妥協なき信念をペダルに賭けて 入部正太朗|El PROTAGONISTA
管洋介
- 2023年01月24日
「最終的なチームの成績の責任は自分が持つ」。この強さがチームをも強くした
新たな道が生まれた「弱ペダ」チームへの加入
失意に心が打ち砕かれるなか、次第に目の前の自転車も霞んで見えていた。そんなさなかの11月下旬、知り合いを介して弱虫ペダルサイクリングチームの佐藤成彦ゼネラルマネージャー(GM)と話す機会を得た。そこで入部は「就職できなかったらやらせてください」と、自身が振り返っても生意気な表現で佐藤GMに入団を懇願した。
「色々な出来事が重なり前も見えていなかった自分。突飛で失礼な頼み方には触れずに、ただ『わかった』と返答してくれた佐藤さんに救われました」
2021年、入部は再びペダルを踏み始めた。若手育成を主体とするチームには、明確なコーチという役職や肩書きがなかったが、大きく年の離れた選手たちを前に「巡り巡った競技人生のなかで、彼らの成長に一役買っていきたい」という強い気持ちが芽生えていた。
ロードレースを知らずにプロの世界に飛び込み揉まれてきた入部。彼の得た教訓とは「失敗なくして成功はない。脚質に応じた武器を鍛えるべき」というもの。
彼のアドバイスに呼応した若手たちの走りは大きく飛躍。「失敗を越えてほしい。10回チャレンジすれば1回の逃げは決まる可能性がある。最終的なチームの成績は自分が責任を持って残せばいい」。レースでの若手のチャレンジを支え、自らレースを決める攻撃で背中で見せる入部の熱い走りは己の新たな道をも作っていった。
2022年9月19日、Jプロツアー経済大臣旗杯南魚沼ロードレース。この日は序盤の5名のエスケープを入部が決めた。愛三工業がプロトンのチェイスを担い、レース中盤で展開が振り出しに戻ると若手の香山飛龍、内田宇海が絞り込まれた集団の中で粘っていた。キャッチされる入部の背中を見た内田が2名でアタック。その後単独になっても逃げ続け、追走グループに残る入部の回復に一役買った。
終盤に再び入部が攻撃に転じると3名の逃げとなり、これがレースの決定打に。ゴール直前で巧みに番手を取った入部は最終コーナーで見事にロングスプリントを決め勝利。「これまで幾度となくチャレンジしてきた少人数の逃げ。実力的にも心理的にも打ち勝つことができた。攻めずに負ければ後悔する。チームで攻撃に出た結果がこのレースの勝利でした」。
ゴールまで粘った内田が4位、香山が9位になったことで団体でも総合優勝、チームの歴史に名を刻む快挙となった。「このチームに来て視野が広がり、自分自身もさらに強くなれました。人生の半分を競技に生きてきた僕には自転車しかない。人生最大の目標となる次のオリンピックへつなげていきたい」。
勝ちへの執着心を突き詰め、走り続けた自転車競技。プロトンから先陣を切って飛び出していく入部正太朗の走りに、彼の人生が見えた。
※この記事は2023年1月号(2022年11月発売)に掲載されたものを再編集したものです。
ライダープロフィール
弱虫ペダルサイクリングチーム 入部正太朗
PERSONAL DATA
生年月日:1989年8月1日 奈良県出身
身長・体重:168cm・59kg
HISTORY
2004-2006/榛生昇陽自転車競技部
2007-2011/早稲田大学自転車競技部
2012-2019/シマノレーシング
2020/NTTプロサイクリング
2021‐2022/弱虫ペダルサイクリングチーム
2023/シマノレーシング
RESULT
2017/ツール・ド・熊野 第1ステージ優勝
2018/ツアー・オブ・タイランド 第2ステージ優勝、ツール・ド・熊野 第2ステージ優勝
2019/全日本選手権ロード 優勝
2023/Jプロツアー 経済大臣旗 南魚沼ロードレース 優勝、Jプロツアー 群馬CSCロードレース 優勝
REPORTER/管 洋介
海外レースで戦績を積み、現在はJエリートツアーチーム、アヴェントゥーラサイクリングを主宰する、プロライダー&フォトグラファー。本誌インプレライダーとしても活躍。
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