筆とまなざし#219「身近な自然のなかで本物を見る。友人が手掛ける展覧会で」
成瀬洋平
- 2021年03月24日
鳥類学者の友人が手掛ける展覧会を観に、富士見町へ。
雨降りの日曜日、長野県富士見町にある「富士見高原のミュージアム」に行ってきました。ここで行なわれている企画展「富士見の鳥たち−「地域鳥類学」へのいざない−」を見るためです。
この展覧会は、3年前に富士見に引っ越した大学時代の同期の友人で鳥類研究者の西教生くんが手掛けています。いきもの全般に詳しく、現在は大学の非常勤講師をしながら各地でいきものの調査に携わっています。数年前にホシガラスの生態を紹介するNHKのテレビ番組でも監修を務め、四季を通じて乗鞍岳で撮影を行なったそうです。ホシガラスはライチョウとともに高山を代表する鳥で、白と灰色のマダラ模様の姿を山で見かけたことのある人も多いでしょう。ハイマツはホシガラスの貯蓄行動によって分布域を広げているといいます。
西くんは子どものころに、毎年渡ってくる鳥たちはどこから来るのだろう? という素朴な疑問を持ち、興味を持ったのだといいます。その興味感心をずっと持ったまま、いきものの謎を追いかけ続けています。その愚直なまでの好奇心と探究心は本当にすごいなぁと、会うたびに感心させられるのです。幼いころからずっと続けている自然観察の蓄積がいかほどのものなのか、それは「続けてきた」人にしか持ち得ない強さだと思います。
新しい立派な建物の一階は図書館になっており、博物館は二階にありました。ちなみに、富士見町には山の文筆家である尾崎喜八が戦後間もなくの数年間暮らしており、常設展で紹介されていました。企画展は常設展のいちばん奥で行なわれていました。
最初に幾つかの鳥の巣が展示してありました。鳥によって巣の形や巣材、作る場所もさまざまなのですが、どれもがとても柔らかそうで美しい。しかし、鳥は自分の体とさほど変わらないくらいの大きさの巣を自然のものだけで巧みに作って暮らしているのに、人間はどうしてこんなにも巨大な住居、街が必要なのだろう……そんなことを思わずにはいられません。展示は、身近に見られる鳥の生態が簡潔に紹介されており、「鳥はどこで寝ているの?」など意外に知らない素朴な疑問がわかりやすく解説されていました。こういった鳥の営みがぼくらの生活のすぐそばで行なわれているのに、ぼくらはそれに対してなんと無知なことでしょう。
彼はパンフレットにこう書いています。
「遠くに出かけて、見慣れない鳥類を観察するのも楽しい事柄ですが、心踊るような発見は、身近な自然のなかにもあります」
学生時代からこだわっていた「身近な自然」のなかで「本物を見る」こと。卒業してから15年以上経ちますがそれはいまも健在で、これからもずっと変わらないのでしょう。
展覧会は3月28日(日)まで。近くには山の本をたくさん扱う本屋さん「mountain bookcase」もあります(ぼくのポストカードも置いてもらっています)ので、ぜひ訪れてみてください。
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