突撃! 隣のテント飯|4者4様の味比べ対決
PEAKS 編集部
- 2021年09月03日
INDEX
4名の料理好きハイカーを一堂に集め、それぞれのテント泊飯のイチオシレシピを披露してもらおうという本企画。出揃ったレシピは4者4様、個性炸裂なスタイルウォーズとなりました。すぐに取り入れられそうなヒントも満載です。みなさん、隣のテントのハイカーは、山でもこんなに美味しそうなご飯を食べているんですよ!
文◉池田 圭 Text by Kei Ikeda
写真◉落合明人 Photo by Akito Ochiai
取材協力◉若洲公園キャンプ場、Herofield.com
出典◉PEAKS 2020年8月号 No.129
参加者の顔ぶれはこちら!
左から
空腹最恐の蛙イーター/飯坂 大さん
写真家。ネパールを横断するトレイルを踏査する「GHT Project」を立ち上げ、その魅力を全国で伝える。今回は現地で学んだカレーを披露。一大プロジェクトの集大成がここに結実!?
狩猟採集界の重戦車/藤原祥弘さん
狩猟採集や野外活動を主なテーマに活動するエディター&ライター。山でもお米を食べないと力が湧かないタイプ。本日用意した干しニンジン、ワカメ、キュウリは、当然のように自作!
【審査員】戦慄の繊細料理番長/小雀陣二さん
本誌連載「山グルメ」でもおなじみのチュンチュンが、審査員を務める。自身は山でもしっかり料理派。健康面を考慮して塩気は薄め、美味しいものを少しずついろいろ食べたいお年ごろ。
叛逆のコンビニボーイ/池田 圭さん
山から海まで遊び回る編集&ライター。特別な軽量化はしないが、余計な道具は持たない山行が好み。軽くした以上に、食材をたっぷり背負ってしまう。足し算引き算ができないのが悩み。
ライトウェイト堕天使/中島英摩さん
アウトドアライター。装備から食事まで、ライト&ファストなスタイルを嗜好し、1年を通じて山に通う。可愛い顔して、海外の100マイルレースにも参戦するマッチョな一面もあり。
対決のルール
- 北ア1泊2日テント泊山行の夕飯を想定すること
- 調理時間は30分以内に収めること
- 実際に山で食べているものを再現すること
- 各自テーマを設定して独自のスタイルを出すこと
- だれが食べても美味しいこと!
山での食事は簡素なものであり、美味しくなくても仕方がない。だって、山なんだから。
そんな常識はいまや遠い昔のお話。近年は山で食欲全開な私が食べまくる、という漫画が大ヒットするほど、料理を楽しむ登山者が増えているのが現実だ。テント泊の食事はいつだって某ラーメンだけ? そんな食事をしているのは、もはやあなただけかもしれない。
では、隣のテントの住人はどのような食事をしているのか。料理好きな4名のハイカーを集めて、テント泊で実際に作っている自慢のレシピで対決してもらおう。きっとそこには、だれもがテント泊での食事に取り入れることができるアイデアや工夫が隠されているに違いない。
ということで、今回は本誌の山グルメ連載でもおなじみ、登山業界のヨネスケ、改め山本小鉄、もとい小雀陣二さんにレフェリーとして参加していただいた。それぞれのレシピから、山ご飯で押さえておくべきポイントや応用可能なテクニックを鋭くチェック&解説してもらうとしよう。
やってきた対決会場は、都内のキャンプ場。役者は揃い、舞台は整った。さあ、時はきた。打ち鳴らせ、フライパン。燃え上がれ、俺の小宇宙。隣のテント飯対決の始まりを知らせるゴングが、いま梅雨空へと高らかに鳴り響く。
ネパールで身につけた本場の味を再現!
