【ジャパントレイルをゆく】潮のかおりに誘われて。 三陸海岸線をたどる旅
フィールドライフ 編集部
- 2023年09月29日
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三陸をつないだ全長1,025㎞に及ぶ「みちのく潮風トレイル」。
“北限の海女”に出逢いに、北三陸エリアを1泊2日でセクションハイクする旅へ出かけた。
編集◉PEAKS編集部
文◉阿部 静
写真◉宇佐美博之
【Trail Road みちのく潮風トレイル】三陸の暮らしと自然文化を訪ねる旅路
福島県相馬市から青森県八戸市までの太平洋沿岸をつないだ全長1,025㎞に及ぶロングトレイル。今回はトレイルの1区間である岩手県の普代駅からスタートし、小袖海女センターまでをつないで歩いた。2 日目は5 時間以上の峠越えもあり、エスケープルートもないのでかなりハードだ。
三陸海岸の景色と海の幸、〝北限の海女〞に出逢う旅へ
〝三陸〞とは、青森県・岩手県・宮城県にまたがる三陸海岸と、その内陸山地を指す地名だ。三陸海岸では古くから漁業が栄え、沖合は世界三大漁場のひとつに数えられるほど海産物に恵まれた海だ。今回歩いた岩手県普代村〜久慈市は北三陸と呼ばれる地域で、この地域に伝わる伝統の海女漁があり、〝北限の海女〞と呼ばれる彼女たちは、いまも久慈の海で活躍しているという。魚突きを趣味とする私にとって、漁師として海に潜り続ける海女さんたちは気になる存在だ。彼女たちに出逢うことを旅のゴールとし、1泊2日のみちのく潮風トレイル・セクションハイクの旅へと出かけた。
八戸で前泊し、三陸鉄道普代駅で下車。ここから旅が始まるが、トレイルに入る前にまずキャンプの買い出し。せっかくなら地元の海産物を手に入れたいと思い、駅から徒歩10分ほどの嵯峨商店に向かう。店に並ぶ鮮魚はどれも安くておいしそう。だがしかし、外気温は35℃、歩くみちのりはまだまだ長い。保冷バッグを持ってきたが、果たして鮮魚を持ち歩けるか。
お店のおかあさんに相談し、考えた末、おいしそうなカレイとスルメイカを下処理してもらい、塩を振って持ち歩くことにした。保冷剤代わりにもなる剥きたての冷凍ホヤも併せて購入。イカの半身は刺身にしてもらい、その場でいただく。白飯と煮物もごちそうになり、しっかり腹ごしらえ。ぜいたくな朝食だ。トレイルに入る前にして〝トレイルエンジェル〞に出逢ってしまうなんて。三陸のおかあさんのあったかさに支えられながら旅は始まった。
【information】マルサ嵯峨商店
- 〒028-8335 岩手県下閉伊郡普代村13-142-7
- TEL.0194-35-3321
- 営業時間:8:00 ~ 19:00
- 定休日:無休
三陸海岸の海の幸をバックパックに詰め込んで。
もうひとつ、旅のはじまりに見ておきたいものがあった。「奇跡の水門」と呼ばれる普代水門だ。明治29年に起きた15・2mの津波を教訓に15・5mの高さでつくられた水門は、東日本大震災の津波による浸水を最少限に食い止め、村内の死者を出さずに済んだのだ。実際に訪れてみると、水門の巨大さと海までの距離があまりにも遠いことにおどろき、津波の規模の大きさを想像せずにはいられない。この地の象徴的建造物を目に焼き付け、看板を目印に草いきれのするトレイルへと潜り込む。
木漏れ日が射し込む静かな森を歩く。夏場は歩かれていないのか、草が勢いよく茂っている。途中で沢に下り、ざぶざぶと渡渉し水を被る。陽は当たらないが標高が低くて暑いので沢歩きが心地いい。1時間ほどで沢を抜け、
道路に戻り、海岸線歩きがはじまる。漁港や潜ったら気持ちよさそうな海を横目にトレイルを堪能する。
道中に昔ながらの製法で塩をつくっている「のだ塩工房」があるので訪ねてみた。工房のある野田村では古くから海水から塩がつくられていて、牛の背に乗せて内陸へ運び穀物と交換していたそう。その当時から受け継がれてきたのが「直煮製法」という海水を窯で炊いて結晶化させるつくり方で、100%海水の自然海水塩ができあがる。職人さんがじっくり5日間、手塩にかけてつくった塩をペロリと味見してみると、角がなく、まろやかな甘みが感じられる優しい味わい。汗をたっぷりかいた身体に染みわたる。
【information】のだ塩工房
- 〒028-8202 岩手県九戸郡野田村玉川2-62-1
- TEL.0194-78-2225(国民宿舎えぼし荘)
- 見学可能時間:10:00 ~ 15:00
- 定休日:土日
