BRAND

  • FUNQ
  • ランドネ
  • PEAKS
  • フィールドライフ
  • SALT WORLD
  • EVEN
  • Bicycle Club
  • RUNNING style
  • FUNQ NALU
  • BLADES(ブレード)
  • flick!
  • じゆけんTV
  • buono
  • eBikeLife
  • HATSUDO
  • Kyoto in Tokyo

STORE

  • FUNQTEN ファンクテン

MEMBER

  • EVEN BOX
  • PEAKS BOX
  • Mt.ランドネ
  • Bicycle Club BOX

ゴーラン・クロップ 【山岳スーパースター列伝】#21

文◉森山憲一 Text by Kenichi Moriyama
イラスト◉綿谷 寛 Illustration by Hiroshi Watatani
出典◉PEAKS 2015年12月号 No.73

 

山登りの歴史を形作ってきた人物を紹介するこのコーナー。
エベレストを舞台に、ちょっとユニークな、しかしだれも真似できない冒険を行なった男の話。

 

ゴーラン・クロップ

1996年にエベレストで、いまでも語り草になっているほどの大量遭難が起こった。

経験豊富なガイド2人を含む8人が死亡したこの事故は、大々的に報道され、登山隊に参加していた作家ジョン・クラカワーの著書『空へ』がベストセラーになったこともあり、ご記憶の方も多いだろう。

エベレスト史上未曾有のこの悲惨な事故と同じ時期に、ひとりの男が首尾よく登頂を成功させていたことはあまり知られていない。その男こそ今回の主役、スウェーデンの登山家であり冒険家、ゴーラン・クロップである。

クロップがエベレストに向けてスウェーデンの自宅を出発したのは1995年の10月。登頂に成功したのは翌1996年の5月23日。あれ? 7カ月もなにやってたんだ? と疑問に感じたあなた、驚いてほしい。彼はスウェーデンからネパールまで全行程約1万kmを自転車でアプローチしたのだ!

ベースキャンプに着いたクロップは、自転車のキャリアに積んできた登山装備を身につけ、シェルパの助けも酸素ボンベも使わず、ひとりでエベレスト頂上を往復して、また自転車でスウェーデンに帰っていった。これぞリアル・オール人力。パーフェクトな登山スタイルだと思いませんか!

当時、そのニュースを聞いたときには、さらりと大仕事を成し遂げて自転車で去っていく男の後ろ姿が頭に浮かび、そのあまりのクールさにしびれる思いがしたものだった。

だがしかし、一部の好き者(私とか)には賞賛されたものの、大遭難の報道の嵐に隠れて、クロップの偉業はそれほどクローズアップされることはなかった。自転車でアプローチという方法がなにかイロモノ的で、パフォーマンス狙いの怪しいやつと見られてしまった部分もあったのかもしれない。

ところがクロップの記録を見てみると、イロモノどころか相当に強力な登山家だったことがわかる。

まず第一に、完全ソロ+無酸素でエベレストに登頂していること。これができるのは、現代でも、トップクライマーと呼ばれるほんのひとにぎりの人に限られる。

しかも彼はこの年、シーズンインの先陣を切って山頂直下100mほどまで接近している。トレースもなく、周囲にだれもいない8,000m超の場所をひとりで進んでいくことがどれだけ大変なことか。他の隊がすでに行き交っているルートをソロするのとはわけが違う、文字通りのソロを行なっているのだ。

時間的にヤバくなったことからこのときは山頂直下で引き返しているが、この判断がまた鮮やかで、これはその1週間後に大量遭難が起こっていることを考えると、なおのこと際立つ。突っ込むだけではないクレバーさも持ち合わせているのである。

一度撤退したクロップは、悪天候を予想していたのか偶然かはわからないが、大遭難が起こったときはベースキャンプにいた。そしてあらためてコンディションを見極めて登頂を果たす。

その後知ったのだが、クロップはぽっと出の冒険野郎ではなく、エベレスト以前にすでに多くの経験を積んでいた。

エベレストの3年前には、エベレストよりはるかに難しいK2にも登っており(スウェーデン初のK2登頂者)、8,000m峰3座の登頂経験があった。それだけでなく、ヨーロッパアルプスやアンデス、中央アジアなどで高峰登山をいくつも行なっており、十分な実力者だったのだ。

だが晩年は、あまり恵まれていなかったようである。ここはウィキペディアからの情報なので詳しいことが定かではないのだが、母国スウェーデンではトラブルや批判に見舞われ、それに嫌気がさしたのかアメリカに移住してしまう。本人のせいなのか不運なのかはわからないが、満足のいく賞賛は母国でも得られなかったのかもしれない。

その名前も忘れていたころ、アメリカのクライミング雑誌を読んでいた私は、ニュース欄に久しぶりにクロップの名を見つけた。「スウェーデンの登山家、岩場で墜死」という見出しで。

クロップがクライミングを続けていたことにうれしさを感じながらも、なんともいえないショックを受けた。没年35歳。まだまだ活躍できたはずだ。もし生きていたら、どんな奇想天外な冒険を見せてくれていたのだろうか。

 

ゴーラン・クロップ
Göran Kropp
1966年~2002年。スウェーデン出身の冒険家。エベレストのほか、K2、チョー・オユー、ブロードピークの3山の8,000m峰に登頂。北極圏スキー冒険行なども行なっている。

SHARE

PROFILE

森山憲一

PEAKS / 山岳ライター

森山憲一

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

森山憲一の記事一覧

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

森山憲一の記事一覧

No more pages to load