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レースなのに泥で押し歩く!? コースマップ付きレースレポート|UNBOUND GRAVEL 2023【後編】

アメリカの広大なグレートプレーンズと言われる草原を走る砂利道を舞台にした世界最大級のグラベルレース「UNBOUND GRAVEL 2023(アンバウンドグラベル2023)」。今回、新人編集部員の坂本が100マイル走破に挑戦。後編では実際にレースが始まってからの模様をお伝えする。

▼「UNBOUND GRAVEL 2023」レポート前編はこちら

世界最大のグラベルレース、アンバウンドグラベル2023参戦記|UNBOUND GRAVEL 2023【前編】

世界最大のグラベルレース、アンバウンドグラベル2023参戦記|UNBOUND GRAVEL 2023【前編】

2023年07月28日

UNBOUND GRAVEL 2023 100マイルのコースについて

レースの様子を書いていく前に、まずはコース全体を見たほうがイメージしやすいので確認しよう。

100マイル160kmの中でさまざまなことがあったが、大まかにはこの地図に書き加えたとおりだ。以下、詳細を見ていく。

編集長の無茶ぶりに驚愕!? 朝7時、100マイルレースがスタート

前編で日本人参加者との集合写真を掲載したので、ここではスタート前の編集長との2ショット。私、ちょっと緊張して手の角度変ですね

6月3日の早朝5時50分からプロクラスの選手たちがスタートし、6時に200マイル、7時に100マイルという順でスタートしていく(350マイル=XLコースの選手たちは前日にすでに出発済み)。スタート地点には6H・7H・8H・9Hなどのプラカードをもった係員が立っている。自分の想定タイムを目安に自分で並ぶ位置を決めていく。10時間切りを目指すとの話だったので10時間のところに行こうとすると、編集長が7Hのプレートの近くにいた日本人チームに混ざっている。「ここから行こう!」と編集長。「そんな無茶です!」と思いつつもここからスタート。実際、こんなスタート位置など全く関係なくなる事態がすぐに発生したのだが。

舗装路からの高速グラベル、からの泥の洗礼

タイヤにこびりついた泥は最終的に手でむしり取ることになった @Life Time

グラベル率95%の残り5%がこのスタート地点周辺にあるため、レース開始すぐはハイスピードだ。とはいえ人も多いため集団で普通に進んでいける。郊外に出て右折してグラベル路に入るところから徐々に2列に整列していくも、平坦のグラベルのためスピードは落ちずに進んでいく。想像どおりのスムーズなグラベルで速度が速く、でもカーブなどの落車にだけ気をつければ問題なく最初はついていける。

「順調に最初はこなせたかな……このまま可能な限り問題なく過ごせれば……」などと甘い考えをもったがその希望はすぐに消えた。前方で急に失速し、前が詰まって立ち止まっている人多数。何事かと思うや否や、足元にすごい泥。そうはいっても泥くらいなら進むでしょ、と侮ることなかれ。米国の泥はレベルが違った。タイヤにまとわりつき、落ちない。自転車を押して進むも泥の上にさらに泥がつき、フレームとのクリアランスを一瞬で埋めてしまう。結果としてタイヤがロックし転がらない。

遥か先まで走れない路面が続いてメンタルにダメージが @Life Time

ピーナッツバター。この泥のことを皆がそう表現する意味がよく分かった。泥がすごいということは確かに前から情報を得ていた。泥がタイヤについたとき、それを落とすために木のヘラを持っていると便利だよ、という話も聞いていた。しかし、あくまで私は「便利」くらいの認識だったが、「必須」だった。

泥をなんとか落としながら進んでいくか、自転車を担いで歩くか。この2択に迫られた参加者たちの中には、リアディレイラーの破損などの影響もありリタイアした人も相当数いたそうだ。

「ジーザス! 10kmもあるの!?」と隣の女性が叫んでいる。

10km以上にわたる歩きの末脱出。即メカトラ

気力だけで10kmを押したり担いだりしながらも泥区間をパス。ある程度泥を手ではぎ取り久しぶりの乗車。まだまだ泥で変速がイマイチだがホイールが回るだけで御の字だ。程なく道中の水たまりを利用して車体の泥を落としている参加者の集団を横切った。

「そういえば、米国でのグラベル経験が豊富な竹下さんが途中でああやって泥を落とすこともあったと言っていたな……。大事なのかな……。でも自転車は進んでるし、泥区間で時間もかかっちゃったしこのまま行っちゃえ!」

これは判断ミス。泥はある程度ちゃんと落とした方がいい。この先フロント変速のときにチェーン落ちを複数回起こしたときにようやく気付いた。ペダル、ディレイラー、その他細かな部分に詰まっている泥は間違いなく自転車のパフォーマンスを下げていた。残り数キロなら良かったかもしれないが、まだ140km近く残っている段階では少し時間をかけてでもキレイにしていくのが正解だったと今になり思う。

