールを走る」。この出来事が目先の調子に左右されない孫崎の安定した強さにつながった。
そして同世代のライバル草場啓吾、岡本隼人(ともに愛三工業)、石上優大(NIPPO)の存在。10年以上にわたる彼らとのせめぎ合いが、互いを刺激し成長させた。
飛躍の高校時代。恩師からの言葉
2012年、自転車競技の名門校 北桑田高校に進学、本格的なロード・トラック競技の世界に足を踏み入れた。「入学式で横を見ると草場の姿。おまえもここに来たのか!と」
脚質も似ている少年時代最大のライバルと生活をともにし、吹雪のなかでもロードワークをするほど厳しい練習。そんな全国区で活躍する先輩、そして草場を前に妥協は考えられなかった。「なんでもできる選手になれ」という田中良泰監督の指導のもと、得意種目にこだわらずに走ってきた経験が、今の孫崎の走りに生かされている。高校1年の選抜大会スクラッチでは5周回を単独で逃げ切り優勝。トラック団体追い抜きでは2年、3年と連覇を果たすなど孫崎のスピードは全国でも注目されるようになった。
そして高校3年の7月、ジュニアネイションズカップのツール・ド・ラビティビで孫崎は快挙をなしとげる。最終ステージ、草場を先頭にトレインを組み松本祐典のリードアウトに乗って大集団のスプリントを制したのだ。各国の代表が集まる国際大会での勝利に夢が確実に近づいていた。「ヨーロッパでプロレーサーになりたい!」この思いを持ち帰り、顧問の田中先生に報告すると「お前はいずれプロになる。でも自転車をやめたときにただの人になってはいけない。大学に行き勉強しろ」と諭された。この言葉が夢へと躍起立つ孫崎を悩ませ、しかし道を切り開いていく一歩につながっていくこととなる。
早稲田大学を経てプロの道へ
「大学進学は最後まで葛藤しました。ラビティビの成績をもってアプローチすれば、欧州のコンチネンタルチームからスタートできるとも思っていたので……」
高校とは違う大学のキャンパスライフと競技活動。自由であるが故に自分で行動しなければ何もつかめないことに戸惑った。同時に北桑田高校時代の規律や決められたプログラムが、いかに自分を強くしてくれていたかに気づいた。「練習でも自主性が重んじられる早稲田。プロになるためにゆるんではダメだと己を律しました」
ナショナルチームU23の欧州遠征では本場のレースを転戦。ジュニアで味わった欧州とのスピードの違い、レースの厳しさに圧倒されたが、それが競技活動に取り組む大きな原動力となった。そしてアンダー2年めのツール・ド・フランドルでは、路面を覆いつくす石畳の上で耐え、終盤まで先頭に残る大健闘を見せる。「みんながコントロールに苦戦するなかで、MTBやエクステラの経験が生きました」
学連ではRCSシリーズ総合優勝。単騎で戦うことも多かったが、後輩を育て大学4年でツール・ド・北海道出場の権利を得るなど周囲に気を配れる選手に成長した。
そしてトラック競技での安定した活躍も買われ、在学中に研修生としてチームブリヂストンサイクリングに入団。窪木一茂、橋本英也、黒枝士揮を筆頭に国内のトップ選手がそろったプロチーム。アシストとして働きながら、プロレースで勝利する彼らとの力の差を埋めるべくトレーニングに打ち込んだ。
しかし、2年半のプロ活動のなかで孫崎にはひとつの思いが浮かんでいた。「プロを目指してきた自分。しかしいざそれが実現してしまうと、どうやって自分が周囲に影響を与えていけるかを考えるようになりました。大勢の観客に囲まれて走ったヨーロッパ、あの環境づくりをしなければ自分のプロ活動は自己満足で終わってしまう……」
奇遇にも同じ考えをもち、地元で地域密着型のプロチーム設立構想を練っていた黒枝士揮から声がかかった。孫崎は黒枝とともにブリヂストンを退団、スパークルおおいたの旗揚げに尽力する決心をした。
そして2021年のJCLシリーズ戦。いま孫崎の鋭い展開力がプロレースを格段におもしろくしている。「応援してくれる人を増やせる環境が見えてきた。だからこそ僕は競技で魅せていきたいんです」
REPORTER
管 洋介
海外レースで戦績を積み、現在はJエリートツアーチーム、アヴェントゥーラサイクリングを主宰する、プロライダー&フォトグラファー。本誌インプレライダーとしても活躍
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