iPad Proを大量導入した地方銀行、大幅に顧客満足度と従業員の働きやすさを改善する

銀行……といえば、お堅いイメージがあると思う。

口座を開いたり、融資を受けたりするのに、たくさんの書類を書いて、印鑑を押して……煩雑な手続きが多く、ITの導入による利便性の向上がなかなか進んでいない印象がある。

ことに地方銀行となると、地元企業や高齢化の進む顧客への営業が中心ということで、先進的なテクノロジーの導入が進みにくいようだ。しかし、かならずしもすべての地方銀行がそういう状態にあるわけではない。

むしろ、そういう状況だからこそ、テクノロジーの導入が大きな効果を発揮することがある。

iPad ProとMDMで、訪問先でも安全に顧客情報を扱える

栃木銀行は栃木県宇都宮市に本店を置く第二地方銀行。栃木県を中心に、92店舗で1629人(2018年6月末現在)の行員を擁する。

その栃木銀行が、2017年10月にiPadを大量導入。顧客満足度と行員の働きやすさ向上に着実な効果を挙げていると聞いて、取材にうかがった。

「大切なお客様の個人情報管理を厳密に行わなければならないので、お客様の金融資産などの関する書類は銀行から持ち出せません。iPadが導入されるまでは、必要な情報のすべてを頭に入れていかなければなりませんでした。また契約の書類なども厳密なので、ひとつ記入漏れがあっただけで、お客様の元にもう一度訪問せねばなりませんでした」と語るのは、ファイナンシャル・サポーターの遠藤千智さん。担当エリアの個人のお宅に行って、資産運用などについて相談に乗り、プランを提案するのが仕事だ。

地方都市なので、訪問すべき家々は離れていて、クルマで1日に数軒を訪問するような営業スタイルだという。ただ訪問するだけでなく、そのご家族の現在の資産状態や資産運用の方向性をとりまとめ、個々に応じたプランを提案しなければならないので、事前、事後の仕事も多い。

「iPadが導入されてからは、安全に資料を持ち出せるようになりました。しっかりした資料に基づいて、わかりやすくプランを提案できるようになった効果はとても大きいと思います。契約書もiPadのドキュメントとして用意されており、確認していただいてApple Pencilでサインをいただけば、記入洩れなども発生しないようになっています。とても便利になりました」と言う。

743台のiPad Proと、CRMサービスの導入

約2年前に、最初に導入されたのは約500台。Apple Pencilでの契約書へのサインが前提だったので、当時Apple Pencilを使えたiPad Pro 10.5インチが採用された。現在は必要に応じて端末を増やし合計743台が使用されている。

実はiPad導入以前にArrowsのAndroidタブレットが導入されていたことがあったが、セキュリティ上の都合から、カタログなどの個人情報を含まないPDF資料を持ち歩くに留まっていた。

iPadの導入に際して採用されたのはインテックのクラウド型CRMサービス。CRMとは『カスタマー・リレーション・マネージメント』の略で、顧客情報を一元管理できるシステムだ。

ちなみに、こういう企業の大量導入の場合、iPadはMDMという仕組みを使って端末を管理することができるようになっている。個別にApple IDなどを入力する必要がなく、アプリのインストール、アップデートなども管理者側で集中的にリモートで管理できる。

セキュリティも万全で、CRMアプリなどの場合は顧客情報などは端末内に保存せず逐一通信して安全を確保して表示するようになっている。万が一端末を紛失したとしても、個人情報は端末内に保存されていないし、すべてのデータをリモートで消去することができる。

iPadといえば、一般的にはパーソナルなデバイスのように思えるかもしれないが、MDMを組み合わせるだけで、個人情報を扱う企業でも安心して使える情報管理が可能な企業向けデバイスに変貌する。

ちなみに、これらiPadはdocomoのLTE回線で接続されており、セキュリティ上の確保のためにWi-Fiを利用することはないという。

CRMアプリでは、申し込み受付、適合性管理、契約販売まで行うことができる。交渉履歴も残せるし、日報管理も可能だ。商流も確認できて、どういう解決ができるか、タイムリーに確認できる。

「お客様のところから退出して、お話の履歴などを営業車の中などですぐに取りまとめたりします。以前だと、帰社してから記録をまとめるための書類仕事がかなりあったのですが、今はiPadで現場で書き留めることができます。日報もその流れの中で書けるので、そのためだけに銀行に戻ったりする必要がありません」と遠藤さん。

日報も、以前は個々の記録でしかなかったが、関係部署で共有し、互いにアドバイスをやりとりすることも可能になった。

iPadの導入により、同行のファイナンシャル・サポーター(個人渉外)180人で、年間2万1000時間の効率化が可能になったという。

高齢の顧客が、手書きのサインに感動してくれる

従来は、感圧式契約書を何枚も書かねばならず、書類ごとに氏名、住所などを顧客に書いてもらう必要があったが、電子的な契約になってそれも不要になった。特に高齢者の場合筆圧が弱く、感圧紙で字が残りにくいのも困る点だったという。

「感圧センサーがあって、筆跡に強弱が残るApple Pencilだと高齢者の方でも普通に扱えますし『きれに書けるものねぇ』と驚いていただけます」と遠藤さん。

感圧データも含め、電子的にサインすることによって、個人を明確に判断できるという。サインによる認証はスカイコムのSkyPDFを利用している。

銀行の渉外業務だと、顧客の資産状況を知り、信頼歓喜絵を構築するために、こまめに付き合いを重ねる必要があり、行員ごとにやりとりの差が出やすく、担当が変わった場合の引き継ぎなども難しかった。しかし、iPadを導入してから情報引き継ぎも容易になり、顧客ごとのサービスの平準化にも約に立っているという。

事業性融資を行う際にも、仕入れ先、販売先などについて帝国データバンクのデータを引き出しマッチングすることが可能。顧客の、不動産を買いたい、取引先を探している、従業員を募集しているなどの情報もCRM内で共有し、全行体制で対応が可能になっている。ファンドを数種類チョイスして、その値動きの様子を一覧として表示することもできる。

また、カタログも30種類以上あり、従来はそれぞれ事前に用意してプリントアウトしていたが、iPadの導入により、必要に応じていつでもどれでも表示できるようになり、紙と時間を大きく節約できるようになったという。

また、行員の研修用の動画も役に立つという。これまで個々に留まっていたノウハウを共有し、隙間時間に先輩行員のノウハウを吸収できるようになった。

現在のところ、メリットは非常に大きいとのこと。調査した顧客満足度は大幅に向上しており、行員も働きやすくなっている。

導入の成功の理由としては、iPadのそもそものポテンシャルと、MDMという管理のフレームワーク、そして上手く作られたCRMアプリと、その上手な導入が挙げられるだろう。

同行では、今後もより多くの業務にiPadを活用していきたいとのことである。

(村上タクタ)

 

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PROFILE

村上 タクタ

flick!編集長

村上 タクタ

デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。

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