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<そこに山があるから> ジョージ・マロリー 【山岳スーパースター列伝】#55

文◉森山憲一 Text by Kenichi Moriyama
イラスト◉綿谷 寛 Illustration by Hiroshi Watatani
出典◉PEAKS 2013年10月号 No.47

 

山登りの歴史を形作ってきた人物を紹介するこのコーナー。
今回のスターは100年も前に活躍した当時のトップクライマー。「そこに山があるから」のあの人である。

 

そこに山があるから――か。

言ってみたいな、そんなセリフ。

「ねえ、なんで山登りするの?」

「ふ……そこに山があるからさ」

 

ジョージ・マロリー

このナルシスティックな言葉を本当に、しかも新聞記者に向かって発したといわれているのがジョージ・マロリーである。

いまから100年前の1923年、エベレストに世界初登頂をしようとしていた彼は、記者になぜ登るのかと聞かれてそう答えたという。そのときに言った言葉は、正確にいえば「Because it is there」。

「なぜ山に登るのか」という問いへの答えとして世界的な定番となっているこの言葉だが、考えてみれば意味がよくわからない。まるで禅問答のようだ。それだけ聞くと、マロリーはキザな言葉を吐いて記者を煙に巻くイヤなやつ、というイメージしか湧いてこない。

しかしマロリーの真意は「そこに山があるから」という漠然とした話ではなく、「そこにエベレストがあるから」という、もっと具体的なことを意味していたのだといわれている。つまり「it」は山一般をさしているのではなく、ずばりエベレストをさしているのだと。

エベレストはいうまでもなく世界最高峰であり、当時はまだだれも登っていなかった。だれも到達していない頂点が存在する以上、目指さないわけにはいかないという意味だろう。

そう考えれば新聞記者の問いは、世界記録をねらっている陸上選手になぜ世界記録をねらうのですかと聞くようなもの。イヤなやつ、というか間抜けなやつは新聞記者のほうだったのだ。

その後マロリーはエベレスト山頂付近で行方不明になってしまったので、その名が歴史に刻まれることはなく、「そこに山があるから」という言葉だけが有名になってしまった。ところが登山関係者の間では、彼はある種のミステリアス・ヒーローとして語り継がれることになった。なぜか。

「マロリーは山頂に立ったのではないか?」という可能性を捨てきれなかったからである。

マロリーはアンドリュー・アービンという男とふたりで頂上に向けて最終キャンプを出発し、ふたりとも帰ってこなかった。頂上直下にはセカンドステップと呼ばれる岩場がある。当時の技術と装備でそこを越えられたかどうかは怪しい。だから頂上までの途上どこかで滑落でもしたのではないかと考えるのが順当な見方だ。

しかし。

マロリーは写真で見ると登山家というより音楽家というイメージの優男だが、クライミングセンスは抜群なものを持っていたらしい。「やつならもしかして……」

エベレストが初登頂されたのは1953年。マロリーが山頂に立っていたとしたら、登山史は大きく書き換えないといけない。いや、登山史にとどまらない世紀のスクープだ。

それは70年以上解明されることのない登山史最大の謎だったのだが、1999年、ついにマロリーの遺体が発見された。発見したのはアメリカの登山家、コンラッド・アンカー。アンカーは、現在ではハシゴが架けられているセカンドステップをハシゴを使わずに登ってその難しさも確かめた。

それらの調査結果から、マロリーは山頂には立っていないだろうというのが現在の定説になっている。70年以上、世界のジャーナリストにあることないこと憶測を書き立てられ続けたマロリーにも、やっと安らかな時間が訪れたのである。

その後アンカーは、レオ・ホールディングというクライマーとともにマロリーをテーマにした「The Wildest Dream」という映画に出演している。偶然にも私はこのふたりと会ったことがあり、コンラッドとは豚の角煮を、レオとは寿司を一緒に食べた。それがどうしたと言われれば、ただそれだけなのである。本当に関係ない話ですみません。

 

ジョージ・マロリー
George Herbert Leigh Mallory
1886年~1924年。イギリス出身の登山家。10代中頃に登山を始め、ヨーロッパアルプスや母国のレイクディストリクトで登山の腕を磨く。第一次世界大戦従軍後、1921年に初めてエベレスト遠征に参加。翌1922年にもエベレストに赴き、8,321mという到達高度を記録。1924年、3度目のエベレスト挑戦中に行方不明となり、1999年に遺体が発見された。

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PROFILE

森山憲一

PEAKS / 山岳ライター

森山憲一

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

森山憲一の記事一覧

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

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