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森を駆け、池で憩う 北八ヶ岳ラントリップ

走ることと、山で泊まること。意外と相性がいいこのセットを体験するなら、食と住を提供してくれる山小屋を使わない手はない。小屋泊を初体験すべく3人のランナーが向かったのは、コケを蓄えた針葉樹林の森。

文◎泥谷範幸 Text by Noriyuki Hijiya
写真◎小関信平 Photo by Shimpei Koseki
出典◎フィールドライフ No.57 2017 秋号

ランナー(左から)

岡本 唯さん
鎌倉出身で山には縁遠かったが、ロードからトレイルへとランのフィールドを拡大。いまでは100㎞のレースを完走するまでに。月間走行距離200㎞!

山田琢也さん
長野県・北信地域の木島平出身。スキー選手として活躍した後にトレイルランナーに転向。実家の宿「スポーツハイムアルプ」には多くのアスリートが集まる。

河野亮介さん
スキーで人気の長野県・野沢温泉で生まれ育ち、いまは「中島屋旅館」の若旦那を務める。休みの日にはスノーボード、トレイルランニング、釣りなどに興じる。

なぜならそこに池があるから

登山計画書を提出。トレランに限らず、山に入る者のマナーだ。

「今週末レースなんです。信越五岳の110㎞。激しい練習は終えて休息モードに入ってるんで、この2日間はとことんダラダラしますよ!」

山に入る前なのにすでにリラックスモードなのは、新潟との県境に近い長野県の北信エリアから八ヶ岳にやってきたトレイルランナーの山田琢也さん。

「琢ちゃんのダラダラってどんなペースなんだろ? オレついていけるかな……?」と、山田さんと同じ年で、クロスカントリースキー仲間でもある野沢温泉出身の河野亮介さんが笑いながらも、心配そうに続ける。

「ホントですよ! 今回、山田さんと走るから、どれだけ気合い入れて走らないといけないのか心配で夜も全然眠れませんでした……」とは、鎌倉育ち、どちらかといえば山より海に育てられた岡本結さん。

見た目からは想像できないが、じつは岡本さんは100㎞のレースを完走したこともあるほどの健脚の持ち主だ。

今回のプランは、小屋泊まりで山に来たかったという山田さんと河野さんの北信チームに、岡本さんが合流し、北八ヶ岳をトレランで縦走するというスタイル。

初日の後半になってやっと天気が良くなってきた。停滞のうっぷんを晴らすかのような軽快ラン。

それこそ山田さんがガチで走れば、1泊で八ヶ岳全山縦走も可能だが、今回の目的はあくまで山ですごす時間を楽しむこと。だから、渋の湯から入り、高見石を経て麦草ヒュッテに泊まり、翌朝は白駒池に立ち寄って雨池、双子池を経て蓼科山の登山口で山を下りるという、両日ともに登山でも余裕で歩ききれる軟弱スタイルのプランを山田さんが立てていた。

と、ここで岡本さんからプランニングへの素朴な疑問が。「なんで池を3つも回るんですか?」「いや、ピークハントじゃなくて、走ったら気持ちいいコースを考えてたらこうなったんですよね(笑)。べつに女子ウケを狙ったわけじゃないんだけど……」「琢ちゃん、さすがっす!」と、少々食い気味に河野さんが突っ込みを入れる。

ウォーミングアップが済んだところで、いざ、八ヶ岳の森へ。

登山口の渋の湯で、まさか山に入る前に温泉に入ることになるとは……。

この日、夕方には雨が止むが、午前中は雨という予報。だが、宿泊地の麦草ヒュッテまでは歩いても3時間位の行程なので、出発を少し遅らせて向かうことに。それまで渋の湯で時間を潰す……、ならやっぱり温泉。ということで、到着早々いきなり湯に浸かる。当初の予定通りダラダラしながら、ようやく昼に出発。

高見石小屋までは登りが続くため、3人はゆっくりペースで歩く。「私、山小屋に泊まるのが初めてなんですよね。どんなところかすごく楽しみにしてきました」と、小雨のなかでも笑顔を絶やさず山田さんに話しかける岡本さん。

「じつは僕らも小屋泊は初めてなんです。前にファストパッキング的なテント泊はあるんですけど、小屋泊だったらトレランスタイルの軽い装備で山を走れるじゃないですか。前からそれをしたいなと思ってたんですよね」

バックパックは20ℓ前後の小ぶりサイズ。

3人のバックパックは20ℓ前後。防寒着や2日分の行動食など日帰りのトレランよりは装備が多めだが、それでもテント、寝袋などを背負うファストパッキングに比べたら相当軽い。泊まりなのに、普段とほとんど変わらず走れるというのが、この小屋泊ランの最大の魅力だ。

2時間弱歩いたところで高見石小屋に到着。「小屋の裏にいいところがあるんですよ。いや、僕も行ったことはないんですけどね(笑)」と山田さん。

岡本さんが不慣れな岩場は男子ふたりでフォロー。お姫様気分?