のだ塩工房からさらに40分ほど歩き、1日目のゴールである玉川野営場に到着。芝生が広がる気持ちのいいサイトには水場やテーブルが設置され、使い勝手もいい。出発前に購入した冷凍ホヤはまだ凍っていて、鮮魚の状態も問題なさそうだ。この地で獲れた最高の食材は素材の味が活きるシンプルな料理がいちばんだ。生ホヤの刺身とカレイの塩焼き、そしてスルメイカのパスタ。三陸の旅でこそ味わえる、ぜいたくな晩餐に、1日中歩いた疲れも癒された。
翌日の行程はかなり長いので早朝には撤収し、早々から歩きはじめる。道の駅「のだ」が開くより少し早めに到着し、そこでこの日の行動食を調達。あんこや味噌が包まれた、地元特産の変わったお餅がいくつかあったので、試しに行動食としてチョイス。
海辺のごほうびトレイルと地元のおかあさんに癒されて。
道の駅からしばらくは海岸線の道路歩き、その後は海辺に降り立った。波を足に被りながら歩くトレイルは最高に気持ちがいい。ざぶざぶと足を濡らしながら、ときには上半身まで濡らすほどの高波も被るが、それがこのトレイルの醍醐味だと思う。躊躇せず積極的に濡れるぐらいがちょうどいい。海辺の〝ごほうびトレイル〞を存分に楽しんだ。
海沿いのトレイルを抜け、道路に戻り、漁港を通る。海を眺めながら少し休憩していると、通りすがりの郵便配達のおじさんが冷たい缶コーヒーを差し入れてくれた。さらにその先、漁港の管理施設のような小さな小屋で井戸端会議する婦人会のおかあさんたちに声をかけられ、凍った水のペットボトルと南部せんべいの差し入れ。
「暑いでしょうに、この先の峠越えは大変だけどがんばってね」
思いがけない差し入れが本当にうれしかった。見ず知らずの通りすがりのハイカーに声をかけてくれて応援してくれ、差し入れまで。地元の人たちのあったかさに触れるたび、この地がもっと好きになる。自然のなかを歩くだけがロングトレイルじゃない。地元の人との出会いこそ、ロングトレイルの魅力なのかもしれない。
おかあさんたちに別れを告げて三崎に入る。ここからは長い長い峠道だ。ときおり海が覗くが、基本はずっと山道。最初は歩きやすくて気持ちのいい登山道が続いていたが、2時間も歩き続けると倒木や藪、ザレた箇所も出てきて、歩くのが困難になってくる。山道に慣れていない人はかなりハードな行程だろう。おまけにエスケープルートもないので、なんとしてでも歩ききらなければならない。なので体力のない人や山道を歩きなれていない人にはおすすめできない。しかも前半2時間は水場もないし急登も多いので水が枯れる。おかあさんたちに差し入れてもらった氷水に救われた。
5時間ほど歩いただろうか。やっとのことで峠道から抜け出せれば、ゴールはあと少し。目の前に見える海に向かって坂道を一気に下る。数時間ぶりに嗅ぐ漁港のかおりを鼻いっぱいに吸い込みながら、西日が差す特徴的な建物に向かって最後の一歩まで歩ききる。
最終目的地、小袖海女センターには海女の元気なおかあさんたちが待っていた。一見ふつうのおかあさんたちに見えるが、冷たい三陸の海のなかを10m以上も潜り、1回の潜水で10個ほどのウニを採ってくるというのだからおどろきだ。
明るくて逞しく、かわいらしい、三陸を支えるおかあさんたち。私もまた彼女たちに支えられながらもこのトレイルの魅力を十二分に楽しんだ。またいつか歩こう、このあったかい景色に出逢いに。
【information】小袖海女センター
- 〒028-8111 岩手県久慈市宇部町24-110-2
- TEL.0194-54-2261
- 営業時間:9:00 ~ 17:00
- 休館日:12月29日~ 1月3日※天候により休館になる場合あり
profile/阿部静
編集者・ライター。特技は魚突きで狩猟採集にまつわる取材がライフワーク。兄弟誌『PEAKS』にて「狩猟採集食道楽あべちゃん」を連載中。暇さえあれば山か海で年中遊んでいる。
企画協力◉日本ロングトレイル協会
TEL.0267-24-0811
https://longtrail.jp/
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編集◉PEAKS編集部
文◉阿部 静 Text by Shizuka Abe
写真◉宇佐美博之 Photo by Hiroyuki Usami
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PROFILE
フィールドライフ 編集部
2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。
2003年創刊のアウトドアフリーマガジン。アウトドアアクティビティを始めたいと思っている初心者層から、その魅力を知り尽くしたコア層まで、 あらゆるフィールドでの遊び方を紹介。