赤岳天望荘でカウントダウン!年またぎトレッキング
PEAKS 編集部
- 2019年11月20日
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山岳編集部らしく年を越したい。ならば高所を目指す!
紅白歌合戦、ゆく年くる年、初もうで、餅つき大会……。年越しと聞けば、やりたいことがたくさん思いつくが、年越し登山はどうだろう? 最高の幕開けのために、まずは高所を目指してみた。
メンバー
水野隆信さん(左)……山岳ガイド。小誌連載「RoadtoMatterhorn」で、編集部ミヤガミの監督を務める3枚目ガイド。ヨーロッパ仕込みの巧みな話術と技術で場を沸かせる。今年の年末年始も予約受付中!?
川手洋子さん(中)……今回のカウントダウンのヒロイン。なんと元富士山登山ガイドの経歴をもつ。そのときの経験からか、おじさんのあしらいはうまく、水野さんたちからのセクハラをものともしなかった。
糠田光海(右)……小誌編集部2年目のぺーぺーで、さらに雪山初心者。高所恐怖症のせいでへっぴり腰。水野さんにロープで引っ張られながら青空よりも洋子さんのお尻ばかり眺めていた不届者である。
今年の年末年始、僕に付き合ってくれませんか?
すこーんと晴れた青空、目の前には旅の目的地・赤岳が、振り返れば向こう側には北アルプスも一望できる。「今日、登ってよかったなぁ〜」。パーティ全員でため息をつく。本年の登山も今日で締めくくり、いつも以上に好天がうれしい。
「今年の年末年始、僕に付き合ってくれませんか?」
およそ初めましての人にお願いすることではないのだが、「山岳編集部らしく年を越したい」という僕の願いを聞いて、山岳ガイドの水野隆信さんは快く承諾してくれた。そこに今回のセクハラ担当兼カメラマンの杉村航さん、そしてモデルには川手洋子さんを加え、4人で新年を迎えることにした。
30日、一足先に美濃戸山荘に着いたという水野さんを追いかけて、川手さんと僕も山荘に向かうも一歩遅く、水野さんはデキ上がっていた……。「大丈夫、明日の仕事には問題ない!だから安心しろよ!……あれ、お前の名前なんだっけ?」
年甲斐もなくはしゃぐ男たちと天望荘を目指す
「おー、起きたかー!昨日はごめんね!で、なんて呼べばいいんだっけ?」。コーヒーを片手におちゃらける水野さん。昨晩僕に「ミッツ」と命名したことは、すっかり忘れているようす。
それにしても、水野さんはだれよりも早起きをしていたというから、山の人はすごい。朝食を食べ終わったころ、杉村さんが合流。準備を済ませたら、いざ出発!
「洋子ちゃんっていくつ?」「洋子ちゃんは普段どんな仕事をしてるの?」「洋子ちゃんはかわいいから、今度○○山に連れてってあげるよ♡」
水野さんも杉村さんも、僕のことはそっちのけで、川手さんと楽しそうに話している。きゃっきゃきゃっきゃ、いい大人が、これでもかと鼻の下を伸ばしている。そうかと思うと、今度は洋子さんの体力を心配するふりをして、ふたりとも紳士を演じている。
「……ミッツは気が向いたら連れてってやるよ」。会話に参加できない僕を見かねた水野さんの優しさが心にしみた。
行者小屋で休憩をとったぼくらは、地蔵尾根から赤岳に向かう。ハーネスとヘルメットを装着し、アックスを取り出す。水野さんにショートロープで確保してもらいながら一歩一歩慎重に進んでいく。慣れないクランポン歩行も、水野さんが親身に教えてくれたおかげでなんとかサマになっている。
「ここは夏道だと階段なんだけど、冬になると雪と氷のせいで歩きにくいんだ。気を付けてね〜」。セクハラすれすれの発言で場を沸かすこともあれば、ガイドらしく注意を促す。水野さんはまさにエンターテイナーだった。
「今日、水野さんといっしょでよかったっす!」
「……。洋子ちゃん、もうすぐ天望荘に着くからね♡」
140人の宿泊者が全員参加! 大興奮のじゃんけん大会
待望の夕食はバイキングだった。おかわり自由、疲れた体にはうれしいかぎり。食事を済ませると、おまちかね、じゃんけん大会がスタートした。大広間には宿泊者全員が集まり、その数およそ140人。ふもとまで響かんばかりの歓声がわく。
「じゃーんけん、ぽんっ!!」「わー!」「やったー!」「次はなにがもらえるのー!?」
老若男女、ここでは関係ない。毎年恒例、豪華賞品が当たるとあって、参加者の興奮は冷めぬまま、次々と勝者に山道具が渡される。「洋子ちゃんも参加しなよ!」
それまで上品な笑顔で、その場にいた男性陣にお酒を注いでくれた大人の女性はどこへやら、少女時代の無邪気さを取り戻したかのようなにんまり顔でじゃんけん大会に乱入。しかし、おしいところで一歩届かず。
それでも参加賞でもらったオリジナルのピンバッジを手に、満足げな表情を浮かべた彼女。それにつられ、僕や水野さん、そして杉村さんまでもが立ち上がり、拳を挙げる。
(絶対に勝って、陽子ちゃんにプレゼントしてやるんだ……!)