3人は小屋の右手から続く岩の道を進む。するすると登る男子ふたりに対し、遅れをとる女子。岡本さんはトレランの大会は何度も出ているが、本格的な山登りはこれまで富士山に登った1回だけだという。岡本さんが岩に難儀しているようすに気付いたふたりはすぐさま戻り、「次はこっち」と的確なアドバイスを送る。

高見石で白駒池などの北八ヶ岳ビューを俯瞰。まるでジオラマの世界に紛れ込んだかのような気分になる。

一番高いところまで登ると、眼下に広がるのは北八ヶ岳の広大な森と池。白駒池、雨池と、明日のルートも一望できる。「すごーい‼ これだけでも来てよかったと思えちゃいますね!」「琢ちゃん、さすがっす!」

高見石小屋の名物はあげパン。味が4種類もあるが、「どれにしようかな」でなく、ここはしれっと大人買い。

今朝耳にしたフレーズが、ここでもまた、河野さんの口から出てきた。「じゃあ、今日の宿に向かいましょう」

レースに向かう日々。それは心躍るとき

まさにヒュッテという名前がぴったりな麦草ヒュッテ。

「おつかれさまでした。夕食の時間は18時ですけど、その前にお風呂に入れるのでぜひ身体を温めてくださいね」

国道299号沿いに建つ麦草ヒュッテは、電気も通っていて風呂にも入れるという至極便利な小屋だ。小屋泊が初、しかも女子がいるということもあり、まずは快適にすごせる小屋を、という考えでのチョイスがここだった。

ホシガラスに遭遇。エサをねだっているかのようなふてぶてしい表情?

6時間前に入ったばかりの風呂にもう一度入ってから、3人は部屋でまったりモードに。改めて地図を見ながら明日の行程を確認したら、そのあと岡本さんから山田さんへの質問タイムへと突入していった。

山と高原地図を見ながら明日のコースを予習。見慣れぬ地図に岡本さんは興味津々なようす。

「山田さんがトレランを始めたきっかけってなんだったんですか?」「僕はもともとクロスカントリースキーの選手で、そのころはドイツに住んで練習してたんです。『スキーもやりきったかな』と思ったころに、近くで行なわれる登山競争にスキー仲間が出るというのを聞いて、そこで走ってみたんですよね。スキーとはまた全然違う感覚で新鮮でした。

それがはじめて出たレースで、日本での初レースは八海山登山マラソンという大会です。それからキタタン(北丹沢12時間山岳耐久レース)に出たんですが、この大会で『もっともっとやれるはず』という競争心が芽生えて、どっぷりトレランにハマっていきましたね」

このあたりはクロスカントリースキーのコースでもある。

「それでランナーになろうと思ったんですね」

「そうなんです。アスリートだったからどうしても競争心が強かったんですが、2006年に初開催の地元の斑尾のレースに出たら、また違った気持ちも芽生えました。

斑尾のコースってブナの森を走るんですけど、やっぱり自然のなかを走るのって純粋に気持ちいいって感じましたし、大会自体も〝ファン〞な雰囲気が漂っていて、競争するだけじゃなく『レースを楽しむのもいいな』ってあらためて思ったんですよね。

山小屋然とした雰囲気が漂う。

あと、レースに関して言えば、結果だけじゃなくて僕はそれまでの過程にも価値があると思っています。どんな風に準備をするかということを考えるのが楽しいし、レースへ向かっていく日々はとても充実していて好きです。

麦草ヒュッテのあたりは絶好のコケ観察ポイント。小屋ではコケのキャラクター「コケ丸」のグッズを販売。

もちろん結果はおまけということではなく、人体実験じゃないですけど、どれくらい身体をいじめる、休めるかで、最終的な結果を求めていきます。

結果にこだわればこだわるほど、それ以外のすばらしい物を受け取れる。事前の準備をしっかりして、でレースはとことん楽しむ、というのが私のスタイルなんですが、それはどんな人にとっても大事なことなんじゃないかって思いますね」

