石垣島・リーフサイドフィッシング”歩いて、漕いで、釣る”
フィールドライフ 編集部
- 2021年04月26日
石垣島北部でリーフサイドフィッシング
サンゴ礁に囲まれた石垣島では、リーフの内と外にロウニンアジやオニヒラアジをはじめ、根魚のハタ類やフエフキダイなど、さまざまな釣りの好敵魚が集まっている。そこでフライロッドを片手に、名蔵川河口の遠浅の海でサイトフィッシングをし、石垣島北部のキャンプ場を拠点にシットオンカヤックを使い広大なリーフを相手にルアーフィッシングを試みた。
取材・文◎遠藤 昇 Text by Noboru Endo
撮影◎魚月草希、能丸健太郎 Photographs by Souki Uotsuki、Kentaro Normal
出典◎フィールドライフ No.62 2018 冬号
全身センサーと化し魚影を探る醍醐味
石垣島南部にある離島ターミナルや繁華街から、車でおよそ20分北に走ると、両岸をマングローブ林帯に挟まれた、壮大な干潟河口が広がっている。その一帯は〝名蔵アンパル〞と呼ばれ、沖縄県最高峰の於茂登岳(おもとだけ)を水源とする名蔵川の河口だ。
河口周辺は砂州で囲まれた干潟をマングローブ林が取り囲む、面積1・57㎢ほどの亜熱帯マングローブ湿地である。アンパルは「網張」と漢字表記され、「網を張って漁をする」など、さまざまな名前の由来があるそうだ。その名称どおり、干潮時には広大なマングローブ干潟が出現し、石垣島の人々にとって、昔から魚や海藻、貝などの食料採取の場として盛んに利用されてきたという。
今回はその名蔵アンパルから広がる名蔵湾奥の遠浅の海で、ソルトウォーター・フライフィッシングを行ない、石垣島北部沿岸でカヤック&ルアーのリーフフィッシングを試みた。
名蔵川河口に架かる名蔵大橋のたもとにある駐車場に車を停めたのは、午前9時半だった。この日の干潮は10時59分だが、橋の上から望む名蔵川上流部の流れはすでに大きく後退し、褐色の砂州が広がっていた。
風は沖へのキャスティングには都合の良い、北東からの微風。その好条件に気を良くしてロッドを片手に湾奥の海に足を踏み入れたのは、10時をすぎたころだった。まずは名蔵大橋下の深場を狙うが反応はなく、名蔵湾に足を踏み入れると、沖へ進むほど水深は浅くなり、フラッツと呼ばれる膝上程度の遠浅の海となる。
海底には、ところどころにホールのようなえぐれた箇所があり、見た目にもやや黒ずんだ海色だ。
釣り始めは海の色に目が慣れないため魚を見つけることができず、そうしたフラッツの深場を中心に、クレイジーチャーリーと呼ばれるエビ・カニを模したフライをブラインドで沈めた。
タックルは6番のフライロッドに海用7番のフローティングライン。フライラインの先は、14フィートの1X(2・5号=約12 ポンド)リーダーを結び、ティペット(ハリス)なしでフライと直結している。
水深が浅くフライの重みで根掛かりが多いようななら、リーダーを短くし、逆に水深のある場所では、フライを沈めるためにティペットを延長するという、いたってシンプルな仕組みだ。
海底のホールの際やサンゴ岩礁や藻場など、黒ずんだ場所があれば、必ずその周辺を探り、反応がなければさらに先へ進む。魚を見つけることに全神経を注ぎ、なにしろ沖へ、沖へと歩き続けるハンティングのような釣りだ。
そして、小魚が追われ群れで跳ねているような場面に遭遇したときは、最大の好機となる。その周囲には必ず、魚食性の魚が潜んでいるからだ。
最初の1匹目は、そうした小魚の群れの真ん中にフライをキャストしたとたん、刺身包丁のような30㎝ほどのサヨリが掛かってきた。
しかし、ここでの目標とした魚はガーラ。石垣島では、ロウニンアジ、カスミアジ、オニヒラアジの3種類の魚すべてをガーラと呼んでおり、そのなかで一番狙いやすい魚はオニヒラアジだ。
オニヒラアジは遠浅の海や満潮時にはカニやエビ、小魚を求めてマングローブ林にも入ってくるため、フライやルアーでの好適魚となる。
そのオニヒラアジと遭遇したのは、フラッツを釣り始めて1時間後。干潮の潮止まりから満ち始めたころだった。海岸線から300mほど沖でひと休みしていると、右目の端で黒い影が動いたような気配があった。
そっと首を回し、視線を右肩の延長線上の手前海面から徐々に遠くを凝視すると、距離にして15mほど先の岩陰から2匹のつがいの魚が頭を下にして、砂地をあさってゆっくりと進んでいた。
