
ぽっかりと予定が空いた休日、ひさしぶりに近くの岩場でボルダリング|筆とまなざし#411

成瀬洋平
- 2025年02月26日
ひとりで岩と向き合い、自然の息吹を肌で感じる時間。
ぽっかり予定が空いた三連休の最終日、ひさしぶりに近くの岩場にボルダリングに出かけた。この冬最後の寒波だろう。日が陰って風が吹くと身震いする寒さだが、麗かな日差しにはすっかり春の明るさが感じられる。
この岩場にはハサマリングのルーフクラックの課題があって、以前登ったことがある。ハサマリングとはボルダーとボルダーの間にできた隙間をクラックと見立てて登るもので、かのレジェンドクライマーが名付け親だ。そのルーフクラックは抜け口にあるホールドやスタンスを使って登るのは一般的だが、それらを使わずにクラックだけで登るバリエーションもあって、まだトライしたことがなかったのでやってみることにした。
しばらくムーブを試行錯誤し、疲れたのでクラッシュパッドの上に仰向けになって青空を見上げる。冬枯れの細い枝が澄んだ空へ向かって伸びている。近くで小鳥たちの囀りが聞こえる。束の間の穏やかな時間。ひとりで岩と向き合いながら、その合間に自然の息吹を肌で感じる。これもまた、ボルダリングの大きな魅力なのだと思う。1年前にケガした右足首も少し痛いながらなんとか強度の高いスタックに耐えてくれているし、10月に痛めた左肩も案外大丈夫だ(この数週間毎日貼り薬を貼っているおかげか)。
どのように自然と折り合いをつけるか。
フリークライミングとは、人と自然との折り合いの付け方なのだと思う。どこにその折り合い点を持ってくるのか。たとえば、8mの岩があったとする。ボルトを打つのか、手を加えずにボルダリングで登るのか。ボルダリングで登る場合はロープを使って掃除をするのか地面から取り組むのか。答えはない。結局のところ、その折り合い点をどこに持ってくるのかを自分自身で模索し、導き出していく。その行為がフリークライミングなのではないかと思う。その折り合い点は、できるだけ自然に近い側のほうがいい。クライミングは自己満足である。けれども、そこに含まれるエッセンスを考え、実践し、共有することは、決して自己満足にとどまらない。そしてそれをほかのものごとと結びつけ、生き方のなかに活かしていくことができたらどんなにすばらしいだろう。
ずいぶんと風が冷たくなってきた。結局、その課題を登ることはできなかったが、クタクタになるまで登った充実感で身も心も満たされていた。
著者:ライター・絵描き・クライマー/成瀬洋平
1982年岐阜県生まれ、在住。 山やクライミングでのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作したアトリエ小屋で制作に取り組みながら、地元の岩場に通い、各地へクライミングトリップに出かけるのが楽しみ。日本山岳ガイド協会認定フリークライミングインストラクターでもあり、クライミング講習会も行なっている。
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