かほちゃん、八ヶ岳で見守られソロテント泊・その2
PEAKS 編集部
- 2021年08月10日
登山歴4年目のかほちゃんのソロテント泊デビュー。装備を整えたら、いよいよ出発です。“見守り役” として登山ガイドの渡辺佐智さんに同行してもらい、アドバイスをもらいながらのテント泊チャレンジ体験記をお送りします。
>>>その1・準備編はこちら
文◉かほ、編集部 Text by Kaho, PEAKS
写真◉宇佐美博之、増川浩一 Photo by Hiroyuki Usami, Koichi Masukawa
出典◉PEAKS 2020年9月号 No.130
私にとって特別な山へ、テントを担いで戻ってきた。
八ヶ岳は私にとって特別な山。なぜなら私が初めて登った山だから。
当時テレビ番組のADだった私は、2016年の初日の出を撮影するために標高2603mの根石岳に登った。この撮影が、私が収録中に居眠りをしてしまったために禊として企画されたロケだったということはここだけの話。
その時期の八ヶ岳は雪で覆われていて、私の初めての登山は雪山だった。当時はこれほど山に没頭するなんてまったく想像しておらず、テントを担いでこの地に戻って来た自分の成長が少し誇らしい。
初めてのテント泊で登るのは根石岳のおとなり、硫黄岳。1日目は桜平の駐車場をスタートし、そこから1時間半ほどのオーレン小屋でテントを張る。翌朝、日の出とともに出発し、硫黄岳山頂を目指す。時刻は午前7時すぎ。空は曇っている。初めてのテント泊山行を青空の下で迎えることはできなかったけれど、雨女の私にとっては梅雨の時期に雨が降っていないのはむしろラッキーなほう!
出発してすぐに傾斜のついた道が現れた。ゆるい登りなので普段なら難なく歩けそうだが、今回は荷物が13㎏ある。足は重く、いつもより背の高いバックパックはバランスが取りにくいので一歩一歩がゆっくりに。かなりスピードを抑えていたので遅すぎるかなと心配していると、ガイドの佐智さんが「自分のペースで歩けていていいですね」と声をかけてくれた。
詳しく聞くと、自分の心地よいペースで歩いたほうが疲れにくいとのこと。友人と出かけると「マイペースすぎる!」と注意されることもあるけれど、山のなかではマイペースも悪くないみたい。
CHECK.1 ペース配分をつかんで適宜休憩を。
歩き始めは自分のペース配分をつかむことが大切です。ソロ山行ではとくに、いっしょに歩く人もいないので、良くも悪くもすべてが自分のペース。テント泊の重い装備を背負っているので、なおさら疲れないように歩くことが大切になります。かほさんは自分のペースを保って歩くことができていたので良かった思います。また、休憩や水分補給、行動食の補給も、バテる前に自分の時間配分で摂ることも忘れずに。(渡辺佐智さん)
登山道の近くには沢が流れ、水の流れる音を聞きながら登っていく。沢と登山道が交わると、ふわりと硫黄の香りがした。八ヶ岳一帯は火山地帯で、多くの温泉が存在する。温泉に入れる山小屋もあるくらい。今回はテント泊なので、小屋に泊まって温泉に浸かるプランはまた次回。温泉に入れないのは残念だけれど、八ヶ岳を再び訪れる理由ができたと思おう。
梅雨の時期の八ヶ岳を歩いていると、目を引くのは隙間なく生い茂る苔たち。日本で見られる苔はおよそ1800種類。その四分の一ほどが八ヶ岳に生息しているといわれている。登山道の左右に目をやると、岩も木も苔だらけ。ときおり木の隙間から光が差しこみ、八ヶ岳の森は一層神秘的になる。
この山行に出発する前、私は自分にちょっと呆れてしまった。八ヶ岳の苔の美しさは前々から聞いていたので、少しでも頭に入れていきたいと苔の図鑑を購入した。できるだけ多くの苔の名前と形を覚えて臨もうと意気込んで図鑑を開いて数分後、私は図鑑をパタリと閉じてしまった。どれもこれも同じに見えた。いや、そんなはずはないともう一度見てみてもやっぱり同じ。色や形はそれぞれ違うのだろうけど、写真で見る苔は素人の私には違いがさっぱりわからなかった。結局、数種類しか覚えられず、私の頭のなかの苔図鑑はとても頼りないものとなった。
ただ、実際に山で苔を見てみると、一つひとつ種類が異なるのがよくわかる。ひと言で「緑」といっても、それぞれが微妙に違う。モスグリーンと呼ぶのにふさわしい深緑の苔もあれば、茶色がかったものもあるし黄色っぽい色をしたものもある。見たことないものばかりで何度も足を止めて撮影したが名前がわからないものがほとんどなので、家に帰ってから図鑑と照らし合わせることにしよう。家に帰ってからの楽しみがひとつできた。
CHECK.2 撮影時はまわりの地形をよく見て!
