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深田久弥の“心に印され”た天城山。下山後は伊豆北川温泉へ|山本晃市の温泉をめぐる日帰り山行記 Vol.13

伊豆の山塊と大海原に酔いしれる。天城山と黒岩根風呂

温泉大国ニッポン、名岳峰の周辺に名湯あり!下山後に直行したい“山直温泉”を紹介している小誌の連載、「下山後は湯ったりと」。
『PEAKS 2025年8月号(No.173)』では、日本百名山の一座・天城山に登り、下山後の“山直温泉”には伊豆北川温泉「黒根岩風呂」を楽しみました。

“山直温泉”の記事・情報は
『PEAKS 2025年8月号(No.173)』の
「下山後は湯ったりと」にて!

編集◉PEAKS編集部
文・写真◉山本晃市(DO Mt.BOOK)

「日本百名山」の一座、天城山の魅力

伊豆天城と聞いて思い浮かべるのは、どんなものだろう?川端康成の小説『伊豆の踊子』や石川さゆりの演歌「天城越え」などというと、昭和感満載か。食好きならば、極上のワサビやワサビ丼……。それはさておき、「天城山」と答える人はどれほどいるだろう。

そもそも天城山という単独の山はなく、伊豆半島中央部を東西に貫く山塊を総称して天城山、あるいは天城連山や天城山脈と呼ぶ。独立峰でもなく、独特な特徴のある山容でもないので、最高峰のピークを見分けることがなかなか難しい。
外見上はあまり目立たぬ山なのだが、深田久弥『日本百名山』の一座である。

はて、深田久弥は天城山のいったいどこに惹かれたのか。
『日本百名山』では「信州や甲州へばかり出かけて、伊豆は知らなかった。そんな旅行で暇と金を費すのは惜しかった。とは言え、天城という山は私の心に印されて、その名を聞くごとに、南国のあたたかそうな、詩と伝説の沁みこんだ山が想像された」と語っている。
それならば、実際に歩いて感じてみよう。そう思い立ち、天城山へと向かった。

▲万二郎岳を越えた鞍部から望む万三郎岳(左側のピーク)。穏やかな雰囲気漂う、優しい山容。

清々しい広葉樹の森をのんびり“山歩”

今回歩くのは、天城山の核心部をめぐる約8kmのコース。シャクナゲコースと呼ばれる周遊路で、万二郎岳(ばんじろうだけ/標高1,299m)と最高峰の万三郎岳(ばんざぶろうだけ/標高1,405m)を踏む。

江戸時代、天城山周辺は幕府の直轄地、天領として保護されていた。そのため、ブナをはじめとした広葉樹の明るい森が現在も広域に及んでいる。森林限界を越えることもないので、天城ならではの季節に応じた植生を楽しめる。

スタート地点は、ハイカー専用駐車場の目の前にある天城縦走路入口。緩やかな登山道をウォームアップがてら700mほど歩くと、万二郎岳登山口となる四辻に出る。ここから周回コース。反時計回りに歩き始め、まずは万二郎岳をめざす。

▲普通車なら90台ほど駐車できるハイカー専用の無料駐車場。トイレもある。
▲登山口となる天城縦走路入口。駐車場から一般道を挟んですぐそば。
▲四辻からしばらく歩くと、森の番人のようなヒメシャラが登山者をお出迎え。この先、随所でお目見えする。
▲周回コースの起点、四辻。道標、地図、ベンチがある。念のため、現在地を地図で確認。

周回コースへ入ると緩やかな登り基調の道がしばらく続く。苔むした清楚な沢がトレイルに付かず離れず流れている。マイナスイオンに癒され、のんびりと歩く。地図アプリ「YAMAP」が提唱する、まさに“山歩(さんぽ)”区間。
一方、踏み跡が鮮明ではない場所や木段が崩れかかった場所がいくつかあるので、転倒や道迷いには注意したい。

▲万二郎岳の山腹から流れ始める沢に沿って歩く。何回か渡渉するので、増水時は要注意。ちなみにこの沢は管引川に合流し、最終的には江浦湾、駿河湾へと注ぎ込む。
▲左・中)天城山と書かれたイエローテープやピンクテープ、天城縦走路を示す青と黄色のオビを常にチェック。本コースは道迷いしやすいと思われる箇所が意外と多いので、ルートを外さないよう注意したい。右)コース上、木段が損壊している場所がいくつかある。