後で編集長にもらった写真。しっかり水たまり洗浄を行いネタとして画像に残しているあたりプロだ

結果として、貴重なボトルの水を使ってわずかに重要そうな部分の泥を落とすことしかできなかった。また、途中でリアがまたロックした。泥の区間は終わっている。見ると、延々と続く振動と、輪行後の自分の組付けの不備からか、リアのスルーアクスルが外れかけている。わずかにその部分に付着した泥が邪魔でシャフトが入らない。ここでも貴重な水を使い何とか戦線に復帰した。

レース復帰するも、補給の難しさに経験不足が露呈

快調に走り始めると、周囲の参加者も調子が出てきたのか改めてスタート後の速度位の集団で進み始める。2列で進む集団に乗り距離を稼いでいく。よく私がイベントで走るとき、結構補給を忘れてしまうという課題があるため、いったん食べておこう。そのためにいろいろと考えて補給食は用意してきた。

……食べられない。慣れている人であればなんてことはないのだろうが、この高速で集団でグラベルで進む中において、補給のために少しでも手を放すのが難しい。落車はできないし、どうするか。結局上りの区間に入るまで補給ができなかった。明確な課題だった。

泥区間での押し歩きの最中の1枚。よく見たらみんな水を背負ってる

ボトルを取り水を飲むことも難しかった。そういえば今回の参加者を見ていると結構な人数が背中に背負うタイプのハイドレーションパックを利用していた。普通に走る分にも利用する価値はあるだろう。次回の導入を検討してみようと思う。

平坦と聞いていたがそこそこ上る

平坦とはいうものの、こんな感じで丘レベルのアップダウンが日差しと相まって地味にきつい @Life Time

このアンバウンドグラベルが結果的に平坦のコースだ。それでも一応獲得標高が約1350m程あるのは、山というよりは丘によるアップダウンによるところが大きい。そしての獲得標高の大半はこの最初のオアシスポイントまでに凝縮されている。確かに思い返せばこの区間は水も無くなってしまい泥区間でのダメージもあってきつかった……。やっと給水できると安堵した。

オアシスポイントでの守屋寿人さん。何事もないかのような笑顔で素晴らしい!

65kmのオアシスポイントに到着、「とにかく水が欲しい‼️」

65km地点のオアシスポイントには給水所が設けられていたがみんなも同じ気持ちなのだろう。水をもらう場所に長蛇の列ができていた。少しでも早くゴールしたいという思いはあるため一瞬ためらったが、完走できなくては本当にもったいないため、安全第一に水をもらいにいく。自分の番がきた。

「ソーリー、ボトル1本までなのよ」

まさかそんな! いますぐ水を飲みたい中で次のチェックポイントまでボトル1本はさすがにしんどい! 噂によると水を貯めていたタンクに穴が開いてしまって水不足となってしまったらしい。これはもうやむなし。先を急ぐ。

※結果としてこの先に数カ所、コース沿いの家の人やボランティアの方が設営していた私設給水ポイントがあったのでそこで急場は乗り切ることができた

このオアシスポイントから少し進んだ先に100マイルと200マイルのコース分岐があった。間違えないように注意だ

カンザスの太陽と補給不足でピンチ! ハンガーノック寸前の筆者を救ったのは

しばらくは上りはなさそうだし、105km地点にあるチェックポイントのマディソンまで一気に飛ばしていこう!と思いきや……。気温はみるみる上昇し30度は優に超え40度近くまで上がったらしい。

良い天気なのはありがたいけど、ちょっと暑すぎ。軽く雨でも降ってほしいと思うほど

自分も補給が足りずふらふら。視界がぼやけはじめ、これはさすがにまずいと思い停車。コース脇の芝に座り込み何かを食べようともうろうとしていると、コース上の参加者がわざわざ止まって声をかけてくれた。「大丈夫?? 塩もってる? いる?」と自らの塩袋(見た限りでは本当に塩が直接入っていた)を掲げてくれた。もらうことは無かったが、グラベルでよく見る助け合いの精神を感じることができモチベーションが復活。残っていた補給食を全て摂取し、体力も復活! 補給食はなくなったが、少し先のチェックポイントのマディソンで先に送っていた補給食を受けとれれば大丈夫だからと進み始めた。

CPのマディソン到着! 補給がない……!

目の前に「3FEET CYCLING」は本大会の公式以外で唯一のエイドサービスを実施していた。レース前日でも申し込めるので、忘れていた人も直前まで補給対策は可能。私は泣きの懇願でコーラをもらえた。ありがとうございます。本当に助かりました

何とかCPに到着! 念願の補給だ。ここでチャージして一気に60km先のゴールまで……と思うが、到着が遅くなったため補給食をお願いしていた方とすれ違ってしまい補給食ゼロ! 本当にピンチ! やばい!

ここで補給についておさらいをすると、基本的にこのアンバウンドグラベルは、「何かあっても自分でなんとかできるように、サポートクルーは自分で連れてきてください!」というスタンスであり、セルフサポートを基本とするグラベルの考えにも沿っている。ここマディソンは外部から補給を受けられるポイント(100マイルではここのみ)に指定されており、ご家族やチームメートなどから補給などのサポートを受けることが可能となっている。

しかし、日本から来ている人など、サポートクルーの手配が難しい人のため、運営側が「クルー・フォー・ハイヤー(Crew for hire)」という制度を用意している。日本円にして5000~6000円程で、こういったチェックポイントで補給も取り放題の上、メカニックサポートまで受けられるとのこと。実際に利用した人からの話だとかなり評判が良い。参加予定の人はこの利用はぜひ検討すべきだろう。

プロクラスに出場した小森亮平選手も利用したクルー・フォー・ハイヤー。到着してからの手際の良さに小森さんも驚いたという

なんとか現地のテントの人に事情を説明し目の前のコーラ1本をもらえないかとお願いしたところ、快く手渡してくれた。本当に情けないながらもありがたくいただいた。一生忘れ得ぬコーラになった。

だが、補給としては全然足りず茫然自失。何とかならないかとチェックポイント内を自転車で徘徊していると、なんと日本国旗を掲げている車がある。元自衛官のため日本国旗を見つけるのがうまくて良かった。恥を忍びつつ声をかけたところ、何と、200マイルに出場していた中村龍太郎さんの奥さまとそのお子さん(まだ中村さんとこのタイミングでは面識はなかったが)、さらには中村さんのチームメートでコンディションの問題から200マイルレースを途中棄権せざるを得なくなってしまった鈴木聖士さんがいた。

マディソンの救世主となってくれた鈴木さん(左から2番目)と中村さん(左から3番目)。中村ファミリーと鈴木さんはお子さんと共に200マイルに参加している中村龍太郎さんを待っていた。ありがとうございました!

「なにか、食べ物をくれませんか」

いろいろと悩んだ結果ストレートにご相談。状況を説明すると、「自分が使う予定だった補給食全部持ってっちゃって!」と鈴木さん。中村さんも私のボトルに水を入れてくれたりと気を遣ってくれる。本当に感謝しかない。この場で食べるものは食べ、補充するものは補充し、「ゴールのエンポーリアでまた会いましょう!」と話しレース復帰。マディソンの短時間でいろいろありすぎたが、とにかく次は補給対策をちゃんとしようと誓った。

ラスト60km弱。突如大雨。残り少しのため一気にゴールへ!!

ここからの道のりはひとり……ではなく結構まだ参加者が周りにいる。「10時間以内に帰れるか!? なんとか帰ろうぜー!」となどと声を出しながら少人数で集団で走る。歌っている者もいた。が、すぐに集団は分裂。しかしまたすぐ別に集団結成。そのくり返しで進んでいく。

そんなことを繰り返しながら進んでいると、気づいたら進行方向の天気が怪しくなってきている。案の定というか、大雨。スコールが多い地域という話は聞いていたが、それを体感できたという点ではプラスか。

基本は先刻の35度超から一気に15度近くまで下がったらしい。普通に寒い。上着を着るか悩んだが、残りもわずかなのでそのまま行く。ちょうど一緒に長く走れている参加者もいるし!

雨の中、橋にある木の板の上から落ちないように渡り切る私 @Mike Siegrist Photography

紙面のトビラにも使用した写真はこの大雨の中で橋を渡ったときに撮影されたもの。雨のお陰で泥がだいぶ落ちてきているが、体力の限界は近い。

最後の舗装路に出るともうゴールは近い。エンポーリアの大学を抜けて市街へ。沿道の観客の人数が多い。拍手や声援をこの順位でも届けてくれる街に感謝しつつ何とか100マイル160kmを走り切ることができた。

ゴール後のフィニッシャーフォト。「疲れ」を表現したが、列に並んでいた参加者にはウケていた
テキサスから車できたチャーリー。雨が降ったころから一緒に走った彼は何と69歳で2回目の参加だ

結果は10時間27分53秒。10時間以内にゴールしたいと思っていたがそれは達成できず。ただ、初めてのレース参加でもあったため、とりあえずは完走できたことに安堵しよう。しかしまた、タイムも今度は意識して練習してみたい。そんな企画を動かしていく。

なお、編集長山口は9時間26分19秒で見事に10時間を切ってゴールしていた。

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PROFILE

坂本 大希

坂本 大希

元海上自衛官の経験を持つライター。1年間のドイツ自転車旅行をきっかけに自転車が好きになる。2022年秋ごろよりグラベルイベントに多数参加。2023年のUnbound Gravelで100マイル完走。グラベルジャーナリストになるべく知見を深めるため取材に勤しんでいる。

坂本 大希の記事一覧

元海上自衛官の経験を持つライター。1年間のドイツ自転車旅行をきっかけに自転車が好きになる。2022年秋ごろよりグラベルイベントに多数参加。2023年のUnbound Gravelで100マイル完走。グラベルジャーナリストになるべく知見を深めるため取材に勤しんでいる。

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