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7年越しの1枚。人類初の1枚。|旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #2

ライチョウ。正しくはニホンライチョウと称し、古来からの山岳信仰において「神の鳥」とも崇め奉られている野生動物である。 私と彼らとの馴れ初めは後日改めて語らせいただくとして、サラリーマンを辞めて山小屋従業員なりその後写真家として独立するくらいには彼らに熱を上げている。これから私がいままで出会った彼らのポピュラーな姿から知られざる生態まで写真とともにお届けしようと思う。

編集◉PEAKS編集部
文・写真◉高橋広平

「月下に集う」

北アルプス某所、2月の真夜中。膝ほどの積雪を掻き分けて標高を上げていく。

満月の雪山はそれなりに明るく、目を慣らすために照明は灯さない。汗をかくと低体温症の引き金にもなるので歩調は常時1速を保ち発汗を抑える。彼らとの待ち合わせにはおおよそ5分前に到着するようにしている。厳冬期の夜はひたすらに寒い。少しでも動いて熱を生産するために待機時間を少しでも減らす。幾重もの試行の末に導き出した安全策である。それでも撮影山行後しばらくの間は寒さによって足先が痺れたままなので、人間の身にはとことん過酷な環境である。

構想からおよそ7年、生態を調べ上げ、失敗を重ね、ひとつひとつ課題を乗り越え、ついにその時はきた。

闇夜に浮かぶ暁月のみが光源。満月を選んだのは画的な理由もあるが、少しでも露出を稼ぐためだ。もちろん雲がかかればその僅かな光明も消え失せる。

背からザックを下ろし、カメラを手に取り電源を入れる。設定を確認し、「動いているライチョウを捕捉できる最低限のシャッタースピード」を確保、あとはできうる限り露出確保にまわす。

感覚を研ぎ澄まし、無音の森林限界で彼らの気配を待つ。

……羽音。

左舷前方50mに飛来。正面前方にも別の気配を察知。続いて他数羽の気配も確認する。

月夜の雪原が賑やかさを増す。

越冬中のオス同士の群れは小競り合いをしながら春を待つ習性があり、たとえ寝起きであっても血気盛んな者はいる。自然と集まった彼らを思い描いた構図に落とし込むために私も動き出した。

「月、正面、植生、稜線位置……」動くライチョウたちの行動予測をしつつ、その構図に合わせるために全力の膝ラッセル走行を敢行する。イメージが現実になるのはおそらく一瞬。激しく脈打つ心臓、悲鳴を上げる肺、当然であるが動く被写体を狙い撃つために三脚などは使用しない。手持ちのカメラを支えるのは締めた脇と両手の握力、最後は息を止めてファインダーを覗き込み、マニュアルでピントを合わせ、シャッターを切る。

そして高所で全力疾走をした直後、しばらく息を止めるという狂行を強いられた心肺機能は限界を迎え、その場に大の字になって私はぶっ倒れた。

……彼らのそれほど美しくない合唱を聴きながらの昏倒は、なかなかに筆舌に尽くしがたい心地良さではあったが、寝たら戻って来られないので少しだけ堪能し、息を整え上体を起こす。

切り取った画には、4羽のライチョウと輝く満月が写っていた。

今回の作品は2019年2月撮影「月下に集う」。
厳冬期着手から10年、構想から7年の歳月をかけて撮影したものである。
彼らの生態を調べ上げ、研究者たちも見たことのない状況を独力で特定し記録に残した、人類初(※)の1枚である。

※厳冬期(1、2月)の北アルプス山中において、夜間に満月のもとで集団を形成するライチョウたちを撮影した人類で初めての写真である。

 


 

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PROFILE

高橋広平

PEAKS / 雷鳥写真家・ライチョウ総合作家

高橋広平

1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。
Instagram : sundays_photo

高橋広平の記事一覧

1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。
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