万二郎岳山頂へ近づくにつれ、次第に傾斜がきつくなってくる。途上、視界が開けた場所があり、晴れていれば額縁のような樹間の先にみごとな富士山を拝める。その後も急斜面は続くが、あとひと息で山頂だ。

万二郎岳のピークは南東方面が開けており、伊豆半島南部の山並みと太平洋の大海原が目の前に広がる。景観を愛でつつ行動食のナッツとチョコレートでエネルギーを充電し、最高峰へと向かう。

▲万二郎岳山頂への途上、わずかだが視界が開ける。富士山が見えればラッキー。
▲標高1,299m、万二郎岳山頂。開けたスペースがあり、眺望のきく休憩スポット。
▲万二郎岳山頂から眼下を見渡す。やや霞んではいるが、伊豆半島の山塊の先に太平洋。

可憐なものには毒がある?

万二郎岳から先は、穏やかな鞍部、馬の背を進む。小ピークをひとつ越え、しばらくするとトンネル状のアセビの群落が現れる。天城山、春のハイライトスポットだ。見上げると、そこかしこで小さな花房がまるで大家族のように密集している。ほのぼのとした容姿にとても癒されるのだが、アセビには毒がある。馬が食べると酔った状態のようになって苦しむことから、漢字で書くと「馬酔木」。可憐な容姿からはまったく想像できず、自然界の不思議を感じる。

この時季、アマギシャクナゲも山の随所をにぎわす。本エリア周辺のみに自生し、一般的なシャクナゲに比べ低木でやや小ぶりの麗しい花を咲かせる。見ごろは5月下旬から6月上旬にかけて。こちらはもちろん無毒なのだが、残念ながら山行当時はまだ開花していなかった。

▲万二郎岳と万三郎岳を結ぶ穏やかな区間、馬の背。とても歩きやすい。
▲華やかなアセビのトンネルを潜り抜ける。このトンネルだけでなく、随所でアセビを楽しめる。
▲アセビは、早春から花を咲かせるツツジ科の常緑低木。天城山での花期は3~5月にかけて。
▲アセビのトンネルを越えたあとも緩やかな鞍部がしばらく続き、“山歩”を満喫。

最高峰の万三郎岳、天狗さんの風が吹く

馬の背をさらに進み、石楠立(はなだて)を越えると、本コース最後の急斜面を登る。ここを踏ん張れば、伊豆半島最高標高地点、天城山最高峰の万三郎岳山頂だ。とはいえ、樹々に囲われ眺望はあまりきかない。少々残念だが、標高1,405mのベンチに腰掛け、頂上でお弁当をいただく。快晴無風、異常なし。とても心地よい。景観を愛でながらのランチとはいかないが、山でほおばるおにぎりはいつも格別だ。

▲石楠立。万三郎岳山頂まで、あと約0.9km。この先、小ピークを越え、最高峰へ。
▲万三郎岳山頂。新たな計測により、標高が1,406mから1,405.3mとなった。

おにぎりに加え、お新香を口に放り込むと、ふと天狗兄弟の伝説が頭をよぎる。万二郎坊、万三郎坊の兄弟が、それぞれ万二郎岳、万三郎岳に棲んでいたというお話。仲のよい兄弟が池で水浴びをする姿や、相撲をとっていたのを村人がよく見かけたという。
水浴びをしていたのは、万三郎岳と天城峠の間に位置する八丁池。相撲の土俵は、そこだけ木の生えていない平地、「天狗の土俵場」と呼ばれる万二郎岳の一角だとされている。

諸説あるが、この伝説が一風変わった山名の由来だという。
ところがこのお話、よく考えると不思議な点も多い。
二郎、三郎がいるなら、太郎は?

