
カモシカスポーツ松本店にてイタリア・オルコ溪谷やシャモニをテーマにした個展「The Hidden Valley」開催|筆とまなざし#416

成瀬洋平
- 2025年04月02日
クライミングに来たのでなければ見すごしてしまいそうな、アルプスの隅っこに隠された宝石のような風景を描く
5月24日から6月8日までの約3週間、松本のカモシカスポーツで展覧会を行うことになった。ここ数年通っているイタリア・オルコ渓谷や、昨年訪れたシャモニで描いた絵を展示する。水彩画だけでなく、アクリルやほかのマテリアルを使ったものも飾りたいと思っていて、どのような展示にしようかと妄想を膨らませている最中である。絵の合間に文章を配置し、読み物としても楽しめる展示にしたい。
いま描いているのは、シャモニの街外れから見たエギーユ・ベルトとドリュである。モンブラン山群のなかでも一際異彩を放つ針峰、ドリュ。北壁は夏でも雪を抱き、標高差は800mを超える。そんな威圧的な山岳地帯と山麓の牧歌的な風景との調和が、まさにヨーロッパアルプスらしい。ひょんなことから、ヨーロッパ最難のワイドクラック「Thai Boxing」をトライしに行ったとき、拠点となる小さな村で出逢った風景である。
この絵は、全紙サイズという普段描くよりずいぶんと大きな画用紙に描いている。横幅は1,000mmを少し超え、机では描けないのでカラーコンパネを画板がわりにした。昨年末から気が向いた時に少しずつ制作していて、ようやく描き終わったところだ。通常は短期間で描くので、これほど長い期間描き続けたのは自分にとっては珍しい。時間に制約があるわけではない。この風景に出逢ったとき、時間を気にせず大きな画用紙にじっくりと時間をかけて描きたいと思ったのだった。締め切りがないので何ヶ月もかかったというのが本当のところなのかも知れないけれど。
さて、今回の展覧会のメインにしたい絵は、じつはまだ描けていない。それはオルコ渓谷を遡り、標高2,000mほどの高山帯に広がっていた風景である。草原のなかにぽつんと転がる高さ20mほどの岩を登りに行ったときに出逢った。シャモニとは対極的な、人知れずひっそりと広がる静かな谷間。その岩にクライミングに来たのでなければ見すごしてしまうであろうその風景は、アルプスの端っこに隠された宝石のような風景だった。そんな印象から、今回の展覧会のタイトルを「The Hidden Valley」としようと思う。
残りの時間はあと二ヶ月。じっくりとその一枚を描いていきたい。
著者:ライター・絵描き・クライマー/成瀬洋平
1982年岐阜県生まれ、在住。 山やクライミングでのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作したアトリエ小屋で制作に取り組みながら、地元の岩場に通い、各地へクライミングトリップに出かけるのが楽しみ。日本山岳ガイド協会認定フリークライミングインストラクターでもあり、クライミング講習会も行なっている。
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