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ポガチャルがユイの壁征服! アルデンヌハットトリックに王手|ラ・フレーシュ・ワロンヌ

春のロードレースシーンを彩るアルデンヌクラシックの1つ、ラ・フレーシュ・ワロンヌが現地4月19日、ベルギー南部のフランス語圏・ワロン地域で開催された。最大勾配26%の名所・ユイの壁を3回上る激坂決戦は、頂上にフィニッシュラインが設けられた最終登坂でタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)がライバルを圧倒。フィニッシュ前200mでのアタック一発でレースを決めた。これでアルデンヌクラシック2連勝。過去に2人しか達成していない“アルデンヌクラシック・ハットトリック”に王手をかけた。

UAEチームエミレーツが終始レースをコントロール、ポガチャルを支える

初開催は1936年。今年で87回目を迎える伝統のラ・フレーシュ・ワロンヌ。大会名を直訳すると「ワロンを貫く矢」を意味し、ルートをマップ上でなぞっていくと、実際に1本の矢のようになるコース設定が大きな特徴だ。

194.2kmと、前回より8km短くなったルートは、しばしワンウェイルートを走ったのち、ユイを基点とする周回コースへ。これを2周半する間、3つの重要な登坂区間をそれぞれ3回走る。

このレースの名物であるミュール・ド・ユイ(ユイの壁)は登坂距離1.3kmで、平均勾配9.6%。主催者発表では最大勾配19%となっているが、その中心部に位置するヘアピンコーナー「クロード・クリケリオンコーナー」は、局所的に26%とも29%とも言われている。フィニッシュまで400mを残すこのポイントを合図に、勝負の激坂アタックが始まる。そこまでのポジショニングや、踏み込むタイミングが順位決定に大きな影響を及ぼす。大人数の集団のまま最終局面へやってくることが大多数で、その前に逃げを試みた選手がトップを守り切ったケースはほんの数回しかない。

©️ A.S.O/Maxime Delobel

リアルスタート直後のアクションで8人がレースを先導し、最大で4分近いリードを確保。メイン集団はポガチャル擁するUAEチームエミレーツが早い段階からコントロールを担い、レース前半のワンウェイルートを進んだ。

©️ A.S.O/Maxime Delobel

流れを維持したまま周回コースへ。波乱はフィニッシュまで75kmを残したところで訪れ、1回目のユイの壁登坂を前に、優勝候補の1人であるダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ、フランス)が集団から脱落。体調不良の影響でレース続行が難しくなり、その後リタイアしている。

©️ A.S.O/Maxime Delobel

逃げも上りで人数が絞られていき、UAEチームエミレーツがペースアップも絡んでタイム差は1分30秒ほどに。2周目に入り、2回目のコート・デレッフ(距離2.1km/平均5%)登坂で先頭からセーアン・クラーウアナスン(アルペシン・ドゥクーニンク、デンマーク)がアタック。これにゲオルク・ツィマーマン(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ、ドイツ)とヤコブ・ヒンズガールマッセン(ウノエックス・プロサイクリング チーム、ノルウェー)が続き、残り57kmで3人逃げに。メイン集団ではピーター・セリー(スーダル・クイックステップ、ベルギー)が数秒先行する場面があったが、長くは続かなかった。

©️ A.S.O/Maxime Delobel

やがて先頭ではヒンズガールマッセンが遅れ、クラーウアナスンとツィマーマンに絞られる。登坂区間コート・ド・シュラーブ(1.3km、8.1%)の2回目を上り終えた段階で、集団とは約1分15秒差。続いて迎えたユイの壁2回目でメイン集団からサムエーレ・バティステッラ(アスタナ・カザクスタン チーム、イタリア)とルイス・フェルヴァーケ(スーダル・クイックステップ、ベルギー)が抜け出すと、数十秒前を走っていた先頭2人に合流。残り30kmで先頭が4人になり、集団とは約20秒差とした。

©️ A.S.O/Maxime Delobel

集団ではUAEチームエミレーツのほか、EFエデュケーション・イージーポストも牽引に加わり始める。その矢先、前方に位置していた選手たちが接触しクラッシュ発生。これにニールソン・パウレス(EFエデュケーション・イージーポスト、アメリカ)、ホセ・ロハス(モビスター チーム、スペイン)ら数人が巻き込まれてしまう。ポガチャルも巻き込まれかけ、一時的に集団の後方に。情勢を立て直すため一時的にペースを下げると、先頭4人との差は40秒ほどまでに拡大。ポガチャルが前に戻ったのを機にUAEチームエミレーツが再びスピードを上げて、前を行く選手たちへと迫っていった。

