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金メダリスト杉浦佳子 険しかったパリ連覇を支えたチームジャパンのウェア|パールイズミ

3年前の東京パラリンピックで、自転車ロードレースと個人タイムトライアルの2冠を成し遂げた杉浦佳子選手。当時50歳での金メダル獲得獲得は、日本人選手の最年長金メダリストとして一般メディアでも多く取り上げられた。そして、「最年少記録は2度と作れないけれど、最年長記録は作れる」の名言は強いインパクトを残した。

53歳になって迎えた2024年夏、パリの地で再び金メダルを掴み最年長記録を作った。まさに有言実行。自然体の軽妙な口調で答える本インタビューでは、「最年長記録、また作っちゃいましたね! 」とおどけて見せた。

どん底から金メダリストへ

薬剤師として働きながら、37歳の時に趣味ではじめたロードバイク。しかし45歳の時、ロードレース中の落車により、高次脳記憶障害と右半身麻痺の後遺症を負ってしまう。「自転車にはもう乗れない……。文字も読めず、処方する薬の知識も忘れてしまうなど、この先どうやって生きていけば良いのかと。どん底でした」と振り返る。そんな時に出会ったのが、パラアスリートとしての新たな道だった。「また自転車に乗れるかもしれない」。闇の中にかすかに見える光を求めて日々懸命のリハビリに取り組んだ。

平衡感覚には障害が残り、今も私生活ではクラッチ(杖)が欠かせない。それでも徐々に記憶力を取り戻し、右半身の麻痺による左右差は地道なトレーニングで克服。
それらの努力は大輪の花を咲かせる。世界選手権ではアルカンシェルに袖を通し、母国開催となった東京パラリンピックで2冠。東京を終えた杉浦選手の次なる目標はパリに向かった。ロード競技での連覇はもちろん、トラック競技でのメダル獲得へ。

パリに向けて新たなトレーニングに挑戦

東京の後、トラックコーチの飯島誠さんと、トレーニング全般のパートナーでもある八幡光哉マネージャーと共にパリに向けて動き出した。新たな取り組みとして、トラック競技のためのトレーニング時間を増やしていった。

「バイクペーサーや下半身の筋トレを強化することで、最大出力や短時間の出力を高めていきました。普段のトレーニングのタイムでも成長を実感でき、3kmで10秒も短縮できました。私のスピードが上がっていくものですから、一緒に走ってくれる八幡コーチの機材がどんどん進化していくのは面白かったですね!」

結果はすぐに現れた。2022年トラック世界選手権で500mと3km個人パシュート(追い抜き)で銀メダル、2023年の同大会では両種目で頂点を極めてアルカンシェルに袖を通す。

「50歳を過ぎて新たな取り組みをして、その伸び代も感じています。いっぽうで、回復力の低下も実感しています。2023年最初のワールドカップで落車してしまってから回復させるまでに時間を要し、その間にエンデュランス能力が下がってしまいました」と、50歳を過ぎてからの身体の変化と向き合う日々。

「パリに向けては、短時間高強度トレーニングを積めるだけのエンデュランス能力の底上げを目標に、冬の間からLSDなどベーストレーニングの量を増やしていきました」と、八幡コーチと相談して柔軟にトレーニング計画を調整してきた。これまで大舞台での経験を重ねてきた経験値こそ、今の杉浦選手の強みと言える。パリ本番でも、それが生きることになった。

2023 UCI 世界選手権 トラック パラサイクリング 女子 個人パシュート 写真:PA Images/アフロ

一層のこと、パリに行けなければ良いのに……

パリに向けて順調だった。出国の1週間前までは……。

「8月にトラックの自己ベストも出ていまっしたが、パリへの出国直前のタイミングで持病の喘息症状が出てしまいました。大事な時期にトレーニングもできず、夜は十分に寝られずコンディションを落としてしまいました。インフルエンザやコロナの検査を受けたのですが、一掃のことパリに行けなければ良いのに……と思ってしまうほど、追い詰められていました」と、その時を振り返る。

気持ちを切り替えてパリに乗り込んだものの、やはり調子はなかなか上がらなかった。目指していたトラック種目は、自己記録にも届かず……。「いつもよりギヤを軽くして走るしかなくて。本当に残念でした。このままでは応援してくれるみなさんに恩返しができない……」と、当時の心情を語る杉浦選手。失意のトラック競技を終えてロードレースで連覇を達成するまで、あと7日あまりだった。

日頃のコンディショニングはトレーニングデータで管理している。疲労を溜めないようにレースの数日前から練習量を落とし、直前はほとんど乗らないのがスタイルだった。しかし、パリではトラック競技を終えた翌日からロードレース前日まで毎日乗ることに変えた。

「レース翌日は休み、レースの2日前も完全オフがこれまでのスタイルだったので不安でした。でも、これまで自分の身体が感じる主観とデータに差を感じることがありました。コーチとも相談して、パリでは直前も乗りこめていなかったこともあり、毎日パリの街を走り、坂道でしっかり強度も入れて走るようにしました」

これにより筋肉に張りが生まれ、コンディションは大きく上向いていった。ロード個人TTはメダルこそならなかったが、ロードレースに向けて手応えは掴んだ。

連覇を支えたパリ仕様の「チームジャパン」のウェア

パリで杉浦選手が着用した日本代表ジャージは、日本のパールイズミが研究開発を進め、最新素材とテクノロジーを使って代表選手からの要望を反映した最新モデルになる。このエアスピードジャージは一般サイクリストでも手にいれることができる既製品でもある。開発担当者のパールイズミの佐藤充さんは、ジャージの特徴を次のように説明する。

「最新のレースジャージは、軽さと高いエアロ性能を実現したモデルがトレンドです。このモデルも以前よりも生地が30%ほど薄く、軽いモデルになっています。そして、空気抵抗を受けやすい部位には、”スピードセンサー®︎Ⅱ”という特殊素材を採用しています。この開発は東京オリンピック・パラリンピックの開催地が決まった直後から動き出しました。初期の段階では、まず世の中にある凹凸素材をかき集めて、それらをすべて風洞実験にかけることから始めました。そのなかで、表面処理をほどこした格子(菱形)デザインが空力的に優位であることをつかみ、つぎに格子サイズの大小の違いによる抵抗値を明らかにしていきました。素材を絞った段階で、さらに、実寸に近い脚の動きのあるマネキンも開発し、身体のどの部位に採用するべきかをJAXAの風洞実験で検証しました。全面が格子柄のジャージも試しましたが、逆に抵抗値が増えてしまうなど、トライアンドエラーの積み重ねでした。そして、トップスとパンツでそれぞれ20パターンほど検証した結果、格子柄の素材を両肩とお尻の部位に採用した空力に優れるジャージが誕生しました」(佐藤)

軽量でエアロダイナミクスにすぐれる高性能ジャージも、それらの機能を発揮させるためには選手の身体にフィットさせることが重要になる。パリに向けては直前に採寸を行なっている。

「ジャージで大事な点はフィット感です。軽量で空力や速乾性にも優れていてもフィット感が削がれてしまっては本末転倒です。選手の身体にジャストフィットさせることが何より大事なのです。そのため、パリ本番の1カ月前にも杉浦選手の身体のサイジングを行いました。杉浦選手は筋肉のつき方のバランスは良いのですが、東京の時と比べると各部位で変化が見られました。体重は2kgほど減量されているのに大腿部は2cmほど太く、身体にメリハリが出ていました。各部位の測定結果に、本番までの体重の増減を加味したう上で、パリ仕様のオリジナルジャージを用意しました」(佐藤)

杉浦選手はパリで着用したジャージの完成度に満足している。

「パリにはトラック競技用のワンピースやロードレース競技用のロードスーツ、その他にもいくつか持ち込みました。どれもシワひとつなく今の私にジャストフィットでした。密着感がとても高く、私の身体の一部、皮膚になったような印象でした。それでいて、バイクの上でポジションを作ったときに、動きにくさがなくスムーズに動かせます。

機能面で東京の時点でとても満足していましたのでパリに向けて私から製品に対する改善点は特にありませんでした。東京大会のロードレースでは、セパレートタイプ(上下別体の)を着用したのですが、私が他の選手と比べて小柄なゆえゼッケンをきちんと貼れるスペースが確保できなかったので、パリ大会では貼りやすいようにワンピース型のロードスーツを特別に用意してもらいました」

緻密な戦略を立て、掴んだ最高の結果

2024年 パリパラリンピック 自転車 女子 C1-3 ロードレース 杉浦が2連覇 写真:ロイター/アフロ

東京・墨田区に本社を構えるパールイズミが制作したパリ仕様の最新ジャージを見にまとった杉浦選手。連覇をめざしたパリ最後の競技となったロードレースでは、チームで緻密な戦略を立てて、それを実行した。

「ライバル選手の個人TTでの走りの特徴を把握して、どうすれば優位に走れるかをシミュレーションしました。そして、ライバルの状況を見て、ラスト1kmからの逃げ切りか、ゴールスプリント勝負にするか」

当日、コーナーには前々で入り、得意の登り坂は積極的にペースを上げることでライバルの体力を徐々に削っていった。ゴール前、最後の下ってからのゴール前の上り区間。下りのコーナーで差がつかなかったことから、スプリント勝負に切り替えた。

ゴール前300mは緩やかな左カーブ。事前に決めていた左の最短ラインをキープしたままスプリントを開始。トラックトレーニングで引き上げたスプリント力も活かして、大柄なライバル選手たちとの真っ向勝負を制してゴールに飛び込んだ。

ゴール後、金メダルを確信した彼女の瞳には涙が溢れ、表彰式でも感極まった。その姿は誇らしげに笑顔がはじけた東京の時とは対照的。そこには、大会直前に「逃げ出したい」と思うほど追い込まれ、現地滞在の「辛かった2週間」から解放された安堵感が溢れていた。

帰国後、応援してくれる多くのスポンサーに、東京の時とはまた違う輝きを放つパリの金メダルと共に報告を行なった。連覇を支えた高性能ジャージを手がけたパールイズミへの訪問では、社員総出で杉浦選手を出迎えた。

杉浦選手が着用するエアスピードジャージの開発に携わったパールイズミのデザイナー佐藤充さんは、「スタッフ全員が選手と直接お会いする機会は多くないので、貴重な時間でした。これを新たな製品づくりへのモチベーションにし、アスリートからの声を製品に反映していくモノづくりをこれからも続けていきたいと思います」(佐藤)

杉浦佳子

2008年、37歳のときにロードバイクをはじめ、トライアスロンやエンデューロレースを楽しんできた。2016年、45歳のとき、ロードレース競技中の落車により、高次脳記憶障害や右半身麻痺などの後遺症が残り、2017年からパラアスリートとして活動。現在のクラスは「C1ー3」。ロード世界選手権では2017年に個人TT、2018年にロードでアルカンシェルを獲得し、UCIパラサイクリングの年間アワードであるパラサイクリング大賞を日本人として初めて受賞。そして、東京パラリンピックの個人TTとロードレースで2つの金メダルを獲得。日本選手最年長での金メダリストになった。2023年世界選手権ではトラック500m、3km個人パシュートでそれぞれアルカンシェルを獲得。53歳で迎えたパリパラリンピックではロードレースで連覇を果たし、自身の最年長金メダリスト記録を更新。JCFジャパンサイクリングアワード2024MVP受賞。現在、総合メディカル株式会社に所属し、ロードレースは実業団チーム「TEAM EMMA Cycling」で活動。1970年生まれ、静岡県掛川市出身。

取材協力:パールイズミ
http://www.pearlizumi.co.jp

 

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PROFILE

ハシケン

Bicycle Club / スポーツジャーナリスト

ハシケン

ロードバイクに造詣が深いスポーツジャーナリスト。国内外のレースやロングライドイベントを数多く経験。Mt.富士ヒルクライムの一般クラス優勝、ツールド宮古島優勝。UCIグランフォンド世界大会への出場経験あり。

ハシケンの記事一覧

ロードバイクに造詣が深いスポーツジャーナリスト。国内外のレースやロングライドイベントを数多く経験。Mt.富士ヒルクライムの一般クラス優勝、ツールド宮古島優勝。UCIグランフォンド世界大会への出場経験あり。

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