ポガチャルとログリッチが復権へ パリ~ニース、ティレーノまとめ|ロードレースジャーナル
福光俊介
- 2023年03月18日
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vol.54 ポガチャルはヴィンゲゴーとの“リベンジマッチ”に勝利
ログリッチは復帰戦ステージ3連勝で個人総合も完勝
国内外のロードレース情報を専門的にお届けする連載「ロードレースジャーナル」。ロードシーンは、いよいよヨーロッパでのステージレースが本格化。シーズン前半の重要レースであるパリ~ニースとティレーノ~アドリアティコが開催され、グランツールの頂点へ返り咲きを目指す2人のスロベニア人ライダーがそれぞれに復権への足掛かりとしている。そこで今回は、パリ~ニースでのタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)、ティレーノでのプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)の戦いぶりを中心に、両レースを振り返っていく。
ポガチャルがヴィンゲゴーに“仮”リベンジ
今年のパリ~ニースは3月5日から12日までの日程で、全8ステージで行われた。主なトピックとしては、第3ステージに32.2kmのチームタイムトライアルが設定され、試験的にチーム1番手の選手のタイムが採用されることに。正規ルールではチーム4番手の選手のタイムが有効となるが、新たな方式によって各チームの戦術がどのように組み立てられるかが焦点となった。
参加ライダーにも恵まれた。昨年のツール・ド・フランス覇者、ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)も参戦。前述のポガチャルとは昨年のツールの再戦となった。
両者は第1ステージから互いを意識した走りを見せる。中間スプリントポイントでのボーナスタイムの獲り合いになり、第2ステージを終えた時点では個人総合2位につけたポガチャルと、思うようにボーナスゲットに至らないヴィンゲゴーとの総合タイム差は12秒。
ポイントとみられた第3ステージ・チームタイムトライアルで、ユンボ・ヴィスマが快勝。もちろんヴィンゲゴーを一番にフィニッシュさせ、このステージだけでUAEチームエミレーツに23秒差。UAEもポガチャルが最後の数百メートルで猛然と加速したが、いったんヴィンゲゴーに11秒の先行を許すこととなった。
ただ、リカバリーは早い方が良いとばかりに、ポガチャルが次の第4ステージでトップギヤへ。1級山岳ラ・ロッジ・デ・ガード(登坂距離6.7km、平均勾配7.1%)の頂上にフィニッシュラインが敷かれたこの日は、ヴィンゲゴーが先に仕掛けたが、すぐさまポガチャルが反応。両者が牽制する間にダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ、フランス)が仕掛けると、ポガチャルがヴィンゲゴーを振り切ってゴデュを追撃。完全に失速したヴィンゲゴーをよそに、ポガチャルはゴデュとのマッチアップを制してステージ優勝。ついにマイヨジョーヌに袖を通すと同時に、ゴデュに10秒、ヴィンゲゴーに44秒の総合リードを得た。
スプリントによる第5ステージ、強風によりスタート直前でレースキャンセルとなった第6ステージをはさみ、「クイーンステージ」との呼び声高かった第7ステージで再び3者が激突。1級山岳クイヨール峠(登坂距離17km、平均勾配7.1%)の頂上を目指したこの日は、リーダーチームのUAEチームエミレーツとヴィンゲゴーでの反撃もくろむユンボ・ヴィスマがアシストを出しあっての削り合い。先にアシストを失ったのがUAEだったが、それならばとポガチャルが先制攻撃。これをゴデュとヴィンゲゴーが追い、ポガチャルに合流。それからはゴデュのアタックにポガチャルが反応し、ヴィンゲゴーがテンポで追いつく構図に。残り1kmでヴィンゲゴーが賭けのアタックに出たが、結局ポガチャルのカウンターアタックを誘発し、そのままフィニッシュへ。ポガチャルは今大会2勝目を挙げ、総合タイムではゴデュに12秒、ヴィンゲゴーに58秒の差をつけた。
ここまでくると、完全に流れはポガチャルのもの。最終・第8ステージでは、ニースの名所・エズ峠(登坂距離7.7km、平均勾配5.7%)の中腹でアタック。フィニッシュまで約20km残したタイミングでゴデュやヴィンゲゴーを引き離し、ひとりで頂上を通過するとその後のダウンヒルも難なくクリア。個人総合優勝の座にふさわしく、最終日のフィニッシュラインをひとりで駆け抜けた。
最終的にポガチャルは、パリ~ニース初制覇を果たすとともに、個人総合・ポイント賞・ヤングライダー賞の3冠を達成。2位ゴデュとは53秒、3位ヴィンゲゴーとは1分29秒差。ヴィンゲゴーに対してツールで“本気”リベンジを目指すなか、“仮”リベンジを「ミニ・ツール」と言われるこの大会で実現させている。
その他、第1ステージではティム・メルリール(スーダル・クイックステップ、ベルギー)、第2ステージではマッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード、デンマーク)、第5ステージはオラフ・コーイ(ユンボ・ヴィスマ、オランダ)がそれぞれ勝利。山岳賞はヨナス・グレゴー(ウノエックス・プロサイクリングチーム、デンマーク)が獲得している。