そんな邪な気持ちを抱いていたのは、決して僕ひとりではないはずだ。
年越しそばをいただき、部屋に戻ると本格的なカウントダウンムード。一方で、明日の登頂に備えて多くの登山者が眠りにつき、さきほどとは打って変わって、小屋の中には静寂が漂う。
しかし、この日をなによりも楽しみにしていた僕は、2017年を迎えたそのときのためにウイスキーを持ってきていた。それは陽子さんも同じだったようで、なんと金粉入りのお酒を持参していた。
「さっすが陽子ちゃ〜ん。それ、俺と分けようよ〜」。なんて言いながら、本来ならここで水野さんが入ってきそうだが、その気配はない。どうやら布団にくるまって暖をとっていた彼は、すっと夢のなかに消えてしまったようだった。「じゃあ、これは3人でいただきましょうか」
この日はじめて水野さんを出し抜いた気がしたのだが、そんな僕の油断を察知したのか突然の寝言。「ヘイ!ミッツ、行くよ!!」。後で聞くと、どうやら夢のなかで僕をガイドしてくれていたらしい……。
「お前のことが心配だったんだよ」との言葉。やはりこの人、アメとムチがうまいのである。
爆風が吹きすさぶ元旦の朝。弱気になる僕……
翌朝、初日の出を見ようと、起床してすぐ外に出るも爆風が吹きすさぶ。ときどき晴れ間は見えるので、なんとか粘るも結果むなしく、早々に小屋に引き返し、すぐさまストーブの前に避難した。「いや〜、予想外でしたね。今日、天気荒れますかね?」
雪山初心者の僕は、昨日とは一変した外のようすに出鼻をくじかれ、思わず弱気になっていた。
「もう少しで晴れるよ!時間に余裕もあるし、のんびりしよーぜ」。心強い水野さんの一言に一同安心。コーヒーをいただき、その時を待つ。
「じゃ、クランポンつけて。サングラスは外に出てからね! じゃ、天望荘のみんな、またねー」。さすがは山岳ガイド、てきぱき指示を出し、ビギナーな僕らもスムーズに出発できた。
明日からは最高の一年になる予感
山頂までの傾斜はそこまできつくない。昨日に引き続き、水野さんにショートロープを出してもらいながらの歩行なので、安心だ。
山頂には思いのほか先客が多かったので、撮影待ちを兼ねて岩陰で休憩をすることに。「朝にあったかいお茶を入れておいたんで、みんなで飲んでくださいっ」
そう言って陽子さんがマイボトルを僕らに差し出した。「じゃあ俺が先にもーらう!」「えー、じゃあその次俺ね〜」「どこ、陽子ちゃん、ボトルのどこで飲んだの!?」「教えてくれないんなら、全部舐めてやればいいんですよ」
……思い出すと、本当にひどい会話である。もちろんこれは冗談半分なのだが、たった1泊2日の旅のなかで、これがまかりとおるほどおたがいの関係が深まっていた(と思われる)のは、きっと年越しをともにすごしたからかもしれない。
個人的な話で恐縮だが、思えばこれまで、年越しを特別なイベントとしてとらえたことはなかった。よくも悪くも普段通り、初詣にすら行かないほど無頓着であった。
そんな僕が、仕事という形式ではあれど、思い出深い2日間をすごすことができた。今回のように、山のなかで人と密に接し、美しい景色を眺め、山頂に立つことで達成感を得られるのなら、それは間違いなく、最高の幕開けになるはずだ。
Special Thanks to 赤岳天望荘
赤岳天望荘は11月初めに小屋締めをするも、冬期は期間限定で営業を再開。小屋の内部は広々としていて、さらに宿泊者はコーヒーが飲み放題といたれりつくせり。
>>ルートガイドはこちらから
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文◉糠田光海 Text by Mitsumi Nukada
写真◉杉村 航 Photo by Wataru Sugimura
取材期間:2016年12月31日〜2017年1月1日
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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