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【発酵】日本の四季を取り入れた、「山の上」の食べたくなるパン

和歌山県の山奥にある「ベーカリーテラス ドーシェル」は、車で“わざわざ”行かないと辿りつけない。それでもパン好きの間では知る人ぞ知る人気店。絶景が広がる自然の中で育まれたパンも、つくり手のライフスタイルも気負わず自然体で“おいしい”を広げている。

山の上なのに行列も入場制限も日常茶飯事

「この先に本当にパン屋があるの?」。初めて訪れる人はそう不安にさせるほど市街から遠く、山の尾根にひっそりと建つ「ベーカリーテラス ドーシェル」。JR和歌山駅から約40分、車で山道を走らなければならず、JR海南駅、和歌山電鐵の貴志駅などの別ルートからでも、“車”がないと辿り着けない場所にある。

それでも平日は地元の人を中心に、週末は市外や県外からも訪れる人が絶えることはない。店前に行列ができたり、入場制限がかかったりすることさえあるという。1998年のオープン以来、こうした風景は日常と化し、町一番、いや和歌山県で一番人気とも噂される有名店となっている。

「18歳で和歌山を出て、1995年の阪神淡路大震災をきっかけに40歳で故郷の海南に戻ってきました。それまでは神戸の宝塚の街中でパン屋を10年ほど続けていましたが、こっちに来てからの方がたくさんのお客さんに利用していただけています」

店主の戸田晶さんは、パン職人歴30年以上のベテラン。根っからのパン好きだったわけではなく、京都の西陣でサラリーマン生活をしていたときに通勤途中に見かけた、とある夫婦が営むパン屋のアットホームな雰囲気に惹かれ、パンの道に転身したという。

こだわり過ぎずに「楽しい」を追求するパン作り

パンそのものではなく、パンづくりに魅せられた戸田さんのパンは、パン通が好むハード系ではあるけれども決して高級路線ではない。「自分がお客さんだったら……」という視点で価格設定されており、「間口は広く、敷居は低く」を意識した、誰でも入りやすいお店づくり、食べやすいパンづくりをされている。

「どうしてこんな場所に? とよく聞かれますが、ここにお店をオープンする前に、車じゃないと行けない、でも繁盛している山の中腹にあるカフェに行ったことがあるんです。そこのオーナーに『6つの感動があればお客さんは来る』と助言してもらって店を構えました。価格の安さも、まあそのひとつかな」

“絶景”もドーシェルの魅力で、イートインスペースやカフェテラス席からは、晴れた日には海南市の街並みの先に海が望め、眼下にはみかん畑が広がり、景色を眺めながらのランチ目当てにくる人も絶えない。

続々と焼き上がっては売り切れていくパンも、原材料をストイックなまでに厳選するのではなく、レーズン酵母などの自家製酵母のパンは全体の1割程度。あえてドライイーストと掛け合わせることでパンにバリエーションを与えている。

「こだわりすぎると息苦しくなるからね。ベースは国産小麦で、できるだけオーガニックなものを使うというスタンスです。奇をてらうことなく、自分が作って楽しい、食べておいしいパンを追求しています」

無農薬のナッツやフルーツをパンに生かす

自然豊かな場所にあることで、パンのメニューも変わったという。柿やみかん、金柑やブルーベリーなどの果樹やハーブを無農薬栽培し、パンづくりに取り入れるようになり、さらには、ジャムや金柑入りビールなどの新商品も生まれている。仕入れるナッツ類は無農薬のものを選び、ナッツやフルーツなどの素材の組み合わせに、戸田さんはパンづくりの新たな楽しさを見出しているという。ジャムや金柑入りビールなどもこの地だからこそ生まれた商品なのだ。

「街中にいた時は、一日中ステンレスだらけの無機質な厨房でパンをつくる毎日でした。いくら好きなことをやっているとはいえ鬱々としてきてね。でも、ここは自然が身近にあるから、パンに使うフルーツやハーブを採りに外に出るだけで心身がリフレッシュされます。四季の移ろいや、蒔いた種から芽が出るなどの日々の変化や発見を体感しているからか、穏やかな気持ちでパンと向き合えています」

お客さんからも「腹持ちがいい」「ここに来ると幸せになる」と心身の充足感が満たされるといったコメントが寄せられているそうで、コロナ禍でもそれほど来店数が減っていないというのも納得できる。

「今も、新しいことに挑戦し続けている毎日です。70歳までは頑張りたいですね」と笑う戸田さん。パンにも自分自身も負荷をかけないように、少しずつパンの数を減らして2021年5月以降は基本的にひとりで切り盛りする体制にシフトしている。自然を通じた発見や喜びをパンづくりに還元し、また新しいパンが生まれる。そうした自然と呼応し、循環するドーシェルのパンづくりに、真摯に向き合う戸田さんの挑戦は続く。

 

■DATA

和歌山県海草郡紀美野町釜滝417-3
営業時間:木、金曜11:00〜16:00(土日祝日は17:00まで)
定休日:月、火、水曜
TEL.073-489-5324
https://www.dooshel.com

⽇本⾷の未来地図をデザインするために、発酵醸造に特化したシンポジウム。「Fermentation Future Forum(F3)」が2022年再始動します。
http://fermentationfutureforum.org/

当記事に掲載されている情報は、2017年にスタートした「F3|発酵醸造未来
フォーラム」の活動で取材された当時のものです。

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buono 編集部

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使う道具や食材にこだわり、一歩進んだ料理で誰かをよろこばせたい。そんな料理ギークな男性に向けた、斬新な視点で食の楽しさを提案するフードエンターテイメントマガジン。

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