じつは三兄弟説もあり、長兄の万太郎坊は西伊豆の達磨山(だるまやま/標高982m)に棲むという。ただ、達磨山だけ少々離れた場所にあるうえ、標高の低い順に長男次男三男が棲んでいる。はて?
考えていると、爽やかな風が吹き「人間の浅はかなモノサシで考えるでない。自然界の尺度はそんなもんでは測れない……」そう教えてもらったような気がした。

トンネルを潜っただけだが「馬酔木」に酔ってしまったか……。ん?ひょっとしたら深田久弥先生も天狗の話を聞いて、天城山を「日本百名山」に……。
それはともかく、深田先生同様、「天城という山は私の心に印され」た。

さてさて、こんなことを考えていると日が暮れてしまう。下山して、山直温泉へ向かおう。今日の湯は、「アメリカを見ながら入ゐる野天風呂」。先人がそう評した太平洋を見渡す豪快な露天風呂だ。心に刻まれた天城山、天狗とアセビ、自然界の万物に感謝しつつ、歩を速めた。

▲涸沢分岐点。そのまま周回ルートを進む。万三郎岳からここまで下れば、残りの区間はトラバース道が続く。2万5000図で見るとさほどアップダウンがないように思えるが、実際にはそれなりにある(10mごとに描かれる主曲線2本の間を登山道が通っていても、最大10mのアップダウンがある)ので頭に入れておきたい。
▲ガレた岩場やルートを外れる方向への踏み跡がけっこうある。後半は道迷いにとくに注意したい。

山行&温泉data

コースデータ 天城山

コース:天城高原駐車場(ハイカー専用)~天城縦走路入口~四辻~万二郎岳~馬の背~石楠立~万三郎岳~万三郎岳下分岐~涸沢分岐点~四辻~天城縦走路入口~天城高原駐車場(ハイカー専用)
コースタイム:約4時間30分
標高:1,405m
距離:約8km

下山後のおすすめの温泉 静岡県/伊豆北川温泉「黒根岩風呂」

▲伊豆北川(ほっかわ)、郷土の宝「黒岩根風呂」。60年以上前の開湯以来、台風や高波の被害を幾度となく受けてきたが、地元の有志が湯守人として集結し、宝の湯をつねに守り続けている。
▲露天風呂の岩には、先人が書いたというこんな文字が。
大小ふたつのスペースに分けられた岩風呂(男湯)。天候に合わせ、湯守人の方々が湯温を日々調整している。ややぬるめの湯に浸かれば、太平洋の遥か彼方にアメリカが……?

●伊豆北川温泉「黒根岩風呂」
静岡県賀茂郡東伊豆町北川温泉
TEL.0557-23-3997(北川温泉旅館組合)
入浴時間:10:00~18:00(最終入場17:45)
営業期間: 年中無休(メンテナンス休業あり)
入浴料(日帰り):大人¥700/小人¥300
泉質:ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉(低張性・弱アルカリ性・髙温泉)
アクセス:天城縦走路入口(ハイカー専用駐車場)より車で約35分

“山直温泉”の記事・情報は
『PEAKS 2025年8月号(No.173)』の
「下山後は湯ったりと」にて!

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PROFILE

山本 晃市

PEAKS / 編集者・ライター

山本 晃市

山や自然、旅の専門出版社勤務、リバーガイド業などを経て、現在、フリーライター・エディター。アドベンチャースポーツやトレイルランニングに関わる雑誌・書籍に長らく関わってきたが、現在は一転。山頂をめざす“垂直志向”よりも、バスやロープウェイを使って標高を稼ぎ、山周辺の旅情も味わう“水平志向”の山行を楽しんでいる。頂上よりも超常現象(!?)、温泉&地元食酒に癒されるのんびり旅を好む。軽自動車にキャンプ道具を積み込み、高速道路を一切使わない日本全国“下道旅”を継続中。

山本 晃市の記事一覧

山や自然、旅の専門出版社勤務、リバーガイド業などを経て、現在、フリーライター・エディター。アドベンチャースポーツやトレイルランニングに関わる雑誌・書籍に長らく関わってきたが、現在は一転。山頂をめざす“垂直志向”よりも、バスやロープウェイを使って標高を稼ぎ、山周辺の旅情も味わう“水平志向”の山行を楽しんでいる。頂上よりも超常現象(!?)、温泉&地元食酒に癒されるのんびり旅を好む。軽自動車にキャンプ道具を積み込み、高速道路を一切使わない日本全国“下道旅”を継続中。

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