魚に気づかれないように腰を下げ、リールからラインを出す。都合の良いことに風は追い風だ。はやる気持ちを抑え、魚影の進行方向の5mほど先に狙いを定めて1回のホールキャストで珍しく距離もドンピシャでフライが着水した。
魚はこちらの動きに気づかず、相変わらず砂地をあさりながらフライが着底した方向へ進んでいる。ふたつの魚影とフライの距離が2mほどに迫るのを待って、小刻みにリトリーブを入れた瞬間だった。
2匹の魚影が競うように砂煙を上げ、1匹がフライをひったくるように咥えるのが見えた。すかさず軽く合わせを入れると、ドラグを緩めにしていたリールから一気にラインが出ていく。
魚の勢いが弱まるのを待って、左手でラインを引っ張ると、今度は腕をひったくられるような衝撃を受け、危うく転びそうになるほどだった。なんとかリールとのやり取りに持ち込み、釣り上げてみれば40㎝弱のオニヒラアジの幼魚。
幼魚とはいえ、ガーラ系の魚の瞬間的なパワーは恐るべきものがあると実感した。
「今日の風は北寄りなので、最初は少し向かい風ですが、北側のリーフ際の周辺で上り下りしながら釣った方が、あとが楽ですね」と、石垣島でシーカヤック&フィッシングのガイドを務める赤木宏介さんは言う。
石垣島北部の海岸沿いにある、伊野田キャンプ場前のビーチに集まったのは、赤木さんを含めて総勢5名。伊野田ビーチ前の広いリーフの内と外を中心に、カヤックを使って海上を歩きながら釣る〝パドル・ウォーク・フィッシング〞を試みた。
ビーチから北東方向に20分ほど漕ぐと、それまで白砂だった海底に、小さな珊瑚の群落が目立つようになる。さらにリーフエッジに近づくと、珊瑚の群落は発達し、海面に面状に浅く広がるように隆起している。
その変化に気づいた参加者たちは、自分の思い描くイメージをルアーに乗せ、次々にキャストをしはじめる。リーフエッジを超えて、外海からリーフの際を狙うカヤック経験の豊富な釣り人、あるいはうねりのない安全な場所から、陸地側に深く切れ込んでいるリーフの切れ目にルアーを沈ませる初心者など、釣り方はさまざまだ。
この日は、潮止まり寸前に赤木さんがリーフの内側で1m近い大型のキツネフエフキを釣り上げ、大型のガーラこそ出なかったが、現地名でミーバイと呼ばれるヤイトハタやアカジンと呼ばれるスジアラ、そして釣り上げると口が引っ張られホースのように伸びるギチベラなど。
石垣島のシーカヤックフィッシングは、25~30gのスプーンがひとつあればさまざまな南国の魚と対面できる、石垣島の自然の豊かさと多様性を物語るような釣りだ。
名蔵湾の遠浅の海での全神経を集中したサイトフィッシング釣り、そして伊野田ビーチでの、なにが釣れるかわからない楽しいカヤック五目釣り。その両方の体験を通じて感じられるのは、石垣島の釣りの無限の広がりと可能性だ。
しかもアフターフィッシングに南の空の下、ビーチですごす心地よさは、そうそうないだろう。
「一日幸せになりたければ酒を飲みなさい。三日幸せになりたければ結婚しなさい。七日幸せになりたければ豚を殺して食べなさい。一生幸せになりたければ釣りをおぼえなさい」
これは中国の古い諺だが、まさに石垣島のためにあるのではないだろうかと思えた。
遠藤 昇(えんどう・のぼる)
編集者。ダンス・オン・ザ・グラウンド代表。1961年横浜生まれ。『アウトドア・イクイップメントマガジン』(ネコパブリッシング)創刊編集長。ネイチャー・クォリティーマガジン『SOLA(ソラ)』(日刊スポーツ出版)創刊編集長。環境雑誌『ソトコト』(木楽舎)副編集長などを経て、現在『Fishing Cafe』(木楽舎) 編集統括などを努める。沖縄本島で釣ったイソフエフキが2012年4月4日付けで、『JGFA』クラス別世界記録に認定された。
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取材・文◎遠藤 昇 Text by Noboru Endo
撮影◎魚月草希、能丸健太郎 Photographs by Souki Uotsuki、Kentaro Normal
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PROFILE
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2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。
2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。