屋根裏にある大部屋で昭和にトリップ。

普段、仕事で慌ただしい日々を送る3人だが、携帯もほとんど通じない(ドコモは入るが3人は他キャリア)山小屋の中では、強制的に仕事のスイッチはオフになる。

その代わり、会話を楽しむという何気ない行為が最大の娯楽へと変わる。ちょっと昔なら当たり前のことだが、電波網とスマホが発達しきった現代では忘れかけていた感覚、時間の流れが、山小屋では生き続けている。

クルマでアクセスできる小屋なので、ご飯のレベルも高い。
河野さんと岡本さんはもちろん、レース間近の山田さんもビールの誘惑には抗わない。

夕食をビールと堪能した3人は、部屋に戻るなり早々に撃沈。長い秋の夜は、日々の疲れと昨夜の睡眠不足のリカバリーのために費やされた。これぞ、最高の贅沢。

池をめぐって山の懐の深さを実感

朝早く白駒池へと向かう3人。小屋のすぐそばから豊潤な森が広がる。

翌朝、いつも5時に起きてランニングをしているという岡本さんの日課に合わせ、3人も朝食前に朝ランをすることに。まだ夜が明け切らないうちに小屋を出て、歩いて30分ほどの白駒池へと向かう。

見事に木の幹を彩るコケ。北八ヶ岳ではこんな風景を当たり前のように目にすることができる。

雲が残るどんよりした天気だが、ところどころで雲が切れ、控えめに赤色を混ぜた空が顔を覗かせる。「向こうの空と池が明るくなってきましたね。幻想的!」

夜明けを迎えた静かな白駒池。日の出とともに東の空が白み、それを池が映し出す。これだけでも山に泊まった価値があるというもの。

いつもの近所の朝ランとはまったく違った景色に感動しているようすの岡本さん。山田さんと河野さんも地元の志賀高原などと違う、池と針葉樹林が織りなす北八ヶ岳ならではの風景に見惚れているようで、昨日の饒舌から打って変わって言葉も少なめ。

3人はゆっくり池を1周して朝の光、森の空気を身体に取り込んでから、また小屋へと戻っていった。

天気に恵まれた2日目、池ハシゴツアーへと出発。「ちょっと気合い入れて走っちゃう?」

朝食を済ませたら、小屋をあとにして、この日ふたつ目の池へと向かう。次の雨池は畔が浜のようになっていて、水際まで近づくことができる。

白駒池の畔に広がるもののけの森。名前の通り物語のなかのような幻想的なコケワールドが辺り一面に広がる。ここを走って通りすぎるのはもったいない。

昨夜立ち寄った高見石小屋のスタッフの「白駒池もいいですが、静かな雨池の雰囲気はそれに勝るとも劣らないですよ」という言葉を思い出し、3人は期待に胸を膨らませながら針葉樹林の森を駆ける。

日が射す明るい森。ここを走らない理由がない。

 

1時間もしないうちに見えてきた大きな池。雨池だ。想像よりも大きな姿に驚きながらも、山田さんを先頭にどんどん池まで近づいていく。「わー、ぬかるみで足がハマる!」

水が引いて池の底の一部が現れた雨池を走る。気を抜くと足がズボッとはまるが、それはそれで楽しい。

つい最近まで水があったであろう地面は、まだ乾ききっておらず沼状態。足が深くはまらないように、のそのそと足を運びなら水際へと近づいていく。

森に囲まれた湿潤なイメージの白駒池とは違い、大きく空が開けた雨池は開放的な雰囲気。部分的に切り取れば、海辺のように見えなくもない。同じ北八ヶ岳の池なのに、場所が変わればその風景も一変するのがおもしろい。

この先の集落はどんなところか……。「とりあえず走って見に行って来ようか?」。

レイクランを十分に楽しんだら、次に向かうもまた池。双子池だ。緩やかなアップダウンが続く。時間の余裕があるから、別に急いで走る必要もない。

軽快に走る女子を追いかける男ふたり、という構図。

トレランというとガツガツ走るイメージがあるかもしれないが、実際はそんなこともなく、話しながら歩いたり、立ち止まったり、走ったり、そのときの気分で目まぐるしく行動が変わる。