粘る先頭グループ。残り20kmを切って、まずツィマーマンが遅れる。クラーウアナスンが依然好ペースを指揮し、40秒差を保って最後の10kmへ。そこから徐々にリードは減っていったが、フィニッシュ前7kmで上るコート・ド・シュラーブ3回目でフェルバーケがアタック。クラーウアナスンとバティステッラを振り切って独走に移った。

©️ A.S.O/Maxime Delobel

メイン集団はUAEチームエミレーツのほか、トレック・セガフレード、アルペシン・ドゥクーニンク、イスラエル・プレミアテックなどが前を固めて最後のユイの壁に備える。最後の数kmはフェルバーケを視界に捉えながら進み、ユイの壁上り口でついにキャッチ。いよいよ勝負のときを迎えた。

マグナス・シェフィールド(イネオス・グレナディアーズ、アメリカ)の牽引でユイの上りに入っていくと、その後ろでポガチャル、マイケル・ウッズ(イスラエル・プレミアテック、カナダ)、ギヨーム・マルタン(コフィディス、フランス)が横並びに。シェフィールドが下がってからもその形勢は変わらず、ロマン・バルデ(チーム ディーエスエム、フランス)、ミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス、スペイン)らが彼らをチェック。

クロード・クリケリオンコーナーを抜けても探り合いが続いたが、残り300mでまずバルデがアタック。これにポガチャルとウッズが反応。

©️ A.S.O/Billy Ceusters

そして残り200m、このタイミングを待っていたとばかりにポガチャルが猛アタック。他を完全に振り切ると、そのまま急勾配区間を抜けてフィニッシュ前の緩斜面へ。後ろではマティアス・スケルモース(トレック・セガフレード、デンマーク)らが追い上げるが、十分なリードを得たポガチャルが勝利を確信し、両腕を広げた。

ポガチャルはフレーシュ初優勝。昨年も優勝候補として臨んだが、ユイの壁で失速し12位に終わっていた。そのリベンジを果たすとともに、4月16日のアムステル・ゴールドレースに続くアルデンヌクラシック2連勝。同一シーズンのアルデンヌクラシック全勝「アルデンヌクラシック・ハットトリック」に王手をかけた。23日のリエージュ~バストーニュ~リエージュに勝てば、史上3人目のハットトリック達成となる。

また、今季は出場8レースで6勝(ステージ優勝を入れると12勝)と、驚異のアベレージ。もはや敵なしの状態だ。

©️ A.S.O/Billy Ceusters

ポガチャルに続き、22歳スケルモースが殊勲の2位。ランダが3位となり、表彰台に上がった。

春のクラシックシーズンは、残すところリエージュ~バストーニュ~リエージュだけに。ポガチャルのほか、ここまで調整に充てている世界王者のレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ、ベルギー)も参戦を予定。ほかにもビッグネームが多数集結し、さらにレベルアップした戦いが見られるはずだ。

優勝 タデイ・ポガチャル コメント

©️ A.S.O/Maxime Delobel

チームとして完璧なレースができた。仲間に「ありがとう」と一番に伝えたい。彼らの今日の働きぶりは、私への大きな後押しだった。何としても勝って終わる必要があった。

他チームからの協力はイネオス・グレナディアーズが少し加わってくれたくらいで、あとは自分たちでレースをコントロールするほかなく、消耗は避けられなかった。それでも、みんなが私をマークしていたことが逆に幸いして、私たちの思いどおりに進めることができた。目の前で落車があったりと、最後の30kmは緊張感が増したがチームメートが助けてくれた。

最後の上りにすべてを賭けたが、とても大変だった。ユイの壁は小さなミスが命取りになる可能性がある。好調だったのにトップ10を逃した昨年の経験で学んでいた。上りまでは絶対に脚を残しておく必要性があった。

今日勝ってもまだまだ終わりではない。170人を超えるプロトンで一番になることは最高の気分。すべてのレースにはストーリーがあり、そのトップに立てることが幸せだ。アルデンヌクラシックすべてで勝てれば素晴らしいが、リエージュはこれまでとは異なる厳しいレースになるはず。チーム状態が良いので、できる限りのことはしたい。そうすれば結果はついてくると思う。

ラ・フレーシュ・ワロンヌ 結果

1 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア) 4:27’53”
2 マティアス・スケルモース(トレック・セガフレード、デンマーク)+0’00”
3 ミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス、スペイン)
4 マイケル・ウッズ(イスラエル・プレミアテック、カナダ)+0’03”
5 ジュリオ・チッコーネ(トレック・セガフレード、イタリア)
6 ヴィクトル・ラフェ(コフィディス、フランス)
7 ティシュ・ベノート(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)
8 マキシム・ファンヒルス(ロット・デスティニー、ベルギー)
9 ロマン・バルデ(チーム ディーエスエム、フランス)
10 ワレン・バルギル(チーム アルケア・サムシック、フランス)

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PROFILE

福光俊介

福光俊介

サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。

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