ツアー・オブ・ジャパン富士山ステージ、チーム右京のトップ2人と日本人1位の小林 海の戦略
Bicycle Club編集部
- 2022年05月21日
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5月19日(木)から5月22日(日)かけて、ツアー・オブ・ジャパンが開催されている。大会2日目となる5月20日(金)は第2ステージとして富士山ステージが登場。ツアー・オブ・ジャパンのクイーンステージである富士山ステージは、総合順位を決めると言ってもいいぐらい最重要ステージとなっている。
そんな富士山ステージを制したのは、前日の信州飯田ステージをワン・ツーフィニッシュで制したチーム右京のベンジャミン・ダイボールとネイサン・アール。
初日に続いて圧勝と言ってもいい走りを見せたチーム右京の2名の戦略、総合逆転を期待された宇都宮ブリッツェンの増田成幸をアシストを担った宮崎泰史、そして富士山ステージで日本人1位となったマトリックスパワータグの小林 海のコメントとともにレースを振り返る。
▼レースの詳細はこちら
レース前半をコントロールした宇都宮ブリッツェンと、しなかったチーム右京の戦略
ツアー・オブ・ジャパン(以下TOJ)の大会2日目として、クイーンステージである富士山ステージが第2ステージとして登場。
須走口からのあざみラインという国内屈指の難コースこのステージは、数年おきにコースレイアウトを変更しながらではあるものの、TOJの総合順位を決める最重要ステージとして歴史を刻んできた。
特に昨年の大会からは修善寺ステージがなくなり、富士山ステージの翌日が相模原ステージとなったことで総合勢のタイム差がつきにくくなったことから、この富士山ステージで総合順位が決まる可能性が高いとレース前から予想されていた。
前日時点では晴予報だった御殿場市だが、当日は空にはうっすらと雲がかかり、予報とは変わって走りやすいコンディションとなった。
定刻通り10時30分に70名の選手がスタートを切ると、東京オリンピックの個人タイムトライアルでも使用された周回コースの1周目で7名の選手がメイン集団から飛び出し、メイン集団とのタイム差を2分以上つけて先行する展開に。
一方メイン集団の先頭は宇都宮ブリッツェンが固め、宇都宮ブリッツェンの後ろをリーダーチームであるチーム右京が固める位置取りに。
総合有力勢で逃げにメンバーを送り込んでいないのは宇都宮ブリッツェンとチーム右京であり、当然どちらかのチームがメイン集団をコントロールしなければならない状況。
こういう場合、通常であればリーダーチームのチーム右京がコントロールするケースが多いのだが、今日の富士山ステージでは総合3位の増田成幸擁する宇都宮ブリッツェンがコントールする展開になった。
昨日の信州飯田ステージで宇都宮ブリッツェンは中村魁斗をDNFで失っており、エース増田と準エース格の宮崎を除くとアシストは小野寺玲と阿部嵩之の2名。
少しでも戦力を残しておきたいと通常は思われる宇都宮ブリッツェンがレースをコントロールするのを現地で筆者は不思議に見ていた。
その点をレース後の囲み取材で宮崎に聞くと「事前情報ではチーム右京がコントロールすると聞いていたが、流れでコントロールする形になりました。でもアベタカさん(阿部嵩之)一人でコントロールできる形で、タイム差もそこまで開かなかったので、じゃあうちでコントロールしようという感じです」と回答が返ってきた。
一方、総合リーダーであるネイサン・アール、総合2位であるベンジャミン・ダイボール擁するチーム右京は宇都宮ブリッツェンにコントロールを委ねる形となった。
この点を同じくレース後にアールに聞くと「戦略的な観点でコントロールしなかったのかと問われれば、そういう部分もあったかもしれないです。ただ、3分以上タイム差が開くようであればチーム右京がコントロールするつもりではありました。」と、コントロールする意思は持ちつつも、それをする必要がない状況だったと言う。
仮に阿部がコントロールせずにチーム右京のアシスト陣がコントロールする形になっていれば、あざみラインでチーム右京のアシスト陣が先頭を引く場面はもう少し短かったかもしれない。
ただ、後程詳細を記載するが、想定よりも早いタイミングでの飛び出しを余儀なくされたという話もダイボールからは出ており、チーム右京がコントロールしていたとしても大勢に影響はなかったのではないかと思われる。
想定よりも早く抜け出す形となったダイボールとアール
総合争いの決戦の場となったあざみラインでは、序盤から20名程度までに絞られる、ある種予想どおりの厳しいレースとなった。
この動きはキナンレーシングとチーム右京のコントロールによる結果だ。
さらに小石祐馬(チーム右京)のペースコントロールで先頭は7名にまで絞られると、残り6kmあたりでダイボールとアールが2人で抜け出す形となり、ルバが単独で追走、さらに増田単独で4位追走という状況に。
この飛び出しのタイミングについてダイボールに予定どおりだったのかと聞くと、「予定では残り距離がもっと短くなってから飛び出す予定でした。ただ、ワン・ツーフィニッシュをレース前から狙っていて、その一方でアール以外のチームメイトがいなくなってしまったので、予定より早いタイミングで抜け出す形を取りました」と回答が返ってきた。
