“スーパーマン”ピドコックがアルプ・デュエズを独走、ヴィンゲゴーは首位堅守|ツール・ド・フランス
福光俊介
- 2022年07月15日
ツール・ド・フランス2022は現地7月14日に、第12ステージが行われた。アルプスの超級山岳を3つ上る難関コースを制したのは、トーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)。100km近い逃げから名峰アルプ・デュエズで独走に持ち込み、ツール初勝利となるステージ優勝を挙げた。ヨナス・ヴィンゲゴー(チーム ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)とタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)の対戦が注目されたマイヨジョーヌ争いは、ポガチャルの攻撃をかわしたヴィンゲゴーがジャージキープに成功。個人総合のトップを守っている。
MTB、CX、そしてロードでも成功を収めたピドコック
7月14日といえば、フランスでは革命記念日(建国記念日)で、同国全土がお祝いムードに包まれる。各地で花火が打ち上げられ、パリでは午前中にシャンゼリゼ通りで軍事パレードが開催される。そして、国民の楽しみは現地時間お昼からのツールへ。主催者もこの日には決まって、スペクタクルなコースを用意する。
今年の革命記念日ステージは、アルプスの秀峰を3つ上る難関コースが選手たちを待った。ブリアンソンを出発するとすぐに上りが始まり、前日上ったガリビエ峠(登坂距離23km、平均勾配5.1%)を逆にクライミング。同じく前日上ったテレグラフ峠を抜けつつ長い下りをこなすと、レース半ばからはクロワ・ド・フェール峠(29km、5.2%)へ。標高2000m超の山越えののち、最後はアルプ・デュエズへ。フィニッシュまでの13.8kmは、平均勾配8.1%。上りの前半で10%前後の急勾配が続き、最後の3kmが緩斜面。世界各地から集まった熱狂的ファンがコース脇を埋め尽くし、懸命に上る選手たちを頂上へ熱く送り出す。ちなみに、現在フランスは南部を中心に熱波が襲来している。
前日のステージでオリヴェル・ナーセン(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム、ベルギー)とマチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク、オランダ)がリタイアし、この日は159人がスタート。ニールソン・ポーレス(EFエデュケーション・イージーポスト、アメリカ)がファーストアタックを決めると、そこへ5人が合流。メイン集団はリーダーチームのユンボ・ヴィスマがすぐにレース全体の鎮静化を図って、前の6人の動きを容認した。
11.8km地点に置かれた中間スプリントポイントは、先頭グループに位置したコービー・ホーセンス(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、ベルギー)が1位通過。その後到達したメイン集団は、マイヨヴェールを着るワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)が誰とも争うことなく先着。全体7位で通過している。
メイン集団では追走狙いの動きが散発し、プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ、スロベニア)がチェックに出る場面が見られる。その中から、ピドコックやクリストファー・フルーム(イスラエル・プレミアテック、イギリス)らがガリビエ峠の途中で飛び出すと、集団は見送り。ガリビエ峠からの下りで前線のメンバーがまとまり、この日最大の9人が先頭グループを形成した。なお、ガリビエ峠はアントニー・ペレス(コフィディス、フランス)が1位通過している。
先頭9人はメイン集団との差を着実に広げ、逃げ切りのチャンスを大きくしていく。メイン集団はユンボ・ヴィスマのコントロールが続き、総合成績に関係しない選手たちの逃げは完全に容認する姿勢。2つ目の山、クロワ・ド・フェールに入った頃には7分20秒差まで拡大。この頂上は、ジュリオ・チッコーネ(トレック・セガフレード、イタリア)がトップで通過した。
長い下りでひときわテクニックが冴えたのがピドコック。時速100kmを超えるスピードで駆け下りていく。これに続いたのがポーレス、フルーム、チッコーネ、ルイス・メインチェス(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、南アフリカ)。5人がアルプ・デュエズに入る頃には、集団とは6分10秒のリードを得ており、逃げ切りは決定的な情勢になった。
この日最後の上りに入って、早い段階で決定打が生まれた。残り10.5kmでピドコックがアタック。勾配が厳しい区間で飛び出すと、チッコーネとポーレスは脱落。メインチェスとフルームが一定ペースで追って、しばし数秒差を保ったが、ピドコックのペースは衰えず。大観衆が左右を埋める中を突き進むピドコックは、メインチェスらとの差を少しずつ広げていく。完全に独走に持ち込んで、フィニッシュへと急いだ。
アルプ・デュエズの頂上にひとりで到達したピドコックは、両手を高々と掲げて喜びのフィニッシュ。ジュニア時代からあらゆるタイトルを手にし、マウンテンバイク・クロスカントリー種目では、昨年の東京五輪で金メダル。シクロクロスでは今年の世界選手権を制し、“スーパーマンスタイル”でのウイニングセレブレーションが大きな話題となった。オフロードと並行して取り組むロードレースでも高い評価を得ていたが、ついに最高峰のレースでの勝利をつかんだ。22歳と157日でのステージ優勝は、史上5番目の若さだった。
ピドコックに続き、48秒差でメインチェス2位、フルームは3位でステージを終えた。
ステージ優勝争いの後ろでは“もう1つの戦い”。ユンボ・ヴィスマはアルプ・デュエズに入って、ファンアールト、ステフェン・クライスヴァイク(オランダ)、ログリッチと牽引役を替えながら集団を統率。特にログリッチのペースメイクでは、前日好走したダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ、フランス)、ナイロ・キンタナ(チーム アルケア・サムシック、コロンビア)らが脱落。山岳最終アシストのセップ・クス(アメリカ)が牽引する頃には、マイヨジョーヌのヴィンゲゴーのほか、ポガチャル、ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)、アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)、エンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)、ロマン・バルデ(チーム ディーエスエム、フランス)だけが残る状況。
そして、残り3kmを前にポガチャルが1回目のアタック。ここはすかさずヴィンゲゴーがチェックし、両者は牽制状態に。これでクスやトーマス、マスが再合流すると、残り2km手前でポガチャルが再びアタック。一瞬対応が遅れたかに見えたヴィンゲゴーだったが、冷静に対処してポガチャルの攻撃を防いだ。
精鋭グループは結果的に、ポガチャル、ヴィンゲゴー、トーマスが同タイムフィニッシュ。マスのほか、クスの牽引で下がったバルデも粘って遅れを最小限にとどめた。
これらの結果により、ヴィンゲゴーは前日獲ったマイヨジョーヌを守ることに成功。トップでアルプスでの連戦を終えた。個人総合2位にはポガチャルが上がり、タイム差は2分22秒。トーマスが3位で続き2分26秒差。バルデが2つ順位を落として4位となって、2分35秒差としている。また、逃げ勝ったピドコックは再びトップ10圏内へ。ランクを3つ上げて、7分39秒差の8位につけている。
翌15日は、久々の平坦ステージ。ル・ブール=ドアザンからサンテティエンヌまでの192.6kmに設定される。途中、3級2つ、2級1つの山岳ポイントを越えることが条件となるが、ここまで勝負を我慢してきたスプリンターにとっては何としても勝ちに行きたいところだ。
ステージ優勝 トーマス・ピドコック コメント
「ツール・ド・フランス初出場でアルプ・デュエズを勝ったのだから悪くないね。今日の狙いは逃げに入ることで、前日に自由を得られるだけのタイムを失っていた。ガリビエ峠の後に誰もついてこないことが分かったので、下りで加速した。クリストファー・フルームも同じことをしていて、彼と一緒に先頭を追いかけられたことは良かった。彼は生きる伝説で、かつてほどの走りではないのかもしれないけど、彼はそれでもクリストファー・フルームだ。
このステージ優勝は間違いなくキャリア最大の勝利だし、大観衆の中を走れた瞬間はここでしか得られない体験だった」
マイヨジョーヌ ヨナス・ヴィンゲゴー コメント
「今日からポガチャルがさらなる攻撃に転じることは分かっていたし、このステージでも何かをしてくるだろうとは思っていた。昨日証明されたように、私は最高のチームにサポートされているので、とても幸運だと思う。チームへの自信は深まる一方だが、最終的にはポガチャルとの戦いになってくると思う。そのときには、絶対に負けない走りが必要だ。
最後の上りでのタデイ(ポガチャル)のアタックは、自分がどれだけ対応できるか想像がつかなかったけど、チェックしないわけにはいかなかった。沿道からの応援が力になったし、何よりデンマークから来ていたファンが多かったことに驚いているよ」
ツール・ド・フランス2022 第12ステージ結果
ステージ結果
1 トーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ、イギリス) 4:55’24”
2 ルイス・メインチェス(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、南アフリカ)+0’48”
3 クリストファー・フルーム(イスラエル・プレミアテック、イギリス)+2’06”
4 ニールソン・ポーレス(EFエデュケーション・イージーポスト、アメリカ)+2’29”
5 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)+3’23”
6 ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)ST
7 ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)
8 エンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)+3’26”
9 セップ・クス(ユンボ・ヴィスマ、アメリカ)ST
10 ジュリオ・チッコーネ(トレック・セガフレード、イタリア)+3’32”
個人総合時間賞(マイヨジョーヌ)
1 ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ、デンマーク) 46:28’46”
2 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)+2’22”
3 ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)+2’26”
4 ロマン・バルデ(チーム ディーエスエム、フランス)+2’35”
5 アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)+3’44”
6 ナイロ・キンタナ(アルケア・サムシック、コロンビア)+3’58”
7 ダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ、フランス)+4’07”
8 トーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)+7’39”
9 エンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)+9’32”
10 アレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)+10’06”
ポイント賞(マイヨヴェール)
ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)
山岳賞(マイヨアポワ)
シモン・ゲシュケ(コフィディス、ドイツ)
ヤングライダー賞(マイヨブラン)
タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)
チーム総合時間賞
イネオス・グレナディアーズ 139:30’39”
▼ツール・ド・フランス2022のチーム&コース情報はこちらへ
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- TEXT:福光俊介 Photo:A.S.O. / Pauline Ballet A.S.O. / Charly Lopez
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。