「スパイスから作るトマトネパールカリー」(飯坂大さん)
調理時間
30分
食材の重量
1,170g
使用する水の量
400ml
調理道具の総重量
1,171g
材料(3人分)
- 豚挽肉 ………………200g
- ナス …………………2本
- トマトソース ……… 200g
- ニンニク ……………1かけ
- ショウガ ……………1かけ
- 無洗米 ………………2合
- マサラ ………………15g
- クミン ……………… 3g
- コリアンダー ……… 3g
- ローリエ ……………1枚
- オリーブオイル ……大さじ2
- 塩 ……………………ひとつまみ
- ブラックペッパー …ひとつまみ
作り方
①米2合を400㎖の水に30分浸しておく。その鍋を強火にかけ、沸騰したら弱火にする。湯気を嗅いで、焦げ臭がし始めたら火からおろして15分ほど蒸らす。石などで重石をすると上手に炊ける。
②別の鍋にホールスパイスとオリーブオイルを入れて弱火にかける。香りが立ってきたら、刻んできたニンニク、ショウガ、タマネギ、塩ひとつまみを加えてよく炒める。全体がしんなりしてきたらマサラを加える。
③ナス、挽肉の順に加えて、全体をかき混ぜながら水分を飛ばすようなイメージでよく炒める。焦げ付かないよう、火加減に注意する。
④トマトソースとローリエを加え、煮たったら塩コショウで味を調えて完成。
【ポイント】自宅でできる下ごしらえは済ませてから出かけよう
下ごしらえをして山での手間を減らそう。日持ちする野菜は刻んでおき、肉は冷凍。下味をつけておくと余分な調味料も減らせる。小分けにするにはジッパー付きの袋が便利だ。
【ポイント】水分を飛ばすと旨味がギュッと凝縮する
極上カレーにたどり着くには、トマトソースなどは水分の少ないものを選ぶのがポイント。野菜を炒めるときには、塩をひとつまみ入れると水分が出やすくなることも覚えておこう。
本場のスパイスさえあれば、食材はなんでもウェルカム
「ホールスパイスとマサラと呼ばれる粉末のミックススパイスを用意しました。ここにこだわるだけで本格的なカレーに仕上がります。アジア系食材店でも手に入ります。ネパールの人は、あるものならなんでもカレーにしちゃう。カエルでも美味しかったくらいなんで、食材はなんだっていいんです。とにかく、スパイス!」
フリーズドライを賢く組み合わせた、軽量&お手軽なレシピ
「ナスとひき肉のアラビアータ&オニオングラタンスープ」(中島英摩さん)
調理時間
10分
食材の重量
307g
使用する水の量
470ml
調理道具の総重量
508g
材料(1人分)
アラビアータ
- パスタ …………………………………100g
- アマノフーズ 麻婆ナス丼……………1袋(25g)
- アマノフーズ うまみトマトスープ…1袋(12.5g)
- カゴメトマトペースト ………………1袋(18g)
- 唐辛子…………………………………1本
- ドライトマト ………………………… 5g
- フライドオニオン ……………………5g
- フライドガーリック ………………… ひとつまみ
- パルメザンチーズ …………………… ひとつまみ
- 塩……………………………………… ひとつまみ
オニオンスープ
- オニオンスープ …………………… 1袋
- バケット …………………………… 1枚
- スライスチーズ …………………… 1枚
- ドライパセリ ……………………… 少々
- ペッパーソルト …………………… ひとつまみ
作り方
①パスタとドライトマトやフライドオニオン、フライドガーリック、唐辛子をジッパー付きの袋に入れ、1時間ほど水150㎖に浸けておく。お湯を水160㎖沸かしたカップにオニオンスープの粉末、バケットとチーズを入れてフタをする。
②別の鍋に水戻ししておいた①と水160~180㎖を入れて火にかける。全体を混ぜながら、パスタが半透明になるまで火にかける。
③トマトスープ、麻婆ナスの素の順に加えてよく混ぜる。全体がなじんだらトマトペーストを加える。
④塩コショウで味を調える。オニオングラタンスープにパセリ、パスタにパルメザンチーズをかけて完成。
【ポイント】登っているあいだに調理スタート!