レース勘を取り戻すはずが完全復活アピールのログリッチ
パリ~ニースが「太陽へ向かうレース」なら、ティレーノ~アドリアティコは「2つの海をつなぐレース」。同時期開催の両レースだが、どちらも豪華メンバーがそろい、先々に控えるクラシックレースやグランツールへの脚試しの場となる。
今年のティレーノにはログリッチが“緊急”参戦。緊急というように、大会直前に参加を表明。昨年負った肩の大ケガからの回復途上であることを示しながら、成績に執着せず走ることを今大会の目的とした。
ところが。いざ走ってみると快調そのもの。雨の個人タイムトライアル(第1ステージ・11.5km)を12位でまとめると、大会前半はメイン集団内で無難に走行。シフトチェンジしたのは大会中盤からだった。
最大勾配19%の急坂を4回上った第4ステージ。チームメートのワウト・ファンアールト(ベルギー)を終盤のクラッシュで失いながらも、ログリッチがワウトの代役としてステージを狙うことに。この上りの頂上へ向かってスプリントを開始すると、ジュリアン・アラフィリップ(スーダル・クイックステップ、フランス)らを寄せ付けず復活勝利を挙げた。
これで俄然やる気になったログリッチは、続く第5ステージでも勝負強さを発揮。同日のパリ~ニース第6ステージが中止となるなか、ティレーノも同様の状況でコース短縮。それでも獲得標高にして3000mを超える一戦は、クライマー系の選手たちによる終盤勝負へ。17選手がなだれ込むようにフィニッシュラインへ向かうと、一番の伸びを見せたログリッチが連続ステージ優勝。ボーナスタイムを生かし、この時点で個人総合でトップに立った。
こうなってくると、ユンボ・ヴィスマはチーム全体でログリッチのリーダージャージを守る態勢へ。第6ステージではワウトやティシュ・ベノート(ベルギー)らが徹底アシスト。しっかり脚を残したログリッチは、最終盤でのライバルのアシストに対応し、最大勾配20%を数える急坂での勝負に備える。そして、最後は8人に絞られた上りスプリントで快勝。ステージ3連勝を決め、今大会の王座を手中に収めた。
そして、平坦路を進んだ第7ステージでもきっちり走り切って、個人総合優勝。ティレーノ制覇は2019年以来4年ぶり。レース勘を取り戻すための参戦が、一気にビッグレースの頂点まで。完全復活を印象付ける勝利となった。
なお各ステージは、第1ステージの個人タイムトライアルをフィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ、イタリア)、第2ステージはファビオ・ヤコブセン(スーダル・クイックステップ、オランダ)、第3・第7ステージをヤスパー・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク、ベルギー)がそれぞれ勝利。各賞は、ログリッチが個人総合と山岳賞の2冠に輝き、個人総合2位になったジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ、ポルトガル)がヤングライダー賞を獲得している。
ポガチャル、ログリッチ 復権へ向けた今後の動きは?
鮮やかに春のステージレースを制したポガチャルとログリッチ。グランツールの頂点返り咲きを目指す2人の今後の動向についても触れておこう。
ポガチャルは2年ぶりのツール制覇へ向けた道筋として、3月18日のミラノ~サンレモからクラシック戦線へ。24日のE3サクソ・クラシック、29日のドワルス・ドール・フラーンデレン、4月2日のロンド・ファン・フラーンデレンと北のクラシックを転戦する。その後、4月16日のアムステル・ゴールドレース、23日のリエージュ~バストーニュ~リエージュを走って、ツールへの調整期間に移る。
一方、ログリッチは今季、ジロ・デ・イタリアとブエルタ・ア・エスパーニャのグランツール2冠に挑戦。ツールは回避する。肩の回復具合を見ながらの調整になるため、極力レース数は抑える方針だ。3月20日に開幕するボルタ・ア・カタルーニャに出場。ここでの7ステージを走り終えると、他のレースに臨まずにジロへ向けた高地トレーニングなどを行う。出走日数を抑えるあたりに彼のこだわりが出ており、それがどうレースに反映されていくかが見もの。
また、カタルーニャではジロのライバル間違いなしのレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ、ベルギー)やアルメイダ、ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)らと激突。さながら前哨戦の様相に。また、ツールを目指すリチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト、エクアドル)やベン・オコーナー(アージェードゥーゼール・シトロエンチーム、オーストラリア)らも出場。ハイレベルな状況下で、勢いを取り戻したログリッチがいかに戦うかも注目すべきだ。
福光俊介
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。