行動食を分け合いっこ。河野さんが地元スーパーで買ったドライショウガが大好評。

基本的には登山とあまり変わりないが、ただ1点、〝走ったら気持ち良さそう〞という場所に出くわしたら、みんな勝手に走り出すということだけは、明らかに違うポイントかもしれない。

雨池から1時間ほどで左手に池がふたつ見えてきた。双子池に到着。「わー、きれい‼」

双子池の雌池。水際までテントサイトが広がっている。青く澄んだその美しさは、人を癒やすどころかダメにしてしまいそうなほどの破壊力。

水の透明度でいえば、この双子池は今日一番かもしれない。池の手前でバックパックを下ろし、まずは左にある雄池へ。こちらはそのまま飲めるほどの水質が自慢の池。好奇心旺盛な山田さんがさっそく両手ですくって口元へ。「意外とうまいね!」

双子池の雄池の水は、水質検査も毎年されているだけあって安心して飲める。

次は雌池。こちらは池の周りがテント場になっており、この日も、畔にテントが2張りあった。「おー、あのテント場、最高だね。あそこにテント張って、1日読書とかできたらな……」と、笑顔で、でも仕事の関係でなかなか実現しそうにない諦めも入った顔つきで山田さんがつぶやく。

男ふたりの「積んじゃう?」のフリに応え、ケルンに石を積み上げる。でも岡本さんにとっては、これだって貴重な山体験。

すると、「琢ちゃん、今度絶対来ようよ!」と、不可能を可能にする勢いで河野さんがすかさず切り返す。やっぱり友達って大事だ。

双子池からは笹の濃い道を進む。「みんな道はこっちだぞ~」。

緩やかに傾斜した森をしばらく歩く。30分ほどで360度視界が開けた双子山山頂へ。ここは、今回唯一のピークだ。右手には蓼科山、左手に大岳、その間には中央アルプスも見える。

二子山山頂付近を駆ける。このまま下山口までは、ずっと下り基調というごほうびが待ち受ける。

景色を味わいながら十分に休憩したあと、大河原峠まで下り、最後はひたすら笹の道を軽快にウイニングランしながら登山口へと到着。

今回唯一のピークである双子山で展望を味わう男ふたり。

「山田さん、この2日間で雰囲気の違う池を3つもめぐって、気持ちよく走れて、小屋でもいろいろ話が聞けて、今回は本当に楽しかったです。このコース、ランナー的にも女子的にもすごくヒットしましたよ。山田さん、さすがっす‼」「琢ちゃん、さすがっす‼」

大河原峠まではクルマで入ることができ、もちろん駐車場もある。ここを起点にルートを考えるのもおもしろそう。

ダラダラとキビキビ。ランならメリハリがあるから飽きないし、山で泊まるからこそ味わえる濃密な時間がそこに待ち受けている。走れて、泊まれる小屋泊ランって最強かも⁉ それに加えてトリップをいっしょに楽しめる仲間もいれば、その時間はもっともっとかけがえのないものに変わるはずだ。

大河原峠からは開けた笹の道が続く。まさにランナーズパラダイス。気がつくと先頭の山田さんが遠くに……。気持ち良すぎて自然にスピードが上がっちゃった?

コラム 山小屋泊の注意ポイント

ポイント1 事前に予約しておく

混雑状況の把握、食事の準備などをする都合があるので、山小屋といえども基本的には予約が必要。小屋のHPなどから予約できるところが多いが、宿泊予定日が近い場合は電話で確認するほうが確実。その際は登山道の状況、注意点なども合わせて聞いておこう。

ポイント2 早めの到着を心掛ける

多くの山小屋は少人数で営業している。到着が遅れると夕飯の準備などに影響が出てくるだけでなく、「道に迷ったのかも? 事故に遭ったのかも?」と、心配を掛けてしまうことも。また、夏は午後に天気が変わりやすいこともあり、小屋へは早めの到着が基本だ。

ポイント3 消灯時間に注意

多くの山小屋は自家発電で電気をまかなっていることもあり、消灯時間が決められている。ライトを頼りについつい夜遅くまで仲間と宴会したくなるが、就寝時間はもちろん、その前から寝始めるお客さんもいるので、迷惑にならないよう静かにすごすそう。

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フィールドライフ 編集部

フィールドライフ 編集部

2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。

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