後悔しない登山用テントの選び方 後編
PEAKS 編集部
- 2021年08月04日
高価だからこそ失敗したくない登山用テント選び。自分のスタイルに合ったものを、長く使いたい。4つのステップで決める登山用テントの選び方、今回は第3、第4のステップでさらに絞り込んでいこう。
>>>前編はこちら
文◉吉澤英晃 Text by Hideaki Yoshizawa
写真◉増川浩一 Photo by Koichi Masukawa
出典◉PEAKS 2020年8月号 No.129
快適性で選ぶ
使用シーンで選択肢を絞り込んだら、次は快適性に着目してさらに候補を厳選しよう。検討したいポイントは「前室の有無」「収容人数」「ポールの構造」の3点。それぞれ吟味して後悔を回避しよう!
前室の有無
前室とは、入口の前にできるフライシートに覆われた空間のこと。ダブルウォールタイプを選べばもれなくついてくるが、フライシートがないシングルウォールタイプには、一部例外があるが基本存在しない。
「テントの中ですごすとき、汚れた登山靴を中に入れたくないですし、調理後の火器やクッカーはじゃまですよね。こんなときに前室があると、雨風を気にしないで道具を外に出すことができます。快適さを求めるなら前室はあったほうがいいです」
快適性をとるか前室を諦めて軽量性をとるか、判断が分かれるポイントだ。
ライペン/エアライズ1
まとめ
- 前室があるとなにかと便利
収容人数
ひとりで使うなら収容人数は1人用のモデルを買わないといけないという決まりはない。もちろん収容人数が増えればテントはそのぶん大きくなり、サイズに比例して重くなるが、重量の差は冷静に見極めたい。
「道具の軽量化が進んだいまとなっては、1人用と2人用の重さは100gから150gくらいしか変わりません。わずかな重さを我慢するだけで広々した空間を手にいれられるなら、実際に使う人数はひとりでも2人用を選んだほうが快適といえるでしょう」
もちろん軽量性を追求するなら1人用一択になる。
1人用
ライペン/エアライズ1
2人用
ライペン/エアライズ2
まとめ
- 実際の人数+1人で快適性が大幅アップ
ポールの形状
ポールの形状は自立式タイプに限定した話になる。自立式タイプの設営はまっすぐなポールを2本使い、それぞれをクロスさせるのが一般的。しかし、とくに海外ブランドには、複数のフレームをハブで連結させた構造のポールを使って設営するモデルが存在する。
「ハブを使ったポールを採用する理由は、側壁を立ち上げて空間を広げるためです。居住性はフロアサイズと、その上に広がる空間面積によって左右されます。側壁が立ち上がり、ヘッドクリアランスに余裕があるほうが、空間が広く居住性に優れるといえます」
ハブを使ったポール
MSR/ハバNX
2本のポールをクロス
ライペン/トレックライズ1
まとめ
- ハブを使った形状は居住性に優れる
その他の要素で選ぶ
ここまでくれば理想のテントはすでに決まっているかもしれない。最後に「設営方法」と「収納サイズ」について説明する。それぞれチェックして、最終候補をより具体的にイメージしよう。
設営方法
設営方法は “吊り下げ式” と “スリーブ式” に大別される。吊り下げ式は文字どおり、フックなどでポールにインナーテントを吊り下げるタイプ。スリーブ式はインナーテントに縫い付けられた筒状のスリーブにポールを差し込んで設営する。
「吊り下げ式はポールとインナーテントの距離をわざと長くしているモデルがあり、その場合、風でバタつくフライの影響をインナーテントが受けづらいという特徴があります。スリーブ式はポール全体に張力がかかるので、やや剛性に優れるといえるでしょう。設営時間に大差はなく、慣れによるところが大きいです」
吊り下げ式
MSR/ハバNX
スリーブ式
ライペン/トレックライズ1
まとめ
- スリーブ式は若干、剛性に優れる
- 設営スピードは慣れ次第
収納サイズ
テントを選ぶうえで収納サイズもチェック項目のひとつになる。サイズが大きければ、それだけでパッキングしにくく、バックパックの中でかさ張ってしまうからだ。ただしこれは自由に変更できる場合がある。
