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レムコ・エヴェネプールが男子選手では五輪史上初のTT・RRの2冠!|パリ五輪男子ロードレース

パリの五輪コースはこの男のためにあった-現地8月3日に行われた、パリ五輪自転車競技・男子ロードレース。パリ中心部を発着とする272.1kmに及んだ長丁場の戦いは、1週間前の個人タイムトライアルで勝っていたレムコ・エヴェネプール(ベルギー)がまたも会心の走り。最後の15kmを独走に持ち込んで、一番にトロカデロ広場のフィニッシュラインに到達。長い五輪の歴史では史上初めて、男子選手として個人タイムトライアルとロードレースの2冠を達成する快挙を成し遂げた。また、日本から挑んだ新城幸也は56位でレースを終えている。

パリの名所をめぐり、モンマントルの丘で最終勝負

オリンピックにおける自転車ロードレース競技は、1896年の第1回大会から実施されている伝統種目。当然ながら注目度も高く、開催地の名所をめぐるコースがルーティングされるあたりが目玉だ。

© PARIS2024

パリ五輪のロードレースコースは、エッフェル塔を望むトロカデロ広場をスタートしたのち、実際にエッフェル塔の前を通り、パリ中心部を流れるセーヌ川、個人タイムトライアルのスタート地になったアンヴァリッド、カルチエ・ラタンをめぐる5kmのパレード走行で幕開け。ルー通りでアクチュアルスタートが切られ、その後は13カ所の登坂区間をクリアしながら進んでいく。

パリから西をワンウェイで走り終えると、全行程272.1kmのうちの225kmを完了。そこからはルーヴル美術館やガルニエ宮の前を通りパリ中心部を抜けて、1周18.4kmの周回コースへ。モンマントルの丘へと上がる急坂は、登坂距離1kmで平均勾配6.5%。周回コースの多くが石畳の路面で、選手たちの脚を試す場にもなる。

最後のモンマントルを通過すると、残りは9.5km。最後はセーヌ川にかかるイエナ橋を抜けて、トロカデロに戻ってフィニッシュ。後ろにそびえるはエッフェル塔だ。

レースには、UCI国別ランキングをおおよそのベースとして出場枠を付与された国から全90選手がエントリー。パリのコースに挑んだ。

現地午前11時にスタートが切られると、パレード走行を経てリアルスタート。コース脇には多くの観衆が詰めかけた中で戦いは始まった。

© UCI

残り90kmからレースは活性化

リアルスタートと同時に飛び出した5選手の中には、有力国は含まれず。彼らの動きをしばし静観したメイン集団は、70kmほど進んだところで10分以上の差まで容認する。それからは、最大出場枠「4」を有するデンマークやベルギー、絶対エースのマチュー・ファンデルプールを擁するオランダがアシストを出し合って、少しずつ先頭グループとのタイム差を調整した。

スタートから80kmほど進んだところでのサンティアゴ・ブイトラゴ(コロンビア)のアタックをきっかけに集団が活性化して、4選手が抜け出すことに成功。ここにはエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア)やライアン・マレン(アイルランド)、グレブ・シリツァ(個人資格)といった普段はUCIワールドツアーを主戦場にする選手が入る。さらに、昨年マトリックス・パワータグで走ったゲオルギオス・バグラス(ギリシャ)も加わった。

© UCI

着実にタイム差を縮めた追走グループは、途中シリツァを切り離しながら先頭5人に迫る。約70kmかけて追い続けて、最前線へと合流。メイン集団もペーシングを本格化させていて、この段階でタイム差は2分50秒まで縮まっていた。

ここまでの形勢に変化がないまま40kmほど進んだが、残り距離90km切ったタイミングでアレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン)が集団からアタック。これにベン・ヒーリー(アイルランド)が反応して、2人で先頭からこぼれた選手たちをパス。丘陵地の連続登坂で先頭グループが割れ、やがてマレンだけが先頭を走る流れに。残り76kmでルツェンコとヒーリーが追いつくが、その頃にはメイン集団でもベルギーがペースを上げて、先頭を完全に射程圏に捉えていた。

残り70kmを切って、メイン集団では散発的にアタックが発生。レムコも加わって、上位入りが有力視される選手たちがいよいよ本格的に動きを見せる。10kmほど進んだところでのドメン・ノヴァク(スロベニア)のアタックをきっかけに、ニルス・ポリッツ(ドイツ)、マイケル・ウッズ(カナダ)、ヴァランタン・マデュアス(フランス)が飛び出すと、少し置いてシュテファン・キュング(スイス)、マルコ・ハラー(オーストリア)、ジャムバルジャムツ・サインバヤル(モンゴル)も追走に動いた。

残り15km、レムコが勝負を決める

数十秒差の間に先頭・追走・メイン集団がひしめく状況のまま、モンマントルを含む周回コースへと入る。先頭ではヒーリーがひとり逃げに。集団ではマチューが石畳の急坂で満を持してアタック。すかさずワウト・ファンアールト(ベルギー)がつくと、直後の下りでマッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ)、トムシュ・スクインシュ(ラトビア)、ジュリアン・アラフィリップ(フランス)が合流。ここは協調が保てず一度集団へと戻ることとなるが、直後にレムコがアタック。これがレース全体のターニングポイントとなった。

© UCI

集団から抜け出したレムコは労せず7人編成の追走グループにジョインすると、ほぼ先頭固定のまま突き進んでいく。上りでは完全に脚の差を見せて、残ったのはマデュアス、キュング、ハラーだけ。残り30kmを目前にヒーリーに合流すると、直後の登坂でキュングとハラーも引き離した。