パスタと乾燥食材をジッパー付きの袋に入れておき、調理開始の1時間前から水に浸けておく。こうしておけば、パスタの茹で時間はたったの1分でOK。乾燥食材が戻るのを待つ時間もなく、すぐに食べられる。
【ポイント】ゴミが少なくなるように必要な分だけを持つ
食後のゴミが少ないことも大切。投入するタイミングが同じ食材は余計なパッケージを捨ててまとめておこう。また、調味料や乾燥食材は必要な分を小分けにする。小さな積み重ねが大きな違いになるのだ。
片付けや収納の利便性まで考慮したミニマムな構成を
「ミニマムな装備と食材を意識して構成すると、軽くなるだけでなく、調理時間が短くなり余計な燃料も必要なくなります。とはいえ、ドライフードだけでは味気ないので、旨味が出るフレッシュな食材を取り入れました。クッカーは、重さと調理時のバランスを考えてミニトランギアを選択。荷物もスッキリまとまります」
山の上でも美味しいお米を食事の中心に据える
「じゅーしー角煮丼&わかめスープwith丸かじりキュウリ」(藤原祥弘さん)
調理時間
25分
食材の重量
610g
使用する水の量
410ml
調理道具の総重量
428g
材料(1人分)
- 角煮パウチ …………………… 1袋
- 米……………………………… 150g
- 焼きマカボコ ………………… 5g
- 干しヒジキ …………………… 5g
- 干しシイタケ ………………… 5g
- 干しニンジン ………………… 20g
- 乾燥ワケギ …………………… 5g
- ヒガシマルうどんスープ …… 1袋
- 乾燥ワカメ …………………… 5g
- ゴマ …………………………… ひとつまみ
- キュウリ ……………………… 2本(240g)
作り方
①米150gと乾物をそれぞれジッパー付きの袋に入れ、調理開始の2 ~ 3時間前から米は150㎖、乾物は110㎖の水で戻しておく。
②鍋に①の米と乾物、うどんスープ3/4袋を入れ、15分ほど炊く。炊き上がりは焦げる寸前の音と匂いで判断する。時間よりも匂いを信じること!
③炊き上がったら鍋ごと自作のコジーに入れ、保温しつつ、10分ほど蒸らす。角煮をのせて完成。
④食後に鍋でお湯150㎖を沸かし、残りのうどんスープ、ワカメ、ゴマを入れ、鍋を洗いつつスープを作る。
【ポイント】高所で美味しく炊くためのコツ
まず鍋の内圧を上げる工夫をしよう。注ぎ口を塞いで湯気を逃げにくくしたり、鍋蓋に重石をするといい。浸水時間を長めにとることと、コジーでしっかり蒸らすテクも有効。
【ポイント】乾燥野菜を自宅で作ってみよう
じつは乾燥野菜も新鮮なほうが美味しいって知ってた? 市販品は高価だが、自作すれば心置きなく使える。コツは乾きやすい形に切ることと、風通しのいい場所に置くこと。夏の晴れた日なら1日でできてしまう。
↓重さは約1/10に
干し野菜で軽量化を図り、生野菜でビタミンもしっかり補給!
調理道具と食器を小さめのクッカーひとつで完結させるレシピにしました。調理には不向きといわれるチタンクッカーですが、使い方次第ではお米も美味しく炊けます。最後に頼れるのは、道具より技術です。道具と干し野菜で軽くしたぶん、庭で育てたキュウリも持ちました。多少重くても生野菜があると元気が出る!
コンビニ食材を有効活用した瞬殺アジア飯
「アジアン風レッドカレー焼きうどん」(池田圭さん)
調理時間
5分
食材の重量
550g
使用する水の量
180ml
調理道具の総重量
532g
材料(1人分)
- 関西風だしの肉うどん(セブンイレブン) ……… 1袋
- レンジで簡単グリル野菜(セブンイレブン) …… 1袋
- ココナッツミルクパウダー……1袋(18g)
- レッドカレーペースト ………1/3袋(15g)
- 乾燥エビ ……………………… 3尾
- ニンニク ……………………… ひとかけ
- ショウガ ……………………… ひとかけ
- ライム ………………………… 1/4個
- オリーブオイル ………………40ml
- ブラックペッパー …………… ひとつまみ
作り方
①オリーブオイル、自宅で刻んでおいたニンニクとショウガ、レッドカレーペーストをフライパンに入れて1分ほど弱火で熱し、香りを引き出す。
②冷凍のグリル野菜、乾燥エビを加え、全体を混ぜる。続いて、ココナッツミルクパウダー、水80㎖を加え、ダマにならないようによく混ぜる。
③うどんを加え、ペーストと油が全体になじむようにかき混ぜる。温まったら付属のスープを半量入れる。ブラックペッパーを散らし、ライムを添えて完成。
④食後はフライパンに水を100㎖と残りのうどんスープを入れ、スパチュラで鍋についた油を落としながらスープを作る。お好みでライムを絞ると美味。
【ポイント】コンビニ冷食は、料理ではなく“食材”として選ぶ
コンビニの冷凍食品を取り入れるなら、食材として使えるかを意識して選ぶといい。濃い味のついたものはなにに入れても同じ味になってしまうので避けたい。保冷剤としても有効活用しよう。
【ポイント】普段の買いものでも、山で使えるかを考えてみよう
手に入りづらそうに見える食材もあるが、じつはこれ、どれも近所のスーパーに並んでいたもの。とくに専門店などで探したものではない。日常の買いものも山を意識した目線で見ると、案外使える食材が見つかる。
コンビニの冷食は「下ごしらえ済みの食材」と考えましょう
「24時間、どこでも手に入る手軽なコンビニ冷凍食材をメインに据えました。食材はすでにカット済み、火も通っているので、フライパンひとつで温めれば5分で食べられる。包丁やまな板、余分な燃料も省けます。そのぶん、組み合わせには頭を使います。香りや色味も意識して、ワンランク上の漢を目指しましょう」
小雀委員による審査やいかに?
