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<空白の五マイルな男> 角幡唯介 【山岳スーパースター列伝】#47

文◉森山憲一 Text by Kenichi Moriyama
イラスト◉綿谷 寛 Illustration by Hiroshi Watatani
出典◉PEAKS 2016年12月号 No.85

 

山登りの歴史を形作ってきた人物を紹介するこのコーナー。
今回登場するのは、現代の探検登山家といえるこの男である。

 

精神修養を目的とする信仰登山などをのぞけば、登山の本質は探検である。「あの山の頂はどうなっているのか知りたい」。それがすべての出発点だ。 マッターホルンもエベレストも、そういう単純な目的に基づいて登頂されてきた。さまざまな登山技術や装備も、この目的を実現するために発展してきたといっていい。

しかし現代では、めぼしい山はとうの昔に登りつくされているうえ、ヘリコプターや衛星写真の発達によって、行ってみないと状況がわからないという場所はなくなっている。探検としての登山は、すでに存在意義を失っているのだ。

ところが、終わったと思える「未知を追求する登山」にも、少ないながらも課題は残されている。それが沢登りという分野だ。人間が容易に入っていけない深い渓谷の奥は、衛星写真に写ることはなく、狭く複雑な地形のため、ヘリコプターなどでの上空からの観察でも全容を知るのは難しい。

たとえば2016年10月、立山称名川ゴルジュの完全遡行が果たされた。ここは、登山者や観光客であふれる立山室堂のすぐ下にありながら、強烈に切れ込んだV字渓谷になっており、進入はまず不可能。「日本最後の秘境」とされていたところだ。

遡行したのはクライマーとしても知られる大西良治。彼は、卓越したクライミング技術と13日という途方もない時間をかけて、完全遡行に成功。深いV字谷の奥底に流れる川のありようを人類の目に明らかにした。これは、日本の登山に何十年ぶりかに大きな発見をもたらした画期的な登山といえる。

それ以前の2003年に、同じようなことをヒマラヤでやった日本人がいる。それが今回の主役、角幡唯介である。

現在ではノンフィクション作家として活躍している角幡は、2002年から2003年にかけて、ヤル・ツァンポーという川の地理的空白地帯を単身で明らかにした。

ヤル・ツァンポーというのは、ヒマラヤ山脈を取り巻くように流れる全長約3,000kmにもおよぶ大河川。その核心地帯は複雑に屈曲し、標高差1,000mを超える岩壁に囲まれた大峡谷となっている。古くから各国の探検家がその流れを明らかにするべく探検を繰り返してきたが、地形のけわしさに阻まれて、どうしても進入できない区間が残されていた。

その区間わずか8km(約5マイル)。課題がここまで絞られれば、その達成の成否を左右するのは、組織ではなく個人の力だ。角幡は、長期間無補給で動き続けられるだけの軽量装備と食料を用意し、危険な高巻きを重ね、ときにロープも駆使して、この大峡谷踏破に成功した。

ヒマラヤ探検史のなかでも大きな意味をもつヤル・ツァンポーの解明に、現代の日本人青年がたったひとりで最終決着をつけたのである。いったいなぜそんなことが可能であったのか。それは角幡が日本人であることに関係がある。

大西ほどではないにしろ、角幡も優れた登山技術をもっている。ヤル・ツァンポー以前にも、国内ではアルパインクライミングや沢登りを日常的に行なっていた。沢登りというのは日本独特の登山形態といわれる。そこで必要になる技術や装備は日本で独自の発展を遂げた。一方で、海外の登山者はこういう登山に慣れていない。

角幡は、ヤル・ツァンポー探検を「渓谷登攀」ととらえ、沢登りの方法論をもって、この大峡谷に挑んだ。スケールこそ違え、技術的難度においては、ヤル・ツァンポーより難しい渓谷は日本にいくらでもある。角幡が首尾よく踏破を成功させたのは当然のことだったのだろう。

ところで先日(注・2016年)、その角幡が、大学探検部の先輩にあたるノンフィクション作家・高野秀行と対談した本『地図のない場所で眠りたい』が文庫となって出版された。対談原稿の作成は、同じ大学探検部出身の私が行なった。気のおけない関係だからこそ引き出すことができた、角幡本人の意外な一面や、探検行や創作活動の裏側などもわかる興味深い一冊となっている。購入いただけると私にも印税が入るというすばらしい事実を最後にお伝えして、本稿を終えたいと思う。

 

角幡唯介
Kakuhata Yusuke
1976年生まれ。北海道出身のノンフィクション作家。1990年代からヤル・ツァンポーの地理的空白地帯を追求。朝日新聞記者を経て、ノンフィクション作家として独立後は、北極圏を舞台にして探検活動を続けている。主な著書に『空白の五マイル』『極夜行』などがある。
https://blog.goo.ne.jp/bazoooka

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PROFILE

森山憲一

PEAKS / 山岳ライター

森山憲一

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

森山憲一の記事一覧

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

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