先頭をゆくレムコ、マデュアス、ハラーを目指して、メイン集団ではマチューが再びアタック。やはりワウトやアラフィリップが反応。先頭にチームメートが入っていることもあって、積極的に集団を率いることはせず、ライバルの動きをチェックする側に回る。のちにヨルゲンソンやクリストフ・ラポルト(フランス)ら数人がマチューたちに追いついた。残りは約20kmで、レムコたちとのタイム差は40秒ほど。

レムコは数度マデュアスに先頭交代を要求するもまとまらず、先頭固定は変わらず。そしてフィニッシュまで残すは15km。急坂を利用してレムコがアタック。これにマデュアスが反応できず、レムコは金メダルへの独走を始めた。

© UCI

周回コースを走り終えてフィニッシュへ針路をとった時点で、レムコと単独2番手を走るマデュアスとの差は35秒。さらに50秒ほどの差で追走パックが続く。この追走パックの情勢がめまぐるしく変化し、メダルの色をかけた争いへと転化していく。

少しずつタイム差を拡大していたレムコだったが、ルーヴル美術館脇のキャルーゼル広場を走行中にパンク。大急ぎでチームカーにバイク交換を要求し、フィニッシュまでの3.8kmを踏み直した。

© UCI

再出発直後はテレビカメラに向かってタイム差を確認する仕草を見せたレムコだったが、十分なリードがあると知ってホッとした様子。最後の1kmを切るとチームカーに向かって勝利のポーズ。ジャック・シラック通りを抜けてトロカデロへ向くと、あとはフィニッシュまで一直線。五輪史上初めてとなるロード種目2冠の瞬間は、バイクを降りてエッフェル塔をバックに両手を広げてのウイニングセレブレーション。最後は受話器を置くポーズで締めてみせた。

© UCI

五輪史上男子選手としては初めてロード・TTの2冠に

ツール・ド・フランス初出場で個人総合3位と結果を残し、パリ五輪に乗り込んでいたレムコ。個人タイムトライアルで快勝後もコンディションを維持し、ロードレースで最高の走りを披露した。2019年に18歳でプロデビューして以来、大怪我を乗り越えながらビッグタイトルを欲しいままにしている24歳。ここからは、五輪王者としてキャリアを歩んでいく。

© UCI

レムコの歓喜から1分11秒後、2番手で粘ったマデュアスが後続の猛追をかわしてフィニッシュに到達。地元フランスの歓声をバックに、こちらも会心の走り。直後には、シャッフルを繰り返した追走グループが銅メダル争いのスプリントとなって、ラポルトが先着。結果、フランス勢が銀・銅メダルを獲得した。

© UCI

終わってみれば、日頃UCIワールドチームに所属する選手たちが上位を占める形に。優勝候補筆頭格に挙げられていた選手では、アラフィリップが終盤抑え役に回ったこともあって11位。マチューは12位、ワウトは終盤に落車した影響もあって37位でレースを終えた。

© UCI

日本から唯一の参戦となった新城は長くメイン集団でレースを進め、トップから8分57秒差の56位でフィニッシュラインを通過した。

ロードレース種目は、8月4日に女子ロードを実施。157.6kmにレース距離が設定され、日本からは與那嶺恵理が出走する。

男子ロードレース金メダル レムコ・エヴェネプール コメント

© UCI

「ハードなレースにしようとチームで話し合っていた。だから走っている間も、ティシュ(べノート)にペースを上げるよう何度か伝えていた。マチューがアタックしたときは、フロントブレーキの調子が悪かったこととボトルを受け取ろうとしていたこともあって反応ができなかった。ただ、それほど焦ってはいなかったし、彼ならきっとアタックするだろうと想定していた。

最後のアタックは、2年前に世界選手権で勝ったときの上りに近いように感じていた。長く緩い勾配だったけど思い切ってペースを上げた。すぐにタイム差が広がったことが分かったし、チームメートが後ろにいることも把握していたので、僕としては理想的な状況ができた。

パンクした瞬間はすぐに気がついた。近くを走っていたモーターバイクが僕にタイム差25秒と伝えてきた直後だったので、このままだと追いつかれてしまうと思った。ただ、チームカーから“1分あるからこの状況を楽しめ”と言われて安心できた。

これから先の目標はまだ分からない。とりあえず金メダル2つを楽しみたい。とにかく今シーズンは大成功だ」

新城幸也 レース後コメント

「最初のアタックを容認して10分以上空いた時点で今日のレースは厳しくなると思いました。モンマルトルの丘が勝負どころになるのは分かっていたので、そこで力を出すべく準備をしていましたが、今の自分の力では及ばなかったです。

日の丸を背負って、何回も走らせてもらって、恐らく最後のオリンピックになるであろう今回は準備できることは全てやりましたし、2003 年にパリに来て、21年経ってこうして日本代表としてパリでのオリンピックを走るなんて思ってもいなかったので今日は感慨深く良い1日になりました。日本の皆さんは、もっと良い順位を期待したと思いますが、自分としては最後まで悔いなく走れたので良かったと思います。本当に応援、ありがとうございました。

最後に、自転車競技を志す若い人に。覚悟を持って取り組めば、叶うことがあるので頑張りましょう、と伝えたいです。」

※JCFリリースより

パリ五輪 男子ロードレース(272.1km) 結果

1 レムコ・エヴェネプール(ベルギー) 6:19’34”
2 ヴァランタン・マデュアス(フランス)+1’11”
3 クリストフ・ラポルト(フランス)+1’16”
4 アッティラ・ヴァルテル(ハンガリー)ST
5 トムシュ・スクインシュ(ラトビア)
6 マルコ・ハラー(オーストリア)
7 シュテファン・キュング(スイス)
8 ヤン・トラトニク(スロベニア)
9 マッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ)
10 ベン・ヒーリー(アイルランド)+1’20”

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PROFILE

福光俊介

福光俊介

サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。

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