東奔西走! 気まぐれ紅葉サーチトリップ・後編
PEAKS 編集部
- 2021年09月21日
山の情報は世の中に溢れていても、意外と難しいのが紅葉のベストシーズンを狙った山行計画。PEAKS取材陣だって、この時期は綿密に情報収集をしながら紅葉を求めて東へ西へ駆けずり回ります。雨飾山に狙いを定めて登ったものの、惜しくも台風が紅葉を散らしていった後だった……さて、一行の向かう先は?
>>>前編はこちら
文◉池田 圭 Text by Kei Ikeda
写真◉宇佐美博之 Photo by Hiroyuki Usami
イラスト◉富田 茜 Illustration by Akane Tomita
取材期間◉2019年10月31日~11月1日
出典◉PEAKS 2020年10月号 No.131
登って良し。眺めて良しの名峰。
さて、7/11あたりから先が、小谷温泉ルートの核心部となる。1時間ほどハシゴも混じる急なガレ場の登りでぐんと標高を上げる。日差しを遮るものはなく、秋とはいえ強い日射しがじりじりと岩肌に照りつけ、また汗が噴き出してくる。先ほどまでの、のんびりとしたブナ林の雰囲気と同じ山とは思えないほどの急変ぶりである。
この9/11まで続く急登を登り切った先で、さらに山容はガラリと変わる。山の上にあたり一面の笹原が現れるのだ。秋の風がそよぎ、黄色くなり始めた熊笹が一斉に首を傾げる。葉が擦れ合う涼しげな音が響き、汗を吹き飛ばしてくれる。秋は笹ばかりが目立つが、夏には標高に見合わないほど豊かな高山植物のお花畑になるらしい。串田孫一の著書に、雨の雨飾山でツエルトを張って野宿をする場面があるのだが、行程の描写からして、きっとこのあたりに違いない。この場所で泊まったら、きっと夜空には一面の星。雨の日だったとして、しっとりと濡れた草原。さぞかし気持ちがいいだろうな。
笹平を抜け、小さな池を横目に最後の短い登りをこなせば、11/11の標識が据えられた山頂に至る。山頂は30mほどの距離にピークがふたつある双耳峰だった。日本海に北ア北部、黒姫、妙高、駒ヶ岳をはじめとする海谷山塊の鋭い岩峰まで見渡せる眺望は抜群。のんびりとコーヒーを淹れて、地図を片手に山座同定を楽しんだ。
山頂に置かれた古い石仏は、糸魚川地方のお坊さんが自身で石を刻み、ひとつずつコツコツと担ぎ上げたのものだそうだ。石仏は越後方面を見つめるように置かれていた。深田久弥は「左の耳は僕の耳、右ははしけやし君の耳」と、雨飾山をモチーフに妻に向けてロマンチックな詩を書いた。僕らが登ってきた大町・白馬方面から見上げたピラミッド型もかっこいいが、越後側から見ると猫のような可愛らしい双耳峰に見えるらしい。
紅葉を抜きにした純粋な登山対象と考えても、雨飾山はとても面白い山だった。パートごとに景色がめまぐるしく変わり飽きさせないし、標高以上に登り応えがしっかりある。山頂からの景色もすばらしい。名前も洒落ているし、そしてなにより、遠くの山頂や麓から眺めた姿は魅力的だ。眺めて良し、登って良しの山である。
以前、妙高に登った後に、近くの野尻湖でキャンプをしたことがある。ひとりの先輩は、せっかくだから明日は雨飾山に登りに行こうじゃないか、と提案した。しかし、すでに3日ほど山を歩き、もう登山欲が満たされていた僕ともうひとりは、野尻湖で釣りをしながらゴロゴロすごすほうを選んだ。
翌日、目覚めると先輩はもういなかったが、お昼ごろに「今日の雨飾は快晴で良い山でした」とメールが届いた。「散々登ったばかりなのに、本当に好きだね、あの人は」と残された僕らは笑ったものだが、この山の魅力を知ったいま誘われたら、雨飾山行きを選ぶかもしれない。
*
表情豊かな雨飾山登山を満喫し、僕らの登山欲はすっかり満たされていた。しかし、紅葉欲だけはいまだ満たされ切っていない。そこで近くで紅葉していそうな山を探し直し、予備日として設定していた1日を使って登ることにした。雨飾山で最盛期だった標高、斜面の向き、樹種、道中で人に聞いた話などなど。持てる知識とツールを総動員し、その晩は麓のビジネスホテルでリサーチしまくった。
結果、マイコンピューターが弾き出した答えが高社山。耳なじみのない山かもしれないが、長野盆地と飯山盆地の境に位置し、山麓から見た美しい姿から「高社富士」とも呼ばれる独立峰だ。こちらも双耳峰の信州百名山のひとつで、標高は1500mにも満たない。
僕らは最終的にこの山で無事に紅葉を当てることができたのか。その結果は、冒頭(前編)の写真をご覧いただけたら明らかだろう。
タイミング次第では貸し切りもあり得る! 紅葉真っ盛りの山ですごす贅沢な時間。
山が小さくなった分、僕らは休み休み、ゆっくりと念願の紅葉のなかで贅沢な時間をすごした。山中で出会ったのは、地元在住の山好きな教師の2人組だけ。場所さえ選べば、紅葉真っ盛りの山だって、ほぼ貸し切りで歩くこともできるってわけだ。
深田久弥は3度目の挑戦でやっと登ることが叶った雨飾山について、「山は心をあとに残す方がいい」と書き記している。
これは登頂だけに限った話ではない。たしかに山は幾度か登り損ねたり、天気に恵まれなかったくらいのほうが、遥かに記憶に深く残る山になる。登頂したときの喜びや紅葉の美しさは、山の知名度や標高には関係なく、そこに至るまでの過程こそが尺度になり、それぞれの心に残るのである。
紅葉を当てるTIPS ❸「天気が明確な年は当たり年?」
紅葉が美しく色づくためには、昼と夜の寒暖差、適度な陽射しと湿度が必要不可欠。つまり天気が明確なほうが良い。寒い日はしっかり寒く、暑い日はとにかく暑い。天気の日はカラッと晴れ、雨の日はドバッと降る。そんなわかりやすい天候が続いたら期待は大だ。
※雨飾山では近年紅葉時期の混雑が著しく、2021年10月の土日は入山規制が行なわれます。詳しくは小谷村の公式ページをご確認ください。
>>>ルートガイドはこちら
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文◉池田 圭 Text by Kei Ikeda
写真◉宇佐美博之 Photo by Hiroyuki Usami
イラスト◉富田 茜 Illustration by Akane Tomita
取材期間◉2019 年10月31日~ 11月1日
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。