ロードレース2022年シーズン10大ニュース シーズン前半編|ロードレースジャーナル
福光俊介
- 2022年12月28日
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vol.49 withコロナの趣きが強まった2022年シーズン。
序盤から驚きの話題が次々と生まれる
国内外のロードレース情報を専門的にお届けする連載「ロードレースジャーナル」。年の瀬が押し迫るこの時期は、やはり1年の振り返りといきたいところ! 本記のコンセプトに沿って、国内外のロードレースシーンで2022年に起きたビッグトピックをいま一度チェックしていこう。数々の話題を絞るのは難しく、心苦しい面もあるが、今回は筆者の独断で10トピックに限定。まずは前編として、シーズン前半に生まれた話題にフォーカスする。
ロードレース2022年シーズン10大ニュース(シーズン前半編)
1.エガン・ベルナルが事故で大ケガ。戦線復帰に7カ月要す
1月下旬に走った衝撃的なニュース。母国コロンビアでトレーニングに励んでいたエガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ)が、停車中のバスに衝突し複数箇所を骨折。一時は脊髄損傷も疑われたが、手術の末に最悪の事態は回避。若くしてツール・ド・フランスとジロ・デ・イタリアを制したが、今季はグランツールはおろか、シーズン中の復帰は困難との見方もあった。
しかし、復帰への強い意志と懸命のリハビリで奇跡的な早期回復。8月のツアー・オブ・デンマークで戦線へと戻り、好リザルトこそなかったもののワンデー・ステージ合わせて4レースを走った。
なお、事故は現チームと5年の契約延長を結んだ矢先の出来事だった。
2.トーマス・ピドコックが“スーパーマンスタイル”でシクロクロス世界選手権圧勝
1月30日にアメリカで行われたシクロクロス世界選手権男子エリートで、ロードレースとの兼任選手であるトーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)が初優勝。これまで、ジュニア、アンダー23では無類の強さを誇ってきた22歳(当時)だが、ついに最高峰カテゴリーでもマイヨアルカンシエルに袖を通した。
このときは長年2強として君臨するマチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク、オランダ)とワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)が欠場。現在本格化している同種目の2022-2023シーズンでは、3者が激突するレースは盛りに盛り上がっている。
なお、この勝利で勢いづいたピドコックは、7月にはツール・ド・フランスで大活躍。第12ステージでは名峰アルプ・デュエズを一番に駆け上がり、涙のステージ優勝を飾った。
3.ロシアのウクライナ侵攻を受け、ロシアとベラルーシを国際舞台から排除
2月24日のロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、UCI(国際自転車競技連合)はすぐに反応。5日後にはロシアと、それに関与するベラルーシに籍を置くチーム、さらにはナショナルチームの国際舞台参加を禁じた。
自転車競技全種目に適用されたこの決定。ロードレースにおいては、第2カテゴリーのUCIプロチーム登録をしていたガズプロム・ルスヴェロが最も影響を受けた格好だ。何より、この事態の直前まで参戦していたUAEツアーでマティアス・ヴァチェク(チェコ)がステージ優勝するなど、インパクトある走りを見せていただけに、一層の驚きと不安が広がった。
結果的に所属選手のうち、多くを占めていたイタリア人選手は一部をのぞき遅かれ早かれ移籍先が見つかったものの、基盤であったロシア人選手たちはほとんどが受け入れ先が決まらないまま。彼らのうち、ジロ・デ・イタリアでのステージ優勝経験を持つマルコ・カノラ(イタリア)は移籍先が見つからず、同様にグランツールで活躍したイルヌール・ザカリン(ロシア)はチームの資格停止と同時に、それぞれ引退を決めた。
4.タデイ・ポガチャルが衝撃の50km独走 ストラーデ・ビアンケ
昨年までツール個人総合2連覇していたタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)の勢いに衰えがないことを証明したのが、3月5日のストラーデ・ビアンケだった。イタリア・トスカーナの未舗装路を走る特殊レースで、フィニッシュまでの50kmを独走したのだ。
中盤以降、大規模なクラッシュが発生するなど波乱に満ちたレースは、残り50kmを前に逃げをすべてキャッチ。これを機にジュリアン・アラフィリップ(クイックステップ・アルファヴィニル、フランス)が先頭に出ると、ポガチャルが反応。その後の下りでポガチャルが前に出ると、後ろの動きが鈍いとみるや一気に加速。あっという間に独走に持ち込んでしまった。
やがてメイン集団とのタイム差は1分以上に広がり、リードをそのままキープしたポガチャル。この大会の初優勝は、あまりにも衝撃的な、そして今季の活躍を予感させる大進撃だった。
ちなみにポガチャルは2月に新型コロナウイルスに感染したが、早くに回復し、同月のUAEツアーでシーズンイン。そうして迎えたのがこの大会だった。
5. マテイ・モホリッチがMTB用の「下がるサドル」でミラノ~サンレモ制覇
ワンデーレース最高峰の「モニュメント」に位置付けられるミラノ~サンレモ。今年の大会を制したのは、マテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス、スロベニア)だった。
ミラノ~サンレモといえば、名所“ポッジオ”でのアタック合戦が見ものだが、今回はポガチャルやワウトらがトライするも決まらず。勝負が決まったのは、意外にもその後のダウンヒルだった。
下りのテクニカルさも例年ポイントに上がっていたが、今年はダウンヒルスペシャリストのモホリッチが驚異の走り。なかば強引に先頭に出ると、猛然と加速。リスクをいとわないその攻めに誰も続けず、その後の平坦区間でも精鋭グループが追いつくことはできなかった。
プロトンきってのダウンヒラーで、数々の勝利につなげてきたモホリッチだが、このときはさらなる武器として「ドロッパーシートポスト」を採用。サドルの高さを調節できるシートポストで、主にマウンテンバイクに用いられる。その機能を生かして、下りで有利なエアロポジションを作り出した。
冬場のマウンテンバイクトレーニングがきっかけだったというモホリッチのアイデアだが、その後ドロッパーシートポストを装着して走る選手は現れず。このレースをきっかけにロードレース界がどう動くかが焦点になると見られていたが、さして大きな影響とはならなかった。
後編は「グランツール・シーズン後半編」としてお届けします。
福光俊介
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。
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TEXT:福光俊介 PHOTO:RCS UCI LaPresse Tim De Waele / Getty Images
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。