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筆とまなざし#196「雑穀谷クライミング、そして立山スケッチ登山へ(後編)」

やっぱり旅っていいな。クライム&キャンプ&トレック&スケッチを楽しむ三日間。

ケーブルカーとバスを乗り継いで室堂へ。このルートから室堂へ入ったのはいつぶりだろう? 10年以上前、東京から夜行バスで富山へ向かい、剱岳へ登ったことを思い出しながらバスで爆睡して目覚めると、車窓の外には雄大な立山の風景が広がっていました。

室堂へは昼前に到着しました。今日は雷鳥沢のキャンプ地まで。コースタイムは1時間弱。急ぐ旅ではありません。少しだけ黄色く色づいた山肌を眺めながら、ゆっくりと歩き始めました。雷鳥荘から見下ろすと、すでにテント場には色とりどりのテントがところ狭しと張られていました。ここのテント場はコロナ禍でも予約不要。受付を済ませ、わずかなスペースを物色しながら、いちばん山手の山がよく眺められる場所にテントを張ることにしました。

お茶を沸かして一息入れて、スケッチブックを取り出しました。立山は逆光で、剱御前方面はガスで稜線が見えなくなっていました。ふと、気に入ったのが目の前に広がる賽の河原。なだらかな斜面に生える色づき始めた草花。その真ん中を蛇行しながらゆっくりと沢が流れ下っていきます。日の差し具合によって、草原がパッと明るく照らされたり、右側の斜面が岩陰になったり。稜線のダイナミックさはありませんが、そこには静かな華やかさがありました。あえて稜線を描かずに、その風景を描くことにしました。

鉛筆で下絵を描いて着色。岩が細かいのでとても根気のいる作業です。4時間ほど描き続けたでしょうか。途切れそうになる集中力をなんとか維持させて、寒くなってきたころに描き終わりました。かなり余裕のある行程にしたからこそ描けた一枚。急がずとも、じっくりと目の前の風景を眺めることで、その時間はどこまでも豊かさを膨らませていく。そんなことを思うスケッチの時間でした。

翌朝は日の出とともに出発しました。雷鳥坂を登り、剱御前小舎から別山、真砂岳、立山三山を周遊して室堂へ下山。立山駅に昼すぎに到着し、登りたかったルートがあったので再び雑穀谷でクライミング。温泉に入り、富山で海の幸に舌鼓を打って帰路につきました。白えびが大好きなのです。

思いがけずに思いついたクライム&キャンプ&トレック&スケッチの旅。「やっぱり旅っていいな」。そう思わせてくれるわずか3日間の旅でした。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

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