想定よりも早いタイミングでの抜け出しであったにも関わらず、ダイボールとアールはルバを徐々に突き放す形となっていた。
ダイボールとアールの力はそれだけプロトンの中で抜けていると言わざるを得ないだろう。
一方、宇都宮ブリッツェンの宮崎からは「増田さんからはペースで追ってほしいと言われていましたが、初めて走るコースだったこともあり高地順応ができずパワーも出せない状況でした」と、富士山ステージ特有の高地対応ができなかったとコメントが返ってきた。
また宮崎は増田から「あざみラインの入り口からチーム右京の選手たちがペーシングしてくるだろうから、宮崎がペーシングする必要はない。チーム右京の選手を自分のアシストだと思って走ればいい」と周回コースを走る中で言われていたと明かし、「チーム右京の2名(ダイボールとアール)が飛び出したタイミングは、自分としてはあがりきった中だったのでペースで追うことができませんでした」とレースを振り返ってくれた。
ペースで走り続けた小林 海が増田を逆転して富士山ステージ日本人1位に
ダイボールやアール、ルバを追走するのは増田ただ1人で、他の日本人選手はかなり遅れているように中継では見えていた。
マトリックスパワータグの小林 海もその1人で、筆者は増田単独となった段階で増田が日本人1位だろうと考えていた。しかし、筆者が撮影していた残り500m地点で、ルバに続いて上がってきたのは増田ではなく小林だった。
中継も後ろは映していなかったと記憶しているので、何が起きたのか一瞬分からなかったのだが、ステージ4位、そして富士山ステージ日本人1位は小林で間違いなかった。
レース後小林にオンラインで状況を聞くと「残り3kmぐらいで増田選手をパスしました。遅れていたように見えたのはあえてペースで上っていたためです。標高がどんどん高くなっていくのにパワーは想定以上に出せていました。ただ、想定以上にパワーが出せていたので、もうちょっと速く上れたんじゃないかなと悔しい思いはあります」と回答えが返ってきた。
アタックとペースダウンが繰り返されるインターバルのような展開で脱落するよりも、序盤は遅れたように見えてもペースで追った方が結果として早いというのはレースでもよくある展開の一つである。
今回はまさにそんな展開で小林が富士山ステージ1位となった形だ。
明日の相模原ステージに向けて
明日5月21日(土)は宮ケ瀬湖周辺で第3ステージである相模原ステージが開催される。
アールたちチーム右京は「総合のタイム差がどうなるかは他のチーム次第。僕らがあえて広げるような展開を作る予定は今のところないけど、チームとして3日連続での優勝を目指したい」と3ステージ連続での優勝を狙う。
一方宮崎は「新人賞(ホワイトジャージ)が逆転されることはないと思うので、まだわずかに希望がある山岳賞(レッドジャージ)獲得を狙えれば」と話す。
そして小林は「初日のような失敗を繰り返さなければ明日もいけると思います。コンディションは日に日に上がってます」と、こちらも明日の相模原ステージに向けて自信をのぞかせた。
▼第3ステージ「相模原」の詳細はこちら
リザルト 第2ステージ
1 ベンジャミン・ダイボール チーム右京 2:33’18”
2 ネイサン・アール チーム右京 +0″
3 トマ・ルバ キナンレーシングチーム +55″
4 小林 海 マトリックスパワータグ +1:35
5 増田成幸 宇都宮ブリッツェン +2’04”
6 山本大喜 キナンレーシングチーム +3’22”
7 宮崎泰史 宇都宮ブリッツェン +3’29”
8 石橋 学 チーム右京 +3’42”
9 ⼩石祐馬 チーム右 +4’13”
10 フランシスコ・マンセボ・ペレス マトリックスパワータグ +4’51”
リザルト 総合成績
1 ネイサン・アール チーム右京 5:37’33”
2 ベンジャミン・ダイボール チーム右京 +0’07”
3 トマ・ルバ キナンレーシングチーム +1’36”
4 増田成幸 宇都宮ブリッツェン +2’41”
5 小林 海 マトリックスパワータグ +3’11”
6 山本大喜 キナンレーシングチーム +4’50”
7 宮崎泰史 宇都宮ブリッツェン +4’57”
8 ⼩石祐馬 チーム右 +5’41”
9 石橋 学 チーム右京 +6’02”
10 フランシスコ・マンセボ・ペレス マトリックスパワータグ +6’19”
各賞ジャージ
グリーンジャージ(個人総合):ネイサン・アール(チーム右京)
ブルージャージ(ポイント賞):ネイサン・アール(チーム右京)
レッドジャージ(山岳賞):ベンジャミン・ダイボール(チーム右京)
ホワイトジャージ(新人賞):宮崎泰史(宇都宮ブリッツェン)
今年のTOJはYouTubeによるオンラインでの配信もある。ぜひ公式WEBサイトもチェックしよう。
問:TOJ公式サイト
https://www.toj.co.jp
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