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日の丸を背負って走るeスポーツ自転車の世界選手権、自宅で走りだすまでがレース

自宅からホビーレーサーたちが自転車の世界選手権に参加できる。そんな夢のようなレース、UCI(国際自転車競技連合)2022 UCI eスポーツ世界選手権が2月26日に開催された。その世界選手権に新潟県の自宅から参戦し、レース開始早々からファーストアタックをしかけるなど積極的に動き、SNSを大いに盛り上げた本田竜介さん。

本田さんによると参戦したeスポーツ世界選手権は、リアルなレースとは異なるさまざまな条件や提出物、手続きが必要だったそうだ。「走る前からすでにいろいと大変!」と話す本田さん。レースに向けどのような準備をしていたのだろうか? その一部を本田さんのレポートから紹介しよう。

▼2022 UCI eスポーツ世界選手権の記事はコチラから。

サイクリングeスポーツ世界選で日本のホビーライダーが活躍、新王者はジェイ・ヴァイン

サイクリングeスポーツ世界選で日本のホビーライダーが活躍、新王者はジェイ・ヴァイン

2022年02月27日

国を代表して走るレースだけに正確に計測するため
計測機器を2つつける『デュアルレコード』が必須

今回の世界選手権のような大きな大会では、パワーを計測する機材の精度が肝要となります。その理由は競技の公平性を保つためです。可能な限り正確にパワーを計測して、機材差による有利不利をなくす必要があります。また、パワーを計測する機材がひとつでは、その値が正確かどうかを判断できません。
そこで必須となるのが『デュアルレコード』です。

デュアルレコードとは、スマートトレーナーとパワーメーター2つのデータを記録することです。これをすることで両者のパワーが比較できます。

このとき、計測した値の誤差はおおむね2%以内が目安です。5%以上誤差があると正確性に欠けると見なされます。つまり、高精度なスマートトレーナーとパワーメーターの両方が必要となります。この正確さを求めて「パワーメーター沼」に陥ることも……Zwifterあるあるです(笑)。

デュアルレコードの比較はzwiftpower.comというサイトで行えます。こちらは、ある日の私の実際のデュアルレコードです。おおむね誤差が±1%以内。良好な数値です!

ちなみにデュアルレコードの他に心拍計の着用も必須です。

さらに不正を防ぐためにZADAパワーテストが必要

ZADAとは、Zwift Accuracy and Data AnalysisというZwiftの公平性を保つために活動しているZwift公認のコミュニティのことです。今回の世界選手権や一部の公式レースでは、このZADAの認証を得ることが必要となります。これも競技の公平性を保つためです。

ZADAの認証を受けるためにやらなければいけないのが、ZADAパワーテストです。

テストの内容は以下のワークアウト

  • 1分MAX – 4分レスト
  • 4分MAX – 7分レスト
  • 7分MAX – 12分レスト
  • 12分MAX – 4分レスト
  • 15秒MAX – 4分レスト
  • 15秒MAX

1回のテストで1分・4分・7分・12分・15秒スプリント2本の計測を行うのですが、かなりハードな内容です。
このデータをデュアルレコードし、ZADAに提出します。心拍計も必須です。

また、自身がスマートトレーナーで走っている映像とZwiftの画面を録画しておかなければいけません。その映像をYouTubeにアップし、それも提出します。ちゃんと本人が人力で走っているか確認するためですね。

レース当日に身長測定、レース2時間前から体重測定をして提出する

Zwiftでは身長と体重のデータも重要な要素です。身長はアバターのエアロ効果に反映され、体重はPWR(パワーウェイトレシオ)に直結します。Zwiftでの身長って意外と注目されないと思うのですが、同じPWRの場合は身長が低い方がエアロ的に有利です。体重は言わずもがな、ですよね。

ここも公平性を保つために正確な身長と体重を入力する必要があります。

今回の世界選手権では、身長はレース当日に計測、体重はレース2時間前から計測可能で、レース1時間前までに提出する必要がありました。

身長は壁にメジャーを当て、そこに自分が立って分厚い雑誌などを頭に乗せ、その高さにペンで印を付けます。その様子を録画しておき、メジャーの何cmの部分かを映します。

体重は重さがわかる物(10kgのダンベル等)を用意し、ダンベルのみ、自分のみ、ダンベルと自分の3種類の重さを計測します。鏡の前で行い、その様子を録画しておきます。ちなみにジャージ、ソックス、スマホ(撮影用)込みの体重になります。

また、計測した日時が正確にわかるように、PC画面等で日時検索をするところも録画しておく必要があります。

こうして録画したものをYouTubeにアップし、リンクを提出します。

身長はともかく体重はリアルタイムに変動するため、重くなり過ぎないように食事の量を調整するのが大変でした。ボクサーの計量と同じで、計測時はなるべく最軽量の状態で迎えたいですからね。

しかしレースまでは2時間しかないため、エネルギー不足ではパワーが出せません。その微妙なラインの見極めが難しかったです。

ドーピング検査に加え、提出する書類もリアルな世界選並み

競技の公平性を保つための準備以外にも必要なことがあります。UCIが実施するロードの世界選手権とプロセスは同じなので、国際ライセンスに加え、ドーピング検査など手続きをしないといけません。ここはその手続きを簡単に紹介しましょう。

UCI国際ライセンスを取得する

レースに出られている方はJCF(日本自転車競技連盟)の登録をされている方もいらっしゃると思います。今回の世界選手権はUCIレースであるため、JCF国内ライセンスだけではなくUCI国際ライセンスの取得も必要でした。とくに取得条件はありませんが、取得費用で1万円ほど掛かります。

ドーピング検査、ADAMSの登録をする

ADAMSとはAnti-Doping Administration and Management(アンチ・ドーピング管理システム)のことで、レース当日から2週間後までの選手の居場所を登録しなければなりません。少なくとも1日のうち1時間はどこにいるか指定しておき、ドーピング検査の対象となった場合は事前通告なしにその時間帯に調査員が訪問する場合があります。

Zoomでリアルタイムに映像を送る

レース中はZoomにつなぎ、ウェブカメラで自分が走っている映像をリアルタイムに送る必要がありました。また、事前にZoom接続のテストが行われ、背景にスポンサー外のものを写さないなどのチェックも実施されます。

これらの手続き等はすべて基本的に英語である

ここがなかなかハードルの高い部分で、UCIからのメールやルールブック、Zoomの事前テストなど、すべて基本的には英語でのやり取りになります。一部はJCFの担当者さんに間に入っていただき、日本語訳をお願いすることもありました。しかし、最終的には自分たちでルールの把握などしておかなければなりません。便利な翻訳ソフトがあるとはいえ、私は英語が苦手なのでなかなか大変でした。

今の時代、英語ができるに越したことはないですね……。

以上、UCI Cycling Esports World Championshipsへ参加するための事前準備や必要な提出物等についてご紹介しました。走る以外にもいろいろと手間がありましたが、これも貴重な経験でした。来年以降、世界選手権への出場を目指す方にとって参考になれば幸いです。

私も来年はもっと強くなってまた日本代表として走れるよう頑張っていきます!

 

本田竜介さん プロフィール

救急救命士の資格を持ち、医師である妻のもえまぐろ(本田母映)とともにメディカルサイクリストとして活動。新潟ヒルクライムと新潟県自転車競技選手権ロードレースの2冠などの戦績を持つ。2022年からイナーメ信濃山形に所属し、Jプロツアーに参戦する。
https://medicalcyclist.com/

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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