「収納サイズは収納袋の大きさであることが多いです。スペック上では大きく見えても、あとからスタッフサックをサイズダウンすれば、コンパクトにできる場合もあります。逆に収納袋が小さすぎるとしまうのが大変なので、ひと回り大きなサイズを用意して交換するのもアリでしょう。収納状態が四角形になる袋を選ぶとパッキングしやすくなります」
まとめ
- 収納サイズ=収納袋の大きさであることが多い
- 小さすぎる収納袋は使いにくい
軽量テントの落とし穴
道具の軽量化は目覚ましく、最近は1㎏を下回るモデルもめずらしくない。ただし軽さだけに捉われるのは危険だ。
「軽いテントは強度や快適性など、なにかが削られている場合が多いです。それを理解せずに手を出すと、簡単に穴が開いてしまった、狭くて居心地が悪かったなど、後々悔やむことになりかねません。性能に対する許容範囲がわからない人は、平均的な重さのテントを選んだほうが後悔は少なくなると思います。逆に重くても、快適性に振りきったモデルを選ぶ判断があってもいいでしょう」
ライペン/ドマドームライト1
最小重量:1,790g(張り綱とペグを含まず)
サイズ:W200×D75×H105cm(土間:W110×D60cm)
収容人数:1人
問:アライテント
番外編【 パーツやオプションにも注目 】
晴れて理想のテントが見つかったら、パーツやオプションにも注目しよう。ここでは「ペグの種類」「フレームの素材」「アンダーシート」について説明する。知っておいて損はない!
ペグの種類
ペグは形によって保持力が変わる。地面の硬さに合わせて使うペグを変えてもいい。
「いちばんバランスのいい形がV型です。十分な強度と保持力があり、軽さも申し分ない。それよりも軽量なペグがほしい場合は、棒状のピンペグを選びましょう。細くなるほど軽くなりますが、保持力は弱くなり、逆に太くなるほど重くなりますが、保持力は強くなります。保持力を優先させるなら、Y型やX型がおすすめです。かさ張りますが強度にも優れます」
ポールの素材
現在、ポールの素材で多いのはアルミニウムだ。とくに韓国の企業「DAC」が作る高強度アルミポールが世界中のテントメーカーで採用されており、トップシェアを占めている。しかし、なかにはカーボンでできたポールも存在する。
「ポールをカーボンで作る理由は、軽量化にあります。実際に重量を抑えることができるのですが、高価であり、強度面にやや不安が残るのがデメリットです。カーボンポールのテントを選ぶときは扱いに注意しましょう」
グラウンドシート
グラウンドシートは、テントを汚れなどから防いでくれるオプションパーツ。各モデルに対応するサイズのシートが別売されていることが多い。
「フロアの生地が薄い軽量モデルだと、グラウンドシートを使うことで穴あきを防ぐことができるので、メーカーが積極的に使用を勧めている場合もあります。ただし重さがプラスされるので、使う使わないは人それぞれ。絶対に必要なものではありません」
テントとシェルターはなにが違う?
“テント” に似た言葉に “シェルター” がある。どちらも宿泊時に使うギアを意味しているが、なにが違うのだろう。
「これは商品を作るメーカーの意識が影響していると思います。たとえば、メーカーが非常時の使用を想定して作った商品は “シェルター” と呼ばれることが多いです。メジャーなものにツエルトがあります。逆に積極的な使用を目的とした商品は “テント” と呼ばれます。いまは丈夫なシェルターがあり超軽量テントも存在するので、ユーザーが名称の違いを気にする必要はないでしょう」。
モンベル/U.L.ツエルト
最小重量:270g
サイズ:W80×D200×H90cm
収容人数:2人
問:モンベル
教えてくれた人
吉野時男さん
千葉県の登山用品専門店「ヨシキ&P2」スタッフ。道具とフィールドに精通する貴重な識者。いまでは登山系メディアに欠かせない存在になりつつある。
- BRAND :
- PEAKS
- CREDIT :
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文◉吉澤英晃 Text by Hideaki Yoshizawa
写真◉増川浩一 Photo by Koichi Masukawa
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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