【飯坂大さん謹製】スパイスから作るトマトネパールカリー
評価
味:★★★★☆
手軽さ:★★☆☆☆
山向き度:★★★☆☆
オリジナリティ:★★★☆☆
異国度:★★★★★
評価&アドバイス「 仲間と登るならガッツリ系もありですね」
香味野菜スパイスを最初に炒めている香りで、すでに期待が高まりました。仲間との登山を想定しているとのこと。道具と食材を分担して背負えば、1人分の重さはそれほどでもないので、ガッツリいきたい派におすすめです。油分をもう少し足すと、さらに美味しくなりそう。
【中島英摩さん謹製】ナスとひき肉のアラビアータ&オニオングラタンスープ
評価
味:★★★☆☆
手軽さ:★★★★☆
山向き度:★★★★★
オリジナリティ:★★★★☆
合わせ技度:★★★★★
評価&アドバイス「山ではパッキングと段取りもレシピのうち」
パッキングや片付けまで計算され尽くしたレシピですね。道具から調味料に至るまで、選び抜く大切さを感じました。道具選びと同様に、絶妙な食材の組み合わせにセンスを感じます。1分パスタは、先にソースを作ってから麺を入れる手順にすべき。そのほうがさらに美味しい。
【藤原祥弘さん謹製】じゅーしー角煮丼&わかめスープwith丸かじりキュウリ
評価
味:★★★★☆
手軽さ:★★☆☆☆
山向き度:★★★★☆
オリジナリティ:★★★★☆
自給自足度:★★★★★
評価&アドバイス「チタンクッカーを使っての米の炊き具合がみごと!」
食と道具に強いこだわりを感じました。チタンクッカーで高所でも上手に米を炊くスキルと工夫はおみごと。自作のコジーで蒸らすとは、なるほどなあ。自信がない方は、アルファ米でも代用できそう。ショウガや唐辛子など、味のアクセントを少し足してみるのもいいでしょう。
【池田圭さん謹製】アジアン風レッドカレー焼きうどん
評価
味:★★★★☆
手軽さ:★★★☆☆
山向き度:★★★★☆
オリジナリティ:★★★☆☆
手抜き度:★★★★★
評価&アドバイス「コンビニ食材の実力、恐るべし!」
池田くんの手柄というより、コンビニ恐るべしというべきレシピ。調理の手間がない冷凍食材に、完成された味のタイカレーペースト。美味しくなるに決まってます! コンビニ食材は組み合わせを考える楽しみがある。乾燥エビを砕いて入れると、より風味と旨味が増すでしょう。
小雀審査委員による対決の総評
ここに並んだ料理を味わっただけでも、登山の楽しみ方が多様化してきていることを実感しますね。
圧倒的に美味しくなったフリーズドライやいつでも手に入るコンビニの冷凍食品など、食材の進化が後押しとなり、山の料理のバリエーションを広げてくれているように感じます。いっぽうで、あえて米を炊いたり、生の食材を取り入れるという選択肢もあり。軽さとおいしさのバランスが肝ですね。
山グルメに正解、不正解はありません。山行の日数、時期、標高、人数などによって臨機応変に対応するのが理想です。同じ食材や調理手順でも、気温や火加減次第で仕上がりは大きく変わります。それぞれのいいところを参考にミックスして、自分なりの食事を考えていただきたい。ご馳走さまでした。
- BRAND :
- PEAKS
- CREDIT :
-
文◉池田 圭 Text by Kei Ikeda
写真◉落合明人 Photo by Akito Ochiai
取材協力◉若洲公園キャンプ場、Herofield.com
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。