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服部文祥 【山岳スーパースター列伝】#24

文◉森山憲一 Text by Kenichi Moriyama
イラスト◉綿谷 寛 Illustration by Hiroshi Watatani
出典◉PEAKS 2016年4月号 No.77

 

山登りの歴史を形作ってきた人物を紹介するこのコーナー。
過激な言葉と行動で、現代登山にケンカを売り続けるサバイバーの登場である。

 

服部文祥

ご存じサバイバル登山家である。

尋常ならざる目力でこちらを見すえつつ、魚の皮を口ではいだり銃をかまえたりしている不敵な面構えのあの男――といえば、その顔が頭に浮かぶはずだ(三島由紀夫にちょっと似ていると思っているのは私だけかな?)。

何冊もの著書で知られるだけでなく、雑誌やテレビ、講演などでも活躍しており、いまや現役世代の登山家としては国内五本指に入る知名度を誇っているのではないだろうか。2016年には「梅棹忠夫 山と探検文学賞」を受賞し、ついに文学賞作家ともなっている。その名は服部文祥。

彼の代名詞となっている「サバイバル登山」とはなにか。鹿を銃で撃ち殺している生々しい映像や写真ばかりが印象に残るので、サバイバルゲームの本格版くらいにとらえている人も少なくないかもしれない。だが、服部にとって鹿を撃ったりイワナを食べたりするのは手段でしかない。真の目的はほかにある。

登山の進化はいまや極まり、酸素ボンベやボルト、ハシゴなどの人工器具を駆使すれば、ヒマラヤ8,000m峰ですら安全確実に登れるようになった。しかしその方向を突き詰めた先になにがあるのか。ヘリコプターで山頂に立つのとなにが違うのか。そういう根源的な疑問に気づいてしまった登山家たちは、無酸素登山を始め、フリークライミングを始めた。

服部が行なっていることも同じである。彼はそれをさらにラジカルに突き詰め、仮に丸腰で山中に放り出されたとしても登山を完遂できる技術と知恵を身につけようとしている。そのために道具を捨て、食料もその場で調達する。身ひとつで自然と対峙してこそ登山なのではないか。そういう問いが、サバイバル登山の本質なのである。

さて、そのサバイバル登山については、ほかでいくらも語られているのでここでは掘り下げない。今回はちょっと私の自分語りをさせていただきたい。

私は服部とほぼ同世代である。そしてほぼ同時期に、私は『山と溪谷』、服部は『岳人』の編集部員として働き始めた。両誌は長年の競合関係にあった。さらに、私も彼もハード系の登山を好みとしている。となると、ライバル意識が芽生えるのは当然。服部がどうだったかは知らないが、少なくとも私はそうだった。

とはいえ登山の実力ではかなうはずもなかった。服部はK2登頂という輝かしい実績を持ち、私が必死に登ったルートをこともなげにフリーソロする技術もある。文章を書かせても、彼は編集業を始める前からすでに目立ってうまかった。

豊富な登山実績と登山家人脈、そして持ち前の卓越した文章力をもって、服部はたちまち岳人編集部で頭角を現していく。手がけた記事は業界で話題となり、自らの筆によって記事中で過激なアジテーションを繰り広げてもいた。そのころ私は、新製品発売なんていうモノクロの情報ページをちまちま作っていた。

その後も、上梓した『サバイバル登山家』が好評を博し、服部は雑誌編集部員の枠を超えて活躍の場を広げていく。私はといえば、相変わらずしがないサラリーマン編集者だ。

ところで服部は、私と同じ年に新卒で山と溪谷社の入社試験を受けている。私は内定を得、服部は落ちた。それが私のささやかなプライドを支える事実だった。

10年以上たってから、このときの試験官を務めた人が、もう時効だからと試験結果を教えてくれたことがある。それによると、私はなんと筆記試験が全受験者中1位だったというのだ。一方、服部は。

「彼はね、点数が話にならなかったんだよ」

勝ったぜ――。

私はこの日、上機嫌で家路についた。なにしろ、あの服部文祥についに一矢報いることができたのだから。当の服部はそんなことを知るよしもないとしてもだ。

服部はこのページを毎月読んでいるという。だとすれば、この文章も必ず読むだろう。いま、あなたは20年越しに敗北の事実を知るのだ。

どうだまいったか! 服部文祥!

 

服部文祥
Hattori Bunsho
1969年神奈川県生まれ。東京都立大学ワンダーフォーゲル部で登山を始め、1996年にK2(8,611m)登頂。同年に『岳人』編集部に加わり、長年にわたって同誌を支え続けている。著書に、『サバイバル登山家』(みすず書房)、『息子と狩猟に』(新潮社)、『サバイバル家族』(中央公論新社)などがある。

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PROFILE

森山憲一

PEAKS / 山岳ライター

森山憲一

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

森山憲一の記事一覧

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

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