精鋭クライマー30人が「10,000UPチャレンジDay」in 利根沼田に挑戦 【Day1】
坂本 大希
- 2024年08月20日
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「10,000UPチャレンジDay」が7月13、14日の2日間に渡って開催された。一昨年から開催されている群馬県北部の利根沼田地域(沼田市・片品村・川場村・昭和村・みなかみ町)を舞台にしたヒルクライムイベントで2日間で10000mの獲得標高になるコースを走るイベントだ。その数値から過酷さはある程度想像できるだろう。しかし、一言では説明しきれない魅力がありとても濃い(濃すぎる)2日間をライダー達は過ごすことができる。今回は本イベントに帯同した2日間の記録を振り返る。
選考を経て集まった33名のライダー達
本イベントはレースなどではない、いわゆるファンライドイベントに属する。そういったイベントの場合、基本的には申し込み、参加費用の支払いさえ行えば参加できるのが当然だ。しかし本イベントにはまず最初に「選考」の壁がある。
それもそうだ。2日間で10000mを上るため、1日で約5000mをクライムしなければならない。安全を考慮すると日没前に帰ってくる必要もある。規程コースを想定時間内に走り切れるであろう走力をもつライダーじゃなければ本イベントに参加することは確かに難しい。そこで、申込時にこれまでの実績や意気込みなども記載してもらい、そういった情報をもとにイベントの運営側が書類選考をする。そして選ばれたライダー達がこの「10,000UPチャレンジDay」に参加する資格を得ることができる。
イベントの参加人数は昨年は20人に満たなかったが、今年は31名にまで増えた(DNSの参加者も含む。ゲストライダー等も含めると合計で34名)。ヒルクライムフリーク達の中で本イベントの認知度が向上してきたこともあるだろう。この調子で参加者が伸びていけば、「選考を通過し利根沼田地域にいくこと」がヒルクライマーのひとつのステータスのようになる日も近いかもしれない。
2日間で上る10000mは群馬県の名峰に由来
群馬県北部の山岳地域、利根沼田。この地域で有名な、百名山に数えられる日光白根山・至仏山・武尊山・谷川岳・赤城山の標高を合計すると約10000mとなる。これを2日間で駆け上がろうというのが本イベントの趣旨だ。
【1日目】
【2日目】
コースはその名も「モンスターコース」。利根沼田地域の魅力の中を走る
コースについては運営側のルーツ・スポーツ・ジャパンや利根沼田サイクルツーリズム推進委員会が設定した「10000UPモンスターコース」。非常に分かりやすく、具体的ではないものの「キツいんだろう」ということが容易に想像できる。筆者もこの2日間参加者と共にコースを走った(車で走行です)。「峠からの風景がきれい!」というのはだいたいどの峠でもサイクリストが写真とともにSNSにアップしているが、ここもご多分に漏れずいい。しかし同時に、この地域の特徴が非常にわかるコースだということに面白みを感じた。「昭和村=こんにゃく」くらいの認識は確かにあったが、本コース上にも多くの畑を目にした。全国の野菜出荷額で第6位と上位に位置する群馬県の本来の姿が単純な観光ではない本イベントを走ることで見えてくる。また、温泉も豊富だ。みなかみ町だけでも「みなかみ18湯」というくらい豊富な温泉がある。その温泉の横を通り過ぎるのだから、サイクリストもライド後にどこに寄ろうかなどと考えているのではなかろうか。
スタートは朝の5時半。長い戦いのスタート
既に記載した通り、本イベントの過酷さは一級品だ。公表ではまず初日に196.4kmで5254mアップ、2日目に197.3kmで5425mアップのコースを走る。長丁場で過酷なため、スタートの時間も早い。
夏とはいえ利根沼田地位の朝5時台は少し肌寒い。続々と集合地点の川場村役場駐車場に参加者が集まり、各々が自分のバイクの最終チェックを行っている。既に4回目を迎えた本イベント。異色のイベントだけにリピーターも多いのが特徴だ。前回も参加しました!という声もあれば、全4回全てに参加している人もいる。前回までのイベントで知り合っている人もいるため、会場からはそれなりに会話も聞こえる。過酷なイベントを前にしたピリピリした空気は一切なく、どこかアットホームな空気すら感じるほどだ。
本イベントが行わる群馬県に本拠地を置くプロチーム・群馬グリフィンの選手と走れるのも参加者たちにとっては魅力だ。写真左の小山選手は既に4回目の参加。右の金子選手はつい先日行われた全日本選手権のTT男子エリートで優勝、ロードではゴールスプリントで惜しくも2位という間違いなく国内トップクラスの選手。こんな金子選手だが、実は2回前の「10,000UPチャレンジDay」に参加し、途中でDNFを喫している。このイベントの過酷さが分かりすぎる話だ。金子選手は「集中して走り、完走してリベンジをしたい」とスタート前に話していた。