撮影や休憩などで立ち止まるときは、まわりの地形を見回して、安全かどうか確認してからにしましょう。とくに撮影時は、撮影することに気をとられてしまうので、まずは自分の安全確保が第一です。立ち木がなく空が抜けている地形や、地盤が緩い場所、落石や滑落の可能性があるところは危険なので立ち止まらずに通りすぎましょう。休憩時には木々に囲まれた場所や、膨らんだ地形を選んで休むようにしましょう。(渡辺佐智)
登山口から30分ほどで夏沢鉱泉に到着。バックパックを下ろし少し休憩したら再びオーレン小屋を目指す。夏沢鉱泉からは1時間ほどの緩やかな登り。登山口を出発するときは雲が覆っていたが、いまは少し青空が出てきた。
登山口から休憩を含め2時間ほどでオーレン小屋に到着。時刻は9時すぎ。まだ早いけれど、今日はここで登るのを終えてテントを張る。受付を済ませ、テント場へ。オーレン小屋のテント場は美しいのひと言に尽きる。周囲が木に囲まれていてテント場をふたつに分けるように小川が流れる。小川付近には小屋の名前にもなっているオウレンの白い小さな花が、お花畑を作っている。こんな場所で一晩すごせるとは、なんて幸せなんだとウキウキが加速するが、ここで少し冷静にならなくてはいけない。テントを張る場所を選ぶのもけっこう重要なのだ。
佐智さんが教えてくれた場所選びのポイントは大きく分けてふたつ。雨が降ってもテントが浸水しないようになるべく高い場所を選ぶことと、女性ひとりの場合は、なにかあったときのために小屋に近い場所を選ぶようにすること。ポイントをふまえ場所を決め、いよいよテントを張る。
CHECK. 3 増水時の危険を想像しよう。
地盤の緩い場所や水はけが悪いところ、ルート上に沢がある場合など、雨天の前後や下山のときに注意が必要です。山小屋に連絡して確認するなど情報収集しておきましょう。また、雨が降ったときにはこういう地形だとどうなるか、ルート上の地形図から想像を膨らませておくことも大切です。ソロ山行では自分の身を守れるのは最終的には自分のみです。自分で状況判断できるようにしましょう。(渡辺佐智)
テントはニーモのアトム。雑誌やウェブでさまざまなテントを調べて選んだ私の相棒。これといった決め手があるわけではないのだけれど、初めてのテントに適したポイントがいくつかある。ダブルウォールなので結露しにくく、自立型なので設営もしやすい。強度も十分で、重さも1.28㎏とダブルウォールのテントのなかでは軽いほうである。
テントが家に届いたときはうれしくて、まだ外出ができない自粛期間中に室内で何度もテントを張った。随分待たせたけど、やっとテントを山デビューさせてあげられると思うと期待は高まるばかり。
しかし、いざ作業を始めると思うように設営が進まない。どうしてこんなに時間がかかるんだろうと焦って組み立てていると、手順を間違えて初めからやり直さなくてはいけなくなってしまった。
あとから考えてみると、家やキャンプ場とは少しずつ環境が違ったのが手こずった理由だと思う。家の中では風の影響を受けることがなく、床なのでペグを打つことができなかった。キャンプ場では整備された平らな場所にテントを張ることができた。
今回のテント場は木の板が置いてあり、その上にテントを立てるが、木の板にはペグが打ち込めないので紐を延長したり石を使ったりしてテントを固定しなくてはいけなかった。時間はかかったけれど、佐智さんに手伝ってもらいながら、なんとかテントを立てることができた。
CHECK.4 到着したら受付で情報確認、周りの人に挨拶も。
宿泊地に到着したら、まずは受付を。受付時にはトイレの場所や水場、雨天時の避難場所などを確認しておきましょう。テント泊の際は小屋泊と違って、いつでも小屋の人に確認できる状況ではないので、最初に聞いておけば安心です。また、テントを張る際には、テント場の周りの人に挨拶をして、コミュニケーションをとっておくこともおすすめです。ご近所トラブルも避けられ、ソロでも安心してすごすことができるでしょう。(渡辺佐智)
時間を確認すると設営だけで1時間近くかかっていた。そこから荷物をテントの中に入れ整理などをしていると、あっという間にお昼の時間になった。時間の経過が本当に早い。慣れないうちのテント泊はゆとりがありすぎるくらいの計画で臨むのが良いというのを身をもって実感した。
昼食を済ませ、湧き水を沸かして紅茶を飲んだ。小屋のすぐそばで湧いている天然水で入れたコーヒーや紅茶は本当に美味しい。7月とはいえ、標高2300mのこの場所ではダウンを羽織ってちょうどいいくらい。温かい飲み物を飲むとホッとする。
暗くなる前に夕食の準備。普段から登山のときはバーナーとクッカーを持参し食事を作っているので、荷物が多いからとフリーズドライの食品で軽く済ませようという発想は1ミリもなかった。
CHECK.5 テントを張るときのポイントは?
テントを張る場所は、小屋が近く、高台になっているところを選びましょう。大雨などの緊急時、すぐに小屋に避難でき、高台であれば増水時に浸水の被害も軽減できます。また、テントを張る際は、対角線を見て本体をしっかり張ることが重要です。フライも飛ばないように適切に取り付けて、ガイラインもピンと張りましょう。予備の細引きを用意しておくことも大切です。困ったときの助けとなるでしょう。(渡辺佐智)
>>>その3・初めてのテント泊&キャンプ飯~片付け・下山へ つづく
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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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