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<海抜0mからエベレスト山頂まで歩いて登った男> ティム・マッカートニー・スネイプ 【山岳スーパースター列伝】#45

文◉森山憲一 Text by Kenichi Moriyama
イラスト◉綿谷 寛 Illustration by Hiroshi Watatani
出典◉PEAKS 2018年1月号 No.98

 

山登りの歴史を形作ってきた人物を紹介するこのコーナー。
だれもが思いつきはするけれども、だれもやれなかった壮大な登山旅行を実現した男の話。

 

富士山に登ったことのある人は多いと思う。登山道は一直線の登りになるので体力的にはなかなかきつく、山頂に達したときは満足感や達成感を覚えたはずだ。しかしそのうち何人かは、同時に、こんな疑問を抱いたに違いない。

「富士山の標高は3,776mだけど、登り始めた五合目は2,400m。ということは、自分は富士山を3分の1しか登っていないことになるのでは?」

そう感じた人はそれなりにいるようで、駿河湾から富士山山頂まですべて歩いて登ったという記録をたまに見かける。途中まで車で運んでもらったのでは、その山の大きさを本当に体感したことにはならない――こうした感情は、山登りをするものとしてはよく理解できる。

しかし、富士山ならそれはできても、海外の高峰となるとどうか。その究極はエベレストということになるが、そこを標高0mから歩いて登るとなると、1,000kmも歩いていかなければならない。

だが、世界は広い。そんな途方もなくバカげた登山を実際にやった人はやはりいた。オーストラリアのティム・マッカートニー・スネイプである。

1984年、オーストラリア人として初めてのエベレスト登頂者となったティムは、友人のあるひと言にハッとさせられる。

「ティム、きみは確かにエベレストの山頂に立ったが、8,848mを本当に登ったと言うには、標高0mから登らないといけないんじゃないか」

この友人は映像作家で、あわよくばその冒険を作品にしたいという下心からこうけしかけた疑いも強いのだが、真面目なティムは「それはそのとおりだ」と思ってしまう。そして、追い打ちをかけるようなこのひと言で、実行を決意してしまうのだ。

「それをやったやつは、まだひとりもいない」

いまでこそエベレストは多くの人が登るようになったが、1984年当時は、ひとにぎりのエキスパートにのみ許される場所だった。 ティムは、そのエベレストを新ルートから無酸素で登頂。そのほかにも、アマダブラム北稜やガッシャブルムⅣ峰北西稜など、困難なことで知られるルートの覇者でもある。オーストラリアにかぎらず、世界的な実力者でもあった彼は、この0mチャレンジにも、非常に野心的な計画を立てた。

スタートは、インドのベンガル湾に面する海岸。そこから約1,000km先のエベレストまで歩いていき、難ルートとして知られる西稜から単独無酸素で山頂に立つというものだ。ノーマルルートではなく西稜を選んだのは、ほかの登山者がおらず、純粋な単独登山ができるため。途中に現れる幅1kmほどのガンジス川は、渡し船に乗ったら人力踏破ではなくなるとの思いから、泳いで渡るという徹底ぶりである。とにかく真面目なのだ。

そうして1990年2月、インドの海岸を歩き始めたティムは、計画通りに1,000kmを歩ききった。最後の最後、迷った末に登頂ルートをノーマルルートに変更したものの、出発から3カ月後の5月11日、ついにエベレスト山頂に立ち、8,848mを自身の力のみで登った初めての人物となった。

この登山をティムは「シー・トゥ・サミット(海岸から山頂へ)」と呼び、記録を記した自著の副題にも付けている。

シー・トゥ・サミット――ん? なにか聞き覚えがないだろうか? そう、あなたも持っているであろう、あの登山ギアブランドだ。

スタッフバッグなどの小物アクセサリー用品で知られ、いまでは寝袋やマット、クッキングギアなども開発するメジャーブランドとなった「シートゥサミット」。ティムはその共同創業者であり、自身のチャレンジをブランド名に採用したのである。

先鋭的アルピニストだった人物が創業に関わった会社ならばクライミングギアブランドかと思いきや、シートゥサミットはご存知のとおり、小物やキャンピングギアに強いブランドである。そこには、困難の追求よりも内面の探求に関心を寄せるティムの登山観が影響しているような気がする。

彼にとっては、ヒマラヤ登山といえど、本質は旅なのだ。そんな人物であるからこそ、こんな登山が実現できたのだろう。

 

ティム・マッカートニー・スネイプ
Tim Macartney-Snape
1956年、タンザニア生まれのオーストラリア人登山家。ニュージーランドの山で本格的登山の経験を積み、1984年にエベレスト北壁の無酸素初登攀に成功。1990年に行なった海岸からのエベレスト登頂のようすは自著『EVEREST:from Sea to Summit』(邦題:エヴェレストへの長い道)に詳しい。このときのチャレンジを社名としたギアメーカー「シートゥサミット」をローランド・タイソンとともに創設。
https://www.timmacartneysnape.com

 

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PROFILE

森山憲一

PEAKS / 山岳ライター

森山憲一

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

森山憲一の記事一覧

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

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