他のゲストライダーは「山は性癖です」でお馴染みの篠さんだ。こちらもつい先日、日本縦断のギネス記録に挑戦し、見事に女子で最速の自転車日本縦断の記録を達成。ギネスに認定された。男子を含めても歴代2位だからすごい。「今回走るモンスターコースは利根沼田を効率よく走れ、色んな景色も楽しめる。長い距離だけど、同じところを走ることも少なくおすすめです」と過酷さについての話が出ない理由はやはりその性癖のせいなのだろう。
今回から硬質の樹脂製ナンバープレートを各参加者に配布。公式の競技にも使用される上質なナンバープレートに気持ちも高揚する。これは記念にとっておきたい。
早朝の5時半に参加者が一斉にスタートしていく。
最初は赤城山
まず最初の山は赤城山ヒルクライムでもお馴染みの赤城山。川場村役場を出発し、最初は赤城山の北西麓に位置する昭和村の下り基調の道を進む。この一帯は日本有数の高原野菜の産地でもあり畑が多い。昭和村名産のこんにゃく芋は日本一の栽培面積を誇る。今度は手作りこんにゃくを試してみたいところだ。
赤城山の上りがはじまる。
群馬グリフィン・小山選手が先頭で集団を引っ張る。「いつもいるチームではクライムの時に自分の気持ちいいペースで走ると周りを置いて行ってしまうことも多い。このイベントの参加者はみんなヒルクライマーといえるので、頑張って走ってもみんなと一緒に集団で走れるのでとても楽しい」と話す参加者もいたように、赤城山山頂付近でも集団はあった。
赤城山を上りきった湖の近くにはエイドポイントを設置。この時点で約55kmを走行し、本日の約1/4を消化。なお、エイドステーションの運営は東京電力パワーグリッド高崎支社が協力をしている。詳細は下段にも記載しているが、電気自動車をつかってスマホの充電設備を整えたり冷蔵庫も稼働させたりと、積極的な姿勢でイベントに協力している姿勢が印象的だ。
金子選手はボトルの中に水と共に栄養を摂取できるようドリンクをつくっていた。本イベントのエイドではACTIVIKEからグランフォンドウォーターの提供もあり、参加者は自由に摂取することが可能だ。
まだまだ参加者にも笑顔が残る。
30kmを超える上りを走り、日光白根山の金精峠へ
赤城山を下った後はこの日の2つ目の峠である片品村の金精峠へ向かう。沼田市の観光名所のひとつである吹割の滝あたりの上りはじめから考えると、ざっくり30kmくらいは上る。その距離から、「富士ヒルが道中に1回まじってる」と話す参加者もいた。この長い上りで集団もばらけ、先頭は金子選手が引っ張っていた。
トンネルを抜けてすぐの駐車場が金精峠の山頂だ。まず最初に金子選手を含む3人が到着した。
群馬グリフィンの渡辺監督は常に公式サポートとして帯同し、参加者全体のメカトラ対応などのケアを行っていた。
山頂駐車場では片品村の「花まめパン」が振る舞われた。また、ライダー達のことを考えた運営側の判断で練乳の追加サービスもあった。イベントを反復して開催していくことで、最初は自転車に興味がなかった人運営スタッフもサイクリストの趣向を理解していくことが多い。こういった形で少しずつでも自転車への理解が深まっていってほしいものだ。
武尊山・川場スキー場までの上りを走り初日は終了
金精峠を後にしたライダー達はこの日の最後の大きな峠、武尊山の川場スキー場を目指す。上の写真はそこに向かう途中に通過するメインでもなんでもない宇条田峠と呼ばれる峠だが、何とも画になる。
本イベントにおいて、ゲストライダーの篠さん以外で唯一の女性出走者となったmelmoさん。富士ヒルシルバーの実力者だ。
川場スキー場までの上りは距離は10km弱で平均勾配は7%強ほど。既に多くの峠で脚を使わされた参加者たちの脚をさらに削り続ける。
山頂に到達した後、下山する際にすれ違う参加者同士で労いあう姿もあった。
過酷なはずなのに常に笑顔の篠さん。斜度と表情があってなく、まるで合成したかのよう。
リピーターのじーにょさん。昨年のジャパンオデッセイも完走したブルベライダーの一面も併せ持つ。初日の完走後にはアイス代わりにみなかみ町で冷凍販売もされている「大とろ牛乳」が振舞われた。参加者達は終了後はそれぞれ宿に戻り、翌日の走行に備える。
2日目の様子はこちらから
ツール・ド・10,000UP in Gunnma 公式サイト
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PROFILE
坂本 大希
元海上自衛官の経験を持つライター。1年間のドイツ自転車旅行をきっかけに自転車が好きになる。2022年秋ごろよりグラベルイベントに多数参加。2023年のUnbound Gravelで100マイル完走。グラベルジャーナリストになるべく知見を深めるため取材に勤しんでいる。
元海上自衛官の経験を持つライター。1年間のドイツ自転車旅行をきっかけに自転車が好きになる。2022年秋ごろよりグラベルイベントに多数参加。2023年のUnbound Gravelで100マイル完走。グラベルジャーナリストになるべく知見を深めるため取材に勤しんでいる。