伝統的な生酛造りが新時代の日本酒を切り開く 神奈川・海老名『泉橋酒造』
buono 編集部
- 2021年02月01日
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しっかりした味わい。原点回帰。そんな言葉で表現される「生酛(きもと)」。昨今の吟醸香ブームの流れで、酵母由来の香りを楽しむ日本酒が人気だが、とりわけ次世代の造り手たちは生酛に注目し、研究している。
神奈川・海老名『泉橋酒造』
橋場友一
1857年創業の「泉橋酒造」六代目。慶應義塾大学卒業後、証券会社に3年間勤めたのち、1995年に泉橋酒造入社。「酒造りは米作りから」をモットーに栽培醸造技術の向上に励む。
新しき伝統の酒造り「生酛」の可能性
神奈川県海老名市の『泉橋酒造』は、2004年に始めた山廃造りをきっかけに、生酛造りに目覚めた酒蔵のひとつだ。六代目の蔵元杜氏、橋場友一氏は言う。
「無農薬の田んぼの米で山廃造りの酒を造ったら、その旨さに愕然。無農薬で米を作る大変さが腑に落ちました。5年後の2009年に始めた生酛造りは、山廃より繊細な味わいなのに、米由来の旨味成分をたくさんのせることができたんです」
乳酸によって雑菌を抑えながら、アルコールを生み出す酵母を増殖させる「酒母(酛)」。その乳酸を作る乳酸菌を自然の中から取り入れた製法が、生酛造りだ。400年前以上前の江戸時代に考案された、いまの日本 酒の原点とも言える製法で、仕込み(酛立て)に2日、酵母育成期間に30日を要する。手間と難易度から、現在の主流は乳酸を添加する「速譲造り」の酒が大半を占めているのが実状だ。
「当たり前ですが、江戸時代には電気もガスも温度計もない。菌という概念すらなかったのに、蔵人の勘と経験だけで生酛造りが完璧にできていた。そして、その造り方が今でも脈々と受け継がれて機能している。ロマンを感じますね」
泉橋酒造は、原料米の栽培から精米・醸造までを一貫して行う、全国でも珍しい「栽培醸造蔵」。現在、使用する酒米の95パーセントは地元神奈川県産で、自社の田んぼでとれる酒米も総量の15パーセントに及ぶ。
「生酛や山廃は、基本的に米由来の乳酸菌から殺菌してできる。なので、弊社のように土壌にこだわって米作りからやっていると、その土地の味わいを表現することができるんです」
2016年から、すべての山廃を生酛に移行し、総量の半分を生酛にした泉橋酒造。造り手の個性が表現された生酛造りの酒は、大きな可能性を秘めている。
受け継がれる「山おろし」の技
生酛造りを象徴する作業が「山おろし」。蒸し米と麹と水を混ぜてすり潰す。名前の由来は、山のように盛った 米を櫂で崩すことから。その工程を見せていただいた。
1 蒸し米〜手酛
酒米を甑(こしき)で蒸す。25〜30°Cになったら、水分を保ったままゆっくり冷まして米を硬くする(埋け飯)。 蒸し米、米麹、水を両手で均一に混ぜ、これを3回繰り返す(手酛)。最後に山型に盛る。
2 山おろし(酛すり)
丸みを帯びた櫂棒を使い、2〜3人1組で左右に息を合わせて回りながら約5分で酛をすり潰す(一番櫂)。4時間ほど寝かせ2回目を行う(二番櫂)。10分ほどで全体が水っぽくなり、表面が光ってくる。
ドラマチックな菌の交代劇
酛すり後、まず硝酸還元菌が亜硝酸を作り出し、他の野生酵母や雑菌を抑え始める。次にゆっくりと温度を上げると、殺菌力の強い乳酸が生成され、硝酸還元菌と亜硝酸を無力化。乳酸の中で酵母菌は増殖し、生成されたアルコールで乳酸菌は死滅して酛ができる。
3 酛寄せ
半切り桶に入った酛を酒母タンクに入れて、タンクの壁に跳ねた酛を丁寧に取りながら、平らに整える。この後は、温度管理をしながら酵母を加える。タンクに仕込んでから30日前後で酒母が完成。
酒米や醸造方法で違いを楽しむ、生酛ラインナップ
左から
「いづみ橋 とんぼラベル 楽風舞 純米大吟醸 生酛」
「いづみ橋 とんぼラベル 雄町 純米大吟醸 生酛」
「黒とんぼ 生酛 純米酒」
「桃色黒とんぼ 生酛 純米酒」
「生酛 純米 秋とんぼ 山田錦」
「生酛 純米 秋とんぼ 雄町」
「純米大吟醸 生酛 いづみ橋」
「純米酒 生酛 夏ヤゴ 13」
「純米酒 生酛 夏ヤゴ MOMO 13」。
泉橋酒造
住所/神奈川県海老名市下今泉5-5-1
TEL/046-231-1338
http://izumibashi. com/
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PROFILE
buono 編集部
使う道具や食材にこだわり、一歩進んだ料理で誰かをよろこばせたい。そんな料理ギークな男性に向けた、斬新な視点で食の楽しさを提案するフードエンターテイメントマガジン。
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