新リーグから飛び出した逸材 宮崎泰史|El PROTAGONISTA
管洋介
- 2022年12月28日
学生時代の勉学の取り組み方が競技力の向上にも一役買った
ミニマリスト? 少し変わった宮崎の哲学
「自分は多くの情報やモノを必要としない性格なんです」。世間の流行に多感な学生時代でも、SNSやテレビをほとんど見ない質素な生活に充実感を得てきた宮崎。そのことは勉強にもプラスに働いた。
「必要最小限な情報だけで生きてきた分、勉強で知識を入れるのには容量が多かったみたいです」と語る宮崎は、国立大受験を目指してセンター試験で高得点を取り、日本文理大学から特待進学の話を受け取る。
「学費が免除されるなら親に負担もかけずに済む」と航空宇宙工学科に進学したものの、じつは在学中すべての教科成績で8割上位を修めなければ学費免除を毎年更新できないという厳しい環境だった。しかしそれでも彼は4年間この条件をクリアし続けた。「自分の環境をよくするには結果を残すことだ」と学んだ宮崎。不得意な科目に向き合って穴を埋めていく努力。こうした経験こそが、ロードプロへの歩みのなかで平地から上りまで高い能力で走れる選手へと自身を成長させた。
大学卒業まであと1年、彼が次に目指したのがレースで結果を残すこと。つまり「自転車で食べていける環境」をつかむことだった。
「大学での成績は残してきたので就職先は選べる状況。大学最後のシーズンの先に自転車専業で生きられる形にならなければ、就職してレースは引退することを決めていました」
とはいえ新型コロナの真っただなかでレース数も少なく、競技経験もなかなか積めずにチームのアシストを学びながら脚をアピールする機会は限られていた。そして大学卒業まで半期に迫った夏休み、彼が目指したのは脚質的にも近く、憧れの対象だった阿部嵩之選手が所属する宇都宮ブリッツェンだった。
「厳しい練習に打ち込み9月の秋吉台ロードで2位となったときにここぞと清水監督に打診しましたが、いい返事はもらえませんでした……」
やがてタイムリミットを迎え、諦めて一般企業に就職を決めようとしていた10月直前に一本の電話が掛かる。宇都宮ブリッツェンの清水裕輔監督からだった。
「津末さんが選手時代に同期だった清水監督や、ミヤタ時代に同僚だった増田選手を通じて、自分のことをつないでくれたみたいです」。
事態は急展開、一転して「自転車選手を続ける」と家族へ連絡をとると「自分で決めた人生なんだから、気をつけて走ってきなさい」と暖かくエールを贈ってくれた。
こうして2022年、宮崎泰史はプロ2年目にしてトッププロチーム宇都宮ブリッツェンの赤いジャージに袖を通し、晴れてその一員となった。
恩師への感謝はレースでの走り
2022年4月16日、JCL開幕戦である真岡芳賀ロードレース。大会2連覇を目指す地元宇都宮ブリッツェンの選手として宮崎はスタートラインに並んだ。ひと月前の西日本チャレンジロードレースで準優勝し、移籍後初レースでのプレッシャーにも動じぬ活躍を買われての大抜擢。強風が選手を苦しめるなか、最大で2分弱開いたプロトンの先頭を任されギャップを縮めるルーキーにファンは沸いた。
彼の強烈な牽引はファイナルラップ直前でレースを振り出しに戻すことに成功、カウンターアタックに増田成幸と小野寺玲を乗せた宇都宮ブリッツェンの大会連覇達成に貢献した。
チームにとって重要な地での勝利という功績を果たした宮崎。ここまで短期間で駆け上がってきた今を振り返って感じるものは?と問うと一言、「忠誠心」という言葉が返ってきた。
「津末さんにレールを引いていただいた僕の自転車競技人生。レースで戦う姿を見ていただくことで彼に恩返しができれば本望です」
機を逃さぬ活躍でプロ選手まで上り詰めた宮崎泰史。ペダルを踏んで駆け上がっていく彼の人生を追っていきたい!
ライダープロフィール
宇野宮ブリッツェン 宮崎泰史
PERSONAL DATA
生年月日:1999年9月5日
身長・体重:175㎝・61㎏
HISTORY
2019-2020/津末レーシング
2021/スパークル おおいた
2022/宇都宮ブリッツェン
RESULT
2019年/全日本選手権TT U23 6位
2021年/全日本選手権TT U23 3位
2021年/JCL 秋吉台カルストロードレース 2 位
2022年/西日本チャレンジロード エリート 2位
REPORTER/管 洋介
海外レースで戦績を積み、現在はJエリートツアーチーム、アヴェントゥーラサイクリングを主宰する、プロライダー&フォトグラファー。本誌インプレライダーとしても活躍。
El PROTAGONISTAの記事はコチラから。
「El PROTAGONISTA」